グリーンランド語 正書法

グリーンランド語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/12 09:24 UTC 版)

正書法

1926年のグリーンランド語–デンマーク語辞書にある ĸの文字

グリーンランド語はラテン文字で書かれる。使われるアルファベットは、

A E F G H I J K L M N O P Q R S T U V

他の言語、とくにデンマーク語および英語からの借用語のつづりには、追加的に B, C, D, X, Y, Z, W, Æ, Ø, Å の文字が使われる[27][28]。グリーンランド語は引用符として "..." と »...« の記号を用いる。

1851年から1973年までのあいだ、グリーンランド語はサムエル・クラインシュミットによって発案されたアルファベットで書かれていた。このアルファベットはクラー (kra) という特別の文字 (Κʼ / ĸ) を用いていたが、これは1973年の改革で q に置きかえられた[29]。クラインシュミットのアルファベットでは、長母音と二重子音は母音の上にダイアクリティカルマークを載せることで示された(子音の二重化の場合は、その子音に先行する母音の上にダイアクリティカルマークが置かれた)。たとえば、Kalaallit Nunaat というこの名前は Kalâdlit Nunât とつづられた。この方式では曲アクセント ( ˆ ) は長母音を表し (旧:ât, ît, ût → 新:aat, iit, uut)、鋭アクセント ( ´ ) は後続する子音の二重化 (á(k), í(k), ú(k) → a(kk), i(kk), u(kk))、そして著者によってチルダ ( ˜ ) または重アクセント ( ` ) が母音の長さと後続子音の二重化を同時に示していた (ãt, ĩt, ũt または àt, ìt, ùt → aatt, iitt, uutt)。グリーンランド語では ê と ô の文字は r と q の前でのみ用いられ、現在では er/eq, or/oq と書かれている。カナダのラブラドール地方北東部ヌナーツィアヴト (Nunatsiavut) で話されている Nunatsiavummiutut(イヌクティトゥット語のカナダ方言のひとつ)のつづりの体系は、古いグリーンランド語の体系から派生している。

専門的には、クラインシュミットの正書法は形態論に焦点をあてたものであり、同一の派生接辞 (derivational affix) がたとえ異なる文脈では別様に発音されるとしても同じように書かれるべしとしたものである。これは1973年の改革で音韻体系に沿うよう置きかえられ、これによって書かれた形から発音へのつながりが明確になると同時に、同一の接尾辞が異なる文脈では別様に書かれている。この違いは音韻変化によるものである。したがって旧正書法から新正書法に移行することは容易であるが(オンラインの変換器 [30] を見よ)、逆の方向は完全な語彙分析を必要とする。

文例

Inuit tamarmik inunngorput nammineersinnaassuseqarlutik assigiimmillu ataqqinassuseqarlutillu pisinnaatitaaffeqarlutik. Silaqassusermik tarnillu nalunngissusianik pilersugaapput, imminnullu iliorfigeqatigiittariaqaraluarput qatanngutigiittut peqatigiinnerup anersaavani.

「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない」(世界人権宣言第1条)


注釈

  1. ^ Namminersornerullutik Oqartussat / Grønlands Hjemmestyres(グリーンランド自治政府)によると、「言語。公用語はグリーンランド語およびデンマーク語……。グリーンランド語は学校で用いられ、大部分の町や居住地で支配的な言語である」(« Language. The official languages are Greenlandic and Danish... Greenlandic is the language [that is] used in schools and [that] dominates in most towns and settlements ») という。[1](2016年11月5日現在はリンク切れ)
  2. ^ 口蓋垂鼻音 [ɴ] はすべての方言では見られず、音素としてのその地位には方言的差異がある (Rischel 1974:176–181)。
  3. ^ ff は無声化した重子音 /vv/ の書きかたであり、それ以外では f は借用語にのみ現れる。
  4. ^ /ʃ/ は若干の方言でのみ見られ、標準語にはない。

出典

  1. ^ a b Law of Greenlandic Selfrule (see chapter 7)[2] (デンマーク語)
  2. ^ a b c Rischel, Jørgen. Grønlandsk sprog.[3] Den Store Danske Encyklopædi Vol. 8, Gyldendal
  3. ^ a b Goldbach & Winther-Jensen (1988)
  4. ^ Iutzi-Mitchell & Graburn (1993)
  5. ^ Michael Jones, Kenneth Olwig. 2008. Nordic Landscapes: Region and Belonging on the Northern Edge of Europe. U of Minnesota Press, 2008, p. 133
  6. ^ Louis-Jacques Dorais. 2010. The Language of the Inuit: Syntax, Semantics, and Society in the Arctic. McGill-Queen's Press – MQUP, p. 208-9
  7. ^ UNESCO Interactive Atlas of the World’s Languages in Danger
  8. ^ Greenland”. CIA World Factbook (2008年6月19日). 2008年7月11日閲覧。
  9. ^ Sermersooq will secure Eastern Greenlandic” (Danish). Kalaallit Nunaata Radioa (2010年1月6日). 2010年5月19日閲覧。
  10. ^ Fortescue (1991) passim
  11. ^ a b Mennecier (1995) p. 102
  12. ^ a b Mahieu & Tersis (2009) p. 53
  13. ^ Fortescue, Michael (1990), “Basic Structures and Processes in West Greenlandic”, in Collins, Dirmid R. F., Arctic Languages: An Awakening, Paris: UNESCO, p. 317, ISBN 92-3-102661-5, http://unesdoc.unesco.org/images/0008/000861/086162e.pdf 
  14. ^ Rischel (1974) pp. 79 – 80
  15. ^ a b Jacobsen (2000)
  16. ^ Bjørnum (2003) p. 16
  17. ^ a b c Hagerup, Asger (2011). A Phonological Analysis of Vowel Allophony in West Greenlandic. NTNU 
  18. ^ Rischel (1974) pp.173–177
  19. ^ Fortescue(1984) p. 338
  20. ^ Sadock (2003) pp. 20–21
  21. ^ a b Bjørnum (2003) pp. 23–26
  22. ^ Sadock (2003) p. 2
  23. ^ Fortescue (1984) p. 5
  24. ^ Bjørnum,(2003) p. 27
  25. ^ Rischel (1985) pp. 553
  26. ^ Underhill (1976)
  27. ^ Grønlands sprognævn (1992)
  28. ^ Petersen (1990)
  29. ^ http://www.evertype.com/alphabets/greenlandic.pdf
  30. ^ Greenlandic morphological analyser and orthographic converter






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