ジョン・ロールズ 万民の法

ジョン・ロールズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/04 13:05 UTC 版)

万民の法

ロールズは、The Law of Peoples, Harvard UP, 1999(『万民の法』岩波書店,2006)において、国内法の枠を越えた普遍妥当性を有する「万民の法」について論じている。

まず民衆 (people) を次の5つに分類する。

1道理をわきまえたリベラルな諸国の民衆 (reasonable liberal peoples)
2良識ある諸国の民衆 (decent peoples)
3無法国家 (outlaw state)
4不利な条件の重荷に苦しむ社会
5仁愛的絶対主義 (benevolent absolutism) の社会

このうち1と2は「秩序だった諸国の民衆」とされ,「万民法」はこの2つの国の民衆に妥当するとされる。

さらに、民主主義平和論 (democratic peace) を論じるなかで「立憲民主制社会同士が互いに戦争を始めるようなことはない」とする。その理由は、「そうした社会の市民がとりわけ正義を尊重するよき人々だからというわけではなく,ただ単に,彼らにはお互いに戦争をする理由がない」からである。近代初期ヨーロッパの国民国家群における王朝間戦争とは異なり、民主的社会は、自衛や、人権を守るために不正な社会へ介入することなどの危機的ケースを除けば、自ら進んで戦争を開始することはないとされる[4]

またロールズは民主的社会が戦争をするとすれば、それは無法国家との戦争である[5]とし、「リベラルな民衆は戦争を行うが、それは、自分たちのリベラルな文化の自由と独立を守り、自分たちを従属させ、支配しようとする国家に真っ向から対抗しなければならないからである。[6]」として、「民主的な社会による戦争」を正当化する。

ほか、民主的社会を従属させようとする無法国家に対しては、非寛容的であるべきだとする[7][8]。「好戦的で、危険な無法国家」への対策としては、核兵器所有およびその抑止力論を展開した[9]。ほかにも第二次世界大戦中にイギリスによるドイツ空爆をその現実的必要性から擁護した[10]。なお日本への原爆投下については、その不要性から米国政府を批判した[11]


  1. ^ http://esdiscovery.jp/vision/history002/military/politics001.html
  2. ^ a b ジョン・ロールズ 川本隆史、福間聡、神島裕子訳 (2010年11月24日). 正義論. 紀伊國屋書店. p. 84 
  3. ^ 邦訳は 川本隆史訳『世界』岩波書店619号 (1996年2月号) pp.103-114.川本隆史『ロールズ』講談社、1997年
  4. ^ 同書p.9-10。「近代初期ヨーロッパの国民国家群における王朝間戦争は、「君主や王族たちの戦争」であり、「生来,他の国家に対して侵略的で敵対的な形に築かれていた」。しかしそれとは異なり、民主的社会は、自衛や、人権を守るために不正な社会へ介入することなどの危機的ケースを除けば,自ら進んで戦争を開始することはない。こうして「立憲民主制社会はお互いに安全が保障されており,それらのあいだでは,平和があまねく行き渡る」とされる
  5. ^ p.66「リベラルな諸国の民衆が戦争をするとすれば,それは,満足していない社会,つまり無法国家との戦争以外にはあり得ない」
  6. ^ p.66-67
  7. ^ 「(リベラルな諸国の)民衆は,断じて,無法国家を寛容に受け入れることはない。無法国家に対する寛容を拒絶することは,リベラリズム,ならびに,良識あるということの当然の帰結である。」
  8. ^ 「無法国家は好戦的で,危険な存在である。このような国家群がそうしたやり方を改めれば――ないしは,無理矢理にでも改めさせられれば――あらゆる国の民衆はますます安全に,かつ安心して暮らせるようになるだろう。」p.117
  9. ^ 「無法国家が存在する限り,無法国家を寄せつけず,無法国家が核兵器を手に入れて,リベラルな民衆の諸国や良識ある民衆の諸国を相手にすることがないよう,ある程度の核兵器は保持する必要がある。」(p.12)
  10. ^ イギリス軍が「民間人の厳格な地位を一時停止」とし、ハンブルクやベルリンに爆撃したことに関しては「適切」として、「それは,こうした爆撃により何かとても大きな成果が得られる場合に限っての話である。イギリスが孤立した状態にあり,ドイツの圧倒的な力をうち負かすためにそれ以外の手立てが見当たらなかったような段階なら,ドイツ諸都市への爆撃も,おそらくは正当化可能であった」p.144
  11. ^ 上記セクション「原爆投下について」
  12. ^ a b ロールズ 2007, p. 578-9.
  13. ^ a b c ロールズ 2007, p. 573-6.
  14. ^ ロールズ 2007, p. 667-8.
  15. ^ ロールズ 2007, p. 672-3.






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