プラネット・ナイン 対立仮説

プラネット・ナイン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/02 02:25 UTC 版)

対立仮説

プラネット・ナインは遠方の太陽系外縁天体の軌道要素に見られる偏りを元に提唱された仮説上の天体だが、プラネット・ナインのような天体を想定しなくても軌道の特徴を説明可能だとする対立仮説も存在する。また、プラネット・ナインとは大きく異なる特徴や軌道要素を持つ未知の天体で説明可能とする仮説もある。さらに、軌道要素の偏りそのものが偶然であるか、見かけ上のものに過ぎないとする説もある。

一時的あるいは偶然の偏り

Outer Solar System Origins Survey (OSSOS) の研究結果では、太陽系外縁天体に見られる軌道の偏りは、発見されている天体数が少ないことと観測バイアスとの組み合わせによる見かけ上のものだということが示唆されている。OSSOS は既知のバイアスを考慮したよく特徴付けられた太陽系外部のサーベイプロジェクトであり、軌道長半径が 150 au を超え様々な軌道配置にある8個の天体を観測した。このサーベイにおける観測バイアスの影響を考慮した後、トルヒージョとシェパードによって同定された近日点引数の偏りの証拠は見られないとし[注 7]、最も遠方を公転する天体群の軌道はランダムな配置と統計的に一致するとした[107][108]

この結果は、ブラウンによって観測された eTNOs の発見バイアスの解析とは異なる結果である。彼は10個の既知の eTNOs の近日点黄経の偏りに関して観測バイアスを考慮し、もし軌道の分布が一様であるならば、偶然偏って見える期間はわずか 1.2% であることを見出している。これに近日点引数に見られる偏りも合わせた場合、偶然偏っているように見える確率は 0.025% になるとしている[109]。また後のブラウンとバティギンによる14個の eTNOs の発見バイアスの解析では、近日点黄経と軌道の極の位置の偏りが偶然である確率は 0.2% だとしている[110]

プラネット・ナインの影響を考慮した15個の既知の天体の進化のシミュレーションでも、いくつかの観測との差異が明らかになっている。Cory Shankman と彼の同僚は、軌道長半径が 150 au 以上、近日点距離が 30 au 以上の15個の天体を模擬した(同じ軌道にあると仮定した)多数の天体のシミュレーションに、プラネット・ナインの影響を取り入れた計算を行った。その結果彼らは軌道長半径が 250 au より大きい天体では軌道がプラネット・ナインとは反対方向に揃うのを確認したが、近日点引数の偏りは見られなかった。また彼らのシミュレーションでは eTNOs の近日点距離は滑らかに上昇と減少を起こし、観測では確認されていない、近日点距離が 50〜70 au の間にある天体を多数残すことが示された。この結果は、この軌道長半径の範囲にある多数の観測されていない天体が存在することを予測するものである[111]。この中には、大部分の観測は小さな軌道傾斜角を持った天体に対して行われているために見落とされているであろう高軌道傾斜角の天体や[78]、暗くて観測できないために見落とされている大きな近日点距離を持つ天体を多数含んでいる。これらの中には他の巨大惑星との遭遇によって太陽系から弾き出されたものも多くあるだろうと考えられる。観測されていない天体や失われた天体が多数あると考えられることから、この研究では合計で数十地球質量になる天体群が存在し、太陽系初期には大量の質量が外部に放出されていた必要があると推定された。Shankman らは、プラネット・ナインが存在する可能性は低く、現在観測されている eTNOs の軌道の偏りは一時的な現象であり、より多くの eTNOs が検出されるに連れ偏りは消えるだろうと結論付けた[99][111]

重い円盤中での傾斜角不安定

Ann-Marie Madigan と Michael McCourt は、遠方の重い円盤の中での傾斜角不安定が eTNOs の近日点引数の偏りの原因になっていると主張している。傾斜角不安定とは、小天体からなる円盤が太陽などの中心星を高い軌道離心率(0.6以上)で公転している際に発生する不安定性である。円盤の自己重力によって円盤が自発的な組織化を起こし、円盤中の天体の軌道傾斜角を増加させて近日点引数を整列させ、元々の軌道平面の上か下に円錐状に分布させるようになる[112]。この過程が発生するには長い時間と非常に重い円盤質量を必要とし、数億年程度の時間、1〜10地球質量の円盤が必要とされる[113]。傾斜角不安定は小天体の近日点引数を偏らせ近日点距離を上昇させることができ、そのため分離天体を形成することができるが、この過程では近日点黄経の偏りは発生しない[109]。ブラウンはプラネット・ナインがより適切な説明であるとし、傾斜角不安定を発生させるのに十分な質量を持つ散乱円盤の存在は現在の調査では明らかになっていないと述べている[114][115]。また、微惑星円盤の自己重力を取り入れた太陽系のニースモデルのシミュレーションでは、傾斜角不安定は発生していない。そのかわりに、シミュレーションでは天体の軌道の急速な歳差が生成され、大部分の天体は傾斜角不安定が発生するには短すぎる時間スケールで放出された[116]

重い円盤による羊飼い効果

Antranik Sefilian と Jihad Touma は、やや大きな軌道離心率を持った太陽系外縁天体の重い円盤が eTNOs の近日点黄経の偏りを引き起こしたという説を提唱している。彼らは、合計で10地球質量の太陽系外縁天体を含む円盤があり、軌道は揃っており、軌道離心率は軌道長半径が大きくなるに連れゼロから0.165まで変化しているという分布を予測した。この円盤の重力的な影響は巨大惑星によって駆動される前向きの歳差運動を相殺し、その結果としてそれぞれの天体の軌道の配置は維持される。観測されている eTNOs のような大きな軌道離心率を持った天体は、もし軌道が円盤と反対方向に整列していた場合は安定であり、おおむね固定された向きか近日点黄経を持つと考えられる[117]。ブラウンはこの提唱された円盤は eTNOs の偏りを説明可能であると考えているものの、この円盤は太陽系の年齢に渡って生き残ることは出来ないため、もっともらしくない説だと考えている[118]。またバティギンはカイパーベルトにはこの円盤の形成を説明するだけの十分な質量が無いと考え、「なぜ原始惑星系円盤が 30 au 付近で終わり 100 au より遠方で再び始まるのか」と疑問を呈している[119]

低軌道離心率の惑星

プラネット・ナイン仮説は未知の天体の質量と軌道に関する一連の予測を含んでいる。ある対立仮説ではプラネット・ナインとは異なる軌道要素を持った未知の天体の存在を予測する。Malhotra、Kathryn Volk と Xianyu Wang は、近日点距離が 40 au、軌道長半径が 250 au を超える最も長周期の4つの分離天体は、仮説上の惑星と n:1 か n:2 の平均運動共鳴を起こしているとする仮説を提唱した[120][121]。また軌道長半径が 150 au を超えるさらに2つの天体も共鳴を起こしている可能性があるとした。彼女らが提唱した天体はプラネット・ナインよりも軌道離心率と傾斜角が低い軌道である可能性があり、離心率は 0.18 未満、傾斜角は 11° 程度とされる。この場合、2010 GB174 への近接遭遇を起こさないためには、仮説上の惑星の軌道離心率は低い必要がある。もし eTNOs が第三種の周期軌道にあり、これらの安定性が近日点引数の秤動によって高められる場合は、天体は 40° 程度のより高い軌道傾斜角に存在する可能性もある。バティギンとブラウンの説とは異なり、Malhotra、Volk、Wang の説では、遠方の分離天体の大部分が重い天体の軌道と反対方向に揃った軌道を持つことを必要としていない[121][122]

遠方の太陽系外縁天体の仮説上の惑星との共鳴[121]
天体名 軌道周期
太陽中心
(年)
軌道周期
重心中心
(年)
軌道長半径
(AU)
2013 GP136 1,830 151.8 9:1
2000 CR105 3,304 221.59±0.16 5:1
2012 VP113 4268±179 4,300 265.8±3.3 4:1
2004 VN112 5845±30 5,900 319.6±6.0 3:1
2010 GB174 7150±827 6,600 350.7±4.7 5:2
セドナ ≈ 11,400 506.84±0.51 3:2
仮説上の惑星 ≈ 17,000 ≈ 665 1:1

古在メカニズムによる整列

トルヒージョとシェパードは2014年に、平均距離が 200〜300 au の円軌道にある未知の重い惑星が、大きな軌道長半径を持つ12個の太陽系外縁天体の近日点引数の偏りの原因であると主張した。彼らは、近日点距離が 30 au 以上、軌道長半径が 150 au 以上の12個の太陽系外縁天体の軌道の近日点引数が 0° 付近に偏っていることを発見した[2][22]。数値シミュレーションの結果、何十億年もの時間が経過するとこれらの天体の歳差運動の速度が異なることによって近日点はランダムに分布してしまうことを示し、軌道を偏らせるためには数百auの距離の円軌道にある重い惑星が必要であることを示唆した[123]。この重い天体は太陽系外縁天体の近日点引数を古在メカニズムを介して 0° か 180° の周囲を秤動させるため、これらの天体は惑星に最も近い点と最も遠い点である近日点と遠日点付近で惑星の軌道平面を横切ると予想される[22][70]。2〜15地球質量の天体を 200〜300 au の範囲の軌道傾斜角が小さい円軌道に置いた場合の数値シミュレーションでは、セドナと 2012 VP113 の近日点引数は数十億年にわたって 0° 付近を秤動し(近日点距離が小さい天体は秤動を起こさなかった)、1,500 au にある大きく傾いた軌道にある海王星質量の天体と秤動を起こす時期を経験した[22]。この仮説では、180° 程度の近日点引数を持つ天体が存在していないことを説明するためには、太陽系近傍の恒星の通過で取り除かれたなどの、さらなる過程が必要とされる[2][注 8]

これらのシミュレーションでは、一つの大きな惑星が小さい太陽系外縁天体をどのように似た種類の軌道に導きうるかという基本的なアイデアが示された。これは仮説上の天体の特定の軌道を算出するものではなく概念的なシミュレーションによる基本的な証明であり、仮説上の天体が取りうる軌道の配置は多数あると述べている[123]。そのため彼らは全ての eTNOs の軌道の偏りをうまく組み込んだモデルを完全には定式化していない[2]。しかし彼らは太陽系外縁天体の軌道に偏りがあること、およびこのもっともらしい説明は未知の遠方の重い惑星の存在であることに気が付いた初めての研究者であった。彼らの研究は、天王星の運動に奇妙な点があることに気が付き、それが未知の第8惑星からの重力による可能性が高いと示唆して海王星の発見に繋がったアレクシス・ブヴァールの研究と非常に類似している[126]

Raúl および Carlos de la Fuente Marcos は、似たようなモデルだが共鳴している2つの遠方惑星を仮定したモデルを提案している[70][127]。de la Fuente Marcos らが Sverre Aarseth と共に行った解析では、観測されている近日点引数の偏りは観測バイアスによるものではないことが確認されている。彼らは、軌道の偏りは太陽から 200 au 程度離れた軌道を持つ火星から土星の間の質量を持つ天体によって引き起こされたと推測した。トルヒージョとシェパードらの仮説と同様に、彼らも太陽系外縁天体は古在メカニズムによって偏った軌道の状態を維持されていると理論的に予測し、これらの運動を木星の影響下にあるマックホルツ第1彗星 (96P/Machholz) の振る舞いと比較した[128]。しかし彼らもまた未知の惑星1つでは太陽系外縁天体の軌道の整列を説明するのに苦労した。そのため彼らはこの未知の惑星自身は太陽から 250 au にあるさらに重い別の天体と共鳴状態にあると考えた.[123][129]。ブラウンとバティギンは論文中で、古在メカニズムを介した 0° と 180° 付近への近日点引数の整列を起こすためには、各外縁天体に対する未知の惑星の軌道長半径の比率は1に近い必要があることを指摘した。つまりこの仮説では観測データに合わせた軌道を持つ複数の未知の惑星が必要になることを示唆しており、この説明はあまりにも扱いにくいものであるとしている[2]







英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「プラネット・ナイン」の関連用語

プラネット・ナインのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



プラネット・ナインのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのプラネット・ナイン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS