ハリアー II (航空機)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/15 06:29 UTC 版)
設計
機体構造
上記の経緯より、本機はハリアーの発展型として開発されており、基本的な機体形状はほぼ同様であるが、構造重量の26パーセントを複合材料とすることで、合計約500ポンド (230 kg)の重量軽減を達成した[2]。複合材料としては、翼などではエポキシ樹脂を母材とした炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられているが、これは耐熱性が乏しいという欠点があり、エンジン付近の胴体などではビスマレイミド樹脂を母材としている[2]。
主翼は複合材料で作られた最大の部位であり、翼幅を5フィート延長して翼面積を2.69平方メートル拡大したにも関わらず、重量は300ポンド (140 kg)減少した[1]。主翼翼幅の延長に伴って、両側の下にハードポイントが追加されたほか、アウトリガー降着装置は内側に移動した[1]。前縁・翼端・ファスナーを除いて全てエポキシ系CFRP製であり、特に主翼上面・下面は全幅28フィート (8.5 m)のワンピース構造となっている[2]。水平尾翼も部分的にアルミニウム合金・チタン合金を使用するほかはエポキシ系CFRP製である[2]。
空気力学的特性の大きな変更点としては、遷音速域における抵抗減少を狙って、主翼の翼型を超臨界翼 (Supercritical airfoil) に変更した点がある[2]。後退翼の角度も40度から36度に減少した[1]。またフラップの増積によって離着陸性能が向上し、AV-8Aでは96ノットで揚力を失ったのに対してAV-8Bでは42ノットまで揚力を維持できるようになったほか、エルロンも増積されて、運動性能も向上した[2]。更にAV-8B量産機では、主翼付け根前縁に延長部(Leading Edge Root Extensions: LERX)が装着された[1]。これはイギリス空軍がハリアーGR.3の旋回速度改善のために開発したもので、AV-8Bでは、当初は片側翼面積0.45平方メートルを追加する「65%バージョン」[1]、ナイトアタック仕様では0.70平方メートルを追加する「100%バージョン」が装着された[1][2]。
胴体下部両側にはLIDS(Lift Improvement Devise Strake)が装着された[2]。これはAV-8Aが装着していた胴体下面両側の細いストレーキを大きく拡張したフェンスであり、下方に向けられたジェット噴流が地表や甲板に反射して吹き上がってきたものを胴体底面で捉えることで、垂直揚力を増強するための工夫である[2]。なおガンポッドを搭載する場合にはLIDSは取り外され、ポッド自体がその代用となる[2]。ただしLIDSは開閉式であるため、ガンポッド未装着でLIDSのフェンスが閉じられた状態では、AV-8Aと見分けるのは難しくなる[3]。なおエンジンの吸気を改善するためエアインテークが拡大されたほか、ラム圧が期待できないVTOL時の大出力に備えて、AV-8Aでは1列だった補助エアインテークをYAV-8Bでは2列に増やしたものの、量産型では1列に戻された[2]。
コックピットにおいては、YAV-8BではAV-8Aの風防をそのまま流用したが、AV-8BではAV-8Aと比してパイロットの視線が10.5インチ (0.27 m)高くなる位置に座席を配置するとともに、前方の風防も後方のキャノピーもそれぞれ一体のものとして、後方を含めて広い視野を確保した[2]。AV-8Bで射出座席として採用されたSJU-4/Aは、ゼロ高度・ゼロ速度で脱出可能であるだけでなく、ホバリングに近い状態での脱出も考慮して、座席が機体から離れた段階で前進用ロケットに点火して前進速度を加え、パラシュート開傘時間・空間を確保するようにしている[2]。
動力系統
エンジンは、AV-8Aではペガサス11の米海兵隊版であるF402-RR-401を搭載していたのに対し、AV-8Bではペガサス11-21の米海兵隊版であるF402-RR-406に換装されたものの、これによるパワーアップは3パーセントにも満たなかった[3]。また上記の主翼面積増大に伴う空力抵抗の増加もあって、機体の軽量化が図られたにもかかわらず、水平最大速度はおおむね40ノットの低下となった[2]。また脚上げ・フラップ上げ状態での最大許容速度は、AV-8Aではマッハ1.2だったのに対し、AV-8Bではマッハ1.0となり、例え急降下でも超音速で敵機を追尾することは許されない亜音速機となった[2]。
ロールス・ロイス社では、再設計したファンを組み込むなどしたペガサスの全面的な改良型としてペガサス11-61を開発しており、推力を22,000重量ポンド (98 kN)から23,800重量ポンド (106 kN)に強化したほか、信頼性も向上していた[1]。米海兵隊はこれをF402-RR-408として採用、1987年7月には購入契約を締結し、NA仕様の27機目(163873号機)より搭載を開始した[1]。ただし搭載開始直後にエンジントラブルが発生したために1991年には-408装備機を飛行中止としたのち、暫定的に-406Aに換装して飛行再開とする措置がとられたが、後にはエンジンの改修によって-408の搭載が再開され、既存の-406搭載機も-408に換装された[2]。
なお主翼燃料容量の増加に伴って、機内燃料搭載量は、AV-8A/Cと比して50パーセント増の7,759ポンド (3,519 kg)となった[2]。
注釈
- ^ アメリカのヒューズ社が開発したもので、地上の移動目標の追跡能力があり、テレビ・センサーとレーザー・センサーを収めたものを機首部に装備しており、コックピット内に装備された拡大テレビ映像でパイロットが目標を識別することができ、これらにより、目標の捕捉、誘導兵器の標準と誘導を行うことができる
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab Calvert 2021.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al 山内 2021.
- ^ a b c d e f g h i j k l 石川 2004.
- ^ Paul Lewis (2000年6月6日). “Spain arms AV-8B with Penguin”. Flight International
- ^ a b c d e f g h i j 柿谷 2021.
- ^ Polmar 2008, ch.25 Amphibious Assault.
- ^ Tara Copp; Valerie Insinna (2018年9月28日). “Marine Corps F-35 flies first combat mission in Afghanistan”. Marine Corps Times
- ^ “The fighter pilots hunting Houthi drones over the Red Sea” (英語). (2024年2月12日) 2024年2月15日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l 小林 2004.
- ^ Polmar 2008, ch.21 Lessons and Finances.
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