ルボーク
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題材
ドミートリー・ロヴィンスキー(1824年-1895年)は代々貴族・軍人の家に生まれた法律家であるが、ルボーク研究を確立し、研究の集大成として『ロシア民族絵画』(1881年)を著した。また、ロヴィンスキーはルボークを以下12のカテゴリーに分類した[20]。
1. 昔話もの 2.歴史もの 3.ロシア人・外国人肖像画 4.地図と風景画 5.異国の町と住人 6.カレンダーと予言 7.文字いろはと表 8. 福音書の教訓 9.「大鏡」その他の書物からの教訓 10. 聖書の挿絵 11.祭日 12.救世主・聖母・聖人の図像
また、ロシア国立図書館(ロシア・ナショナル・ライブラリー)刊『ロシア絵画における伝統と革命』では以下の順で10種類に分類されている[21]。
1. 宗教的場面 2.政治的・社会的風刺 3.動物世界 4.ヒーロー 5.愛・求愛・結婚 6.ユーモア 7.世俗的モラル 8.時代の不思議 9.フェアと社会的集まり 10.今日的作品
代表的なルボークに以下のものがある。
『床屋のヒゲきり』
18世紀前半の作とされるルボーク。大きさは35.3×29.6cmで、左上と右上に次の様な短い文章が書かれている[22]。
右「床屋は分離派教徒のヒゲを切ろうとする」
左「分離派教徒曰く--- なあ、床屋よ、おれはヒゲを切られたくない。待て、待て、見張りを呼ぶぞ」
1698年に西欧遊学から帰国したピョートル1世は、ロシアの近代化改革の一環として1699年にヒゲ切りを法令化(ひげ税)、1705年に服装の規範を定め口髭・顎鬚を剃ることを義務化するなどしたが、髭を生やすことはロシアでは古来からの伝統である上、16世紀半ばの百章令(ロシア語: Стоглав、百箇条集)第40章には「正教徒たるものはヒゲを剃らず」とも記されていることから宗教問題の側面も持ち合わせており、一般民衆のみならず特に保守的な正教古儀式派(旧教徒、「分離派」は国家教会側からの蔑称)からの反発を招いていた[23]。ヒゲを切られそうになっている左の男の方がむしろ大きく堂々とした様子で描かれていることからも、当時の世相が窺える[24]。
『赤鼻ファルノスが豚に跨る』
1760年代に摺られたルボーク。大きさは36.5×29cm。赤鼻のファルノスはロシアの伝統的人形芝居の主人公ペトルーシカと同一視され、右『ファルノスと妻ピガシャが酒場にやって来た』などファルノスを題材としたルボークは複数ある。当時の民衆文化に浸透していた放浪芸人スコモローフや、道化師好きのアンナ女帝(在位1730年 - 1740年)お気に入りの宮廷道化師ペドリーロがファルノスのモデルになったとする説もある[25]。
ファルノスに代表される道化師のルボークは18世紀前半に人気があったが、エカチェリーナ2世(在位1762年-1796年)の時代、宮廷に道化師などを置くことが流行すると道化を描いたルボークは販売されなくなった[26]。
『ヤガー婆さんとワニの争い』
1760年代のルボーク。大きさは29.5×36.5cm。ヤガー婆さん(バーバ・ヤーガ)が豚に跨りワニに対峙する構図で、上部には次の文が書かれている[27]。
豚に跨るヤガー婆さん / 杵を手にしてワニと一戦交えるか / 両名の足下 茂みのかたわらには / 酒のはいったガラスビン
ロヴィンスキーは、ピョートル大帝と妻エカテリーナに対する風刺がこのルボークのテーマであるとした[28]。ロシアにはワニはいないが当時猛獣一般をワニと呼び[29]、また分離派教徒はピョートル1世をワニと呼んでいた。ワニの下に小さな船が描かれているが、これも自ら船大工として働く程船が好きであったピョートルを風刺したものである。ヤガー婆さんの着る服はエストニアの民族衣装風であり、このルボークは近代化・西欧化に反対する人々に人気があった[30]。
- ^ 坂内 (2006a), p.100
- ^ 坂内 (2006a), pp.179-186
- ^ 研究社露和辞典, p.950 луб および лубок の項
- ^ 横田 (1989), p.22
- ^ 坂内 (2006a), pp.10-11
- ^ 坂内 (2006a), pp.12-13
- ^ 坂内 (2006a), pp.13-14
- ^ 坂内 (2006a), p.15
- ^ a b 横田 (1989), p.22
- ^ 坂内 (2006a), pp.16-17
- ^ 坂内 (2006a), p.18
- ^ “"Russian Lubok (Popular Prints)."”. Alexander Boguslawski. 2011年9月2日閲覧。
- ^ 坂内 (2006a), pp.19-21,25
- ^ 横田 (1989), p.28
- ^ 坂内 (2006a), pp.26-29
- ^ 坂内 (2006a), pp.31-34
- ^ 坂内 (2006a), pp.35-36
- ^ 坂内 (2006a), pp.39-76
- ^ 坂内 (2006a), pp.77-93
- ^ 坂内 (2006a), p.97
- ^ 坂内 (2006a), p.99
- ^ 坂内 (2006a), p.101
- ^ 坂内 (2006a), pp.101-106
- ^ 坂内 (2006a), p.107
- ^ 坂内 (2006a), pp.115-121
- ^ 横田 (1989), p.27
- ^ 坂内 (2006a), pp.123-124
- ^ 坂内 (2006a), p.127
- ^ 坂内 (2006a), p.124
- ^ 横田 (1989), p.26
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