ティムール朝 国制

ティムール朝

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/21 00:55 UTC 版)

国制

ティムールの宮廷

ティムール朝の国制については不明なところが多く、現実にティムール以下歴代の君主の多くが確固たる行政上の制度を定めたこともなかったと考えられる。特にティムールの時代には、ティムールの息子たち、腹心の部下たち、彼らに従う遊牧民たちが分封されてカリスマ的な軍事指導者であるティムールの権威に服していたため、ティムールの没後には容易に分裂に向かってしまうものであった。15世紀末にヘラートに首府を置いたフサイン・バイカラは軍務と財務を司る官庁と宗教を統括する「サドル」職を設置した。フサインはティムールと同じく皇子たちを各地に分封して、そこにもヘラートと同様の行政機関が設けられて自治が布かれた。中央の統制が及ばないため、1人の皇子が処刑されると他の皇子の反乱が連鎖し、シャイバーン朝への対応に後れをとった[3]

君主の支配を固める論理として、モンゴルの伝統とイスラムの伝統という二つの要素が存在したことは確かである。いまだモンゴル帝国の影響がよく残っていたティムールの時代にはモンゴルの伝統が特に強調され、ティムール朝の君主とは別に、チンギス・カンの血を引く王子たちの中から名目上のハンが擁立されるとともに、ティムール家の王子は名目上のハンやモグーリスタンのハンなどの様々なチンギス・カンの血を引く王家から王女を妻として迎え、ティムール家の君主はチンギス王家の娘婿にして最高位の将軍という立場から支配権の正統性を認めさせていた。このためティムールの孫の世代からは母をチンギス・カン家の王女とする者も少なくなく、ムガル帝国を開いたバーブルもそのひとりである。このチンギス王家の娘婿という主張はティムール朝の君主に一般的なものであるが、これに対し、シャー・ルフはイスラム的な伝統、すなわちイスラム法(シャリーア)に基づいた公正な統治者としての君主像を協調していたといわれ、アブー・サイードとその子孫のサマルカンド政権はナクシュバンディー教団の宗教的権威に頼っていたと指摘されている。

政権を支えた支配階層は、セルジューク朝以来のイラン高原の遊牧イスラム政権と同様に、ターズィーク(タジク)と呼ばれるペルシア系定住民出身の行政官僚たちと、テュルク遊牧民の部族長(遊牧貴族)たちからなる将軍・軍人たちからなっていた。ティムール朝はあくまでもモンゴル帝国の伝統から起っているので概して遊牧貴族の地位が高くとられていたが、モンゴル帝国期には遊牧貴族の地位を示す称号であったアミール(将軍)がターズィークの高官に授けられた称号になっている例が存在することが指摘されており、ティムール朝の時代には遊牧民と定住民の生活や文化の一体化が進み、定住民の政権における地位が向上していた可能性が高い。

経済的には遊牧国家の伝統にのっとって通商政策を重視した。特にティムール朝はモンゴル帝国の遊牧民の中でも、とくに都市生活に馴染んだ西チャガタイ・ハン国ブルガリア語版wikidata[2]の「チャガタイ人」が興した政権であったため、通商基地として重要な都市の整備をきわめて積極的に行った。王朝の多くの時代において首都であったサマルカンドはティムールの時代から大征服によって各地から略奪されてきた富が集積され、盛んな建築事業が推進されて世界でも屈指の大都市として発展した。


  1. ^ 加藤和秀『ティームール朝成立史の研究』(北海道大学図書刊行会, 1999年2月)、280頁
  2. ^ a b 西チャガタイ−ハン国』 - コトバンク
  3. ^ 久保一之「ティムール帝国」-『中央アジア史』収録、p148-149






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