ジョン・ロールズ 原爆投下について

ジョン・ロールズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/04 13:05 UTC 版)

原爆投下について

ロールズは、1995年雑誌Dissentに掲載した論文「Reflections on Hiroshima: 50 Years after Hiroshima(原爆投下はなぜ不正なのか?: ヒロシマから50年)[3]」において、戦争における法(武力紛争法)に関する六つの原理を提示する。

1 民主社会が当事者となる正しい戦争の目標は、諸民衆の間(とりわけ敵との間) に成立すべき正しくかつ永続的な平和である
2 民主社会の戦争相手国は、民主的ではない国家である。このことは、民主的な民衆は相互に戦争を起こさないという事実から帰結する。
3 戦争を遂行する上で、民主社会は三つの集団 (1)相手国の指導者と要職者、(2) 兵士たち (3) 非戦闘員である住民 、を注意深く区別しなければならない。
4 民主社会は、相手国の非戦闘員、兵士の人権を尊重しなければならない。二つの理由がある。1)万民法に基づいて、民間人・兵士ともに人権を有しているから。2)戦時においても人権が効力を有するという実例を自ら率先することで敵国に人権を教えるべきだから。
5 軍事行動と(交戦国や国際社会に対する)声明において正義を自負できる民衆は、自分たちが目標とする平和がどのようなものであるか、自分たちが求める国際関係はどのようなものなのかについて、戦争中においてあらかじめ示すべきである。
6 戦争目的を達成するための軍事行動や政策が適切かどうかを判定するための思考様式は、つねに上述の五原理の枠内で構成され、これらの原理によって厳格に限定される。

ロールズはこのような原理を提示したうえで、原爆投下をその不要性から、「すさまじい道徳的悪行」という。トルーマンの「日本人を野獣として扱う以外にない」という発言において、ナチスや東條に率いられた日本軍部のみならず、一般市民までを含めていたことに対して、批判した。

またロールズは避けるべき二種類のニヒリズム的論法があるという。

1 地獄のような戦争を一刻でも早く終わらせるためならどんな手段でも選んでもよいとする論法。
2(戦争に突入した以上)私たちは皆有罪という同等の立場にあるのだから誰も他人(他国民)を非難できないとする主張。

ロールズは「正義を重んずるまともな文明社会(その制度・法律、市民生活、背景となる文化や習俗)はすべて、どんな状況においても道徳的・政治的に有意味な区別を行っており、その区別に絶対的に依存している、という事実」からして、このような論法が無内容であることが導かれるとした。


  1. ^ http://esdiscovery.jp/vision/history002/military/politics001.html
  2. ^ a b ジョン・ロールズ 川本隆史、福間聡、神島裕子訳 (2010年11月24日). 正義論. 紀伊國屋書店. p. 84 
  3. ^ 邦訳は 川本隆史訳『世界』岩波書店619号 (1996年2月号) pp.103-114.川本隆史『ロールズ』講談社、1997年
  4. ^ 同書p.9-10。「近代初期ヨーロッパの国民国家群における王朝間戦争は、「君主や王族たちの戦争」であり、「生来,他の国家に対して侵略的で敵対的な形に築かれていた」。しかしそれとは異なり、民主的社会は、自衛や、人権を守るために不正な社会へ介入することなどの危機的ケースを除けば,自ら進んで戦争を開始することはない。こうして「立憲民主制社会はお互いに安全が保障されており,それらのあいだでは,平和があまねく行き渡る」とされる
  5. ^ p.66「リベラルな諸国の民衆が戦争をするとすれば,それは,満足していない社会,つまり無法国家との戦争以外にはあり得ない」
  6. ^ p.66-67
  7. ^ 「(リベラルな諸国の)民衆は,断じて,無法国家を寛容に受け入れることはない。無法国家に対する寛容を拒絶することは,リベラリズム,ならびに,良識あるということの当然の帰結である。」
  8. ^ 「無法国家は好戦的で,危険な存在である。このような国家群がそうしたやり方を改めれば――ないしは,無理矢理にでも改めさせられれば――あらゆる国の民衆はますます安全に,かつ安心して暮らせるようになるだろう。」p.117
  9. ^ 「無法国家が存在する限り,無法国家を寄せつけず,無法国家が核兵器を手に入れて,リベラルな民衆の諸国や良識ある民衆の諸国を相手にすることがないよう,ある程度の核兵器は保持する必要がある。」(p.12)
  10. ^ イギリス軍が「民間人の厳格な地位を一時停止」とし、ハンブルクやベルリンに爆撃したことに関しては「適切」として、「それは,こうした爆撃により何かとても大きな成果が得られる場合に限っての話である。イギリスが孤立した状態にあり,ドイツの圧倒的な力をうち負かすためにそれ以外の手立てが見当たらなかったような段階なら,ドイツ諸都市への爆撃も,おそらくは正当化可能であった」p.144
  11. ^ 上記セクション「原爆投下について」
  12. ^ a b ロールズ 2007, p. 578-9.
  13. ^ a b c ロールズ 2007, p. 573-6.
  14. ^ ロールズ 2007, p. 667-8.
  15. ^ ロールズ 2007, p. 672-3.






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