デイヴィッド・ヒューム 批評

デイヴィッド・ヒューム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/28 13:40 UTC 版)

批評

哲学

生前よりヒュームは懐疑論者、無神論者として槍玉にあがっており、そのためにエディンバラ大学教授などのアカデミック・ポストを望んでいたにもかかわらず終生得ることができなかった。また、デビュー作『人間本性論』は「印刷所から死産した」と自ら評したほど当代の人々の注目を浴びなかった(しかし、海外ではちらほらと書評が書かれるなりしていたようであり、全く無視されたわけではなかったようである)。後世のドイツ哲学のイマヌエル・カントは、ヒュームが自身の独断のまどろみを破ったことを告白したと共に、「哲学を独断論の浅瀬に乗り上げることから救ったが、懐疑論という別の浅瀬に座礁させた」と批評している。

20世紀の著名な分析哲学者バートランド・ラッセルは、因果関係の必然性を否定したヒュームの懐疑論を克服した哲学は、カントをはじめとしたドイツ観念論も含め、いまだに現れていないとの見解を示している[2]

ヒュームの哲学が、20世紀以降の現代哲学において分析哲学の一部潮流に強い影響を与えたことはよく知られている。しかしそれだけではなく、大陸哲学の一部にも強い影響を与えている。若き日のジル・ドゥルーズは、カント的な哲学とは異なる手法の哲学を目指し、「ヒューム主義」をとった[3]。哲学研究者千葉雅也の言葉を引用すれば、「ヒュームと共にドゥルーズは、関係を事物の本質に依存させないために、事物を〈主体にとって総合された現象=表象〉ではなくさせる。総合性をそなえた主体の側から、あらゆる関係を解放する――私たち=主体の事情ではなく、事物の現前から哲学を再開するのである。カントの超越論哲学は、一般的な、大文字の《私たち》にとって世界がどのように理解されているか、を問うものであった。他方、ヒュームの経験論哲学は、既成の《私たち》からではなく、事物の関係の変化から発し、個々の主体の不安定なシステム化を問うのである。[4]」ということである。ヒューム哲学に踏み込むドゥルーズ本人の哲学書としては、初期の『経験論と主体性[5]』や論文集『無人島[6]』に収められた「ヒューム」などがよく知られている。

経済思想

ヒュームは経済思想家としての側面も持つ。古典派経済学の祖とされるアダム・スミスとは信頼関係に結ばれた友人であった。経済評論家中野剛志によれば、ヒュームは自由貿易の擁護はしていてもドイツが未発達の工業製品に関税をかけることは間違いではないとし、ヒュームが自由貿易を奨励したのは、海外とのコミュニケーションを盛んにすることで知識が交換されたり、海外から入る知識や技芸によって、国内の文化が刺激されて豊かになるという話であって、資源配分の効率化の話ではなく、海外市場を取りに行くべきではないとされる。また中野によれば、ヒュームは、単なる自由貿易をコマースではなく、コミュニケーションとして捉えており、コミュニケーションが上手くいき、文明が発達するためには大体同じ程度の文明水準でなければならないと言っていたとしている[7]。ヒュームをはじめ18世紀の頃の啓蒙思想家たちが注意深く見ていたのは世界の成り立ちであり、経済システムがいかに文化・制度・法律・政治体制により異なっていくかということであり、経済システムが国ごとにいかに違うかというのを強調するのが政治経済学社会科学の始まりであったと、中野は評している[8]

人種差別主義

ヒュームは白人を至上のものとし、黒人黄色人種など他の人種を劣っていると考えていたため、人種差別を正当化する人種主義であると批判されている。「国民性について」の注で、ヒュームは次のように述べている[9]

わたしは、黒人と一般に他の人間種のすべてが生まれながらに白人より劣っていると思っている。白人以外に、どんな他の肌の色を持つ文明化された民族もまったく存在しなかったし、行動であれ思弁であれ、卓越した個人でさえもまったく存在しなかった。かれらのあいだにはどんな独創的な製品も、どんな芸術も、どんな科学も、決して存在しなかっ た。

注釈

  1. ^ David Homeとも。

出典

  1. ^ ジャック・レプチェック著、平野和子訳『ジェイムズ・ハットン -地球の年齢を発見した科学者-』春秋社 2004年 135-136ページ
  2. ^ ラッセル『西洋哲学史 II』(みすず書房)
  3. ^ 千葉雅也、『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』、河出書房新社、2013年、85頁〜126頁、第二章「関係の外在性――ドゥルーズのヒューム主義」。
  4. ^ 千葉雅也、『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』、河出書房新社、2013年、87頁。
  5. ^ 日本語訳は、『経験論と主体性―ヒュームにおける人間的自然についての試論』、木田元財津理共訳、河出書房新社、2000年、など。
  6. ^ 日本語訳は、『無人島 1969-1974』、小泉義之他訳、河出書房新社、2003年、など。
  7. ^ 中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 181-182頁。
  8. ^ 中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 182-183頁。
  9. ^ 高田紘二「ヒュームと人種主義思想」『奈良県立大学研究季報』第12巻3・4、奈良県立大学、2002年2月8日、89-94頁、NAID 110000587550 






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