オープンソースライセンス ライセンスの課題

オープンソースライセンス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/08 18:45 UTC 版)

ライセンスの課題

ライセンスの互換性

オープンソースライセンスのライセンスの互換性、矢印が一方的な互換性を表す[32]

オープンソースソフトウェア開発において自身のソフトウェアが課するライセンスの選定、およびソフトウェアが利用するソースコードのライセンスの検証は重要である。

「自身のソフトウェアが課すライセンス」はそのソフトウェアの「ソースコードに課すライセンス」であるが、オープンソースソフトウェアのためのライセンスは多数存在しており、ソフトウェア開発の手段や目的、ソースコードの利用者に課すべき制約に合わせて適切なライセンスを選択しなければならない。ソフトウェアのソースコードの利用、修正、再頒布を認めるオープンソースソフトウェアとしての定義の遵守の他、広告条項の付与、コピーレフト条項の付与、著作権の放棄などを考慮すべきである。ソフトウェア利用者のライセンスの解釈を検証する労力を減らすため(ライセンスの氾濫を防ぐため)、オープンソースソフトウェアには独自のライセンスを作成、適用するのではなく既存のライセンスから選択することが望ましい。

「ソフトウェアが利用するソースコードのライセンス」はモジュールとして利用するソフトウェアの各個ライセンスについて検証しなければならない。Apache Licenseのように広告条項が含まれている場合は、広告条項に基づいてソースコードリポジトリのCOPYRIGHT、LICENSEファイルに利用しているソフトウェアの名前を連ねる必要があったり、ソフトウェアの利用者が必ず閲覧できる箇所にソフトウェアの名前を表示させなければならない。GNU GPLのようにコピーレフト条項が含まれている場合は、コピーレフト条項に基づいて自身のライセンスを決定し、自身のソフトウェアで使っている他のソフトウェアとのライセンスの互換性を検証しなければならない。

ライセンスの互換性は特に注意すべきで、ソフトウェアが利用するソースコードにライセンスの互換性がない場合、そのソースコードおよびソフトウェアを利用することは出来ない。例えば、「GNU GPLでソースコードの公開が必須となるオープンソースソフトウェア」と「商用契約でソースコードの開示を禁じられたプロプライエタリソフトウェア」を併用しようとした場合、GNU GPLを遵守すると商用契約に違反し、商用契約を遵守するとGNU GPLに違反することになる。

ライセンスの氾濫

2000年代前半、オープンソースソフトウェアのライセンスは多数の独自ライセンスが策定され、よく似た条文で一部分だけ異なるという有象無象のライセンスがいたずらに作られていったことを問題視し、その事象はライセンスの氾濫と呼ばれ批判の対象となった[33]。ライセンスの氾濫はライセンス製作者の虚栄心を満たすだけの無害なものではなく、オープンソースソフトウェアに課せられたライセンスの内容を精査しなければならない利用者を疲弊させる有害なものであった。オープンソース・イニシアティブは2006年にこの問題を解決するためライセンス氾濫問題プロジェクト(License Proliferation Project)を立ち上げ[34]、ライセンスレビューを通して承認ライセンスを選定することでライセンスの氾濫を抑えた歴史がある[35]。ライセンスの氾濫を再発させないため、オープンソースソフトウェアのライセンスは既存のオープンソースライセンスを採用することが推奨される[11][36]。ライセンスの作成者は新規ライセンスの必要性について慎重な検討を経て策定に至り[37]、ライセンスを承認する団体は新規のライセンスが既存のライセンスと本質的な差異がない場合は承認しない判断を下している[38]

ウイルス性ライセンス

CC BY-SAパブリックドメインを合わせた時にSA属性によりCC BY-SAが強制されるライセンス感染の例

ライセンスの継承条文を伴うオープンソースライセンスが課せられたソフトウェアは、その継承条文に基づき、ソフトウェアのソースコードを利用、修正したソフトウェアのソフトウェアライセンスを同等条件のものとするよう縛る。このライセンスの縛りはソースコードの二次利用、三次利用と伝播し、ライセンスがウイルスのように感染していくことからウイルス性ライセンス(ライセンス感染)と呼ばれる[39]

ウイルス性ライセンスは二次利用ソースコードのライセンスを同一のものに強制することでライセンスの氾濫を防ぐ効力がある。一方で、二次利用ソースコードおよびそのソフトウェアのライセンスを選択する権利を失い、課せられるライセンスの内容に依っては、広範囲のソースコードを開示の強制や、非営利以外の利用が禁止されるなどの利用上の制約を伴う恐れがある。

ライセンス感染するライセンスの例としては、GPL (コピーレフト条文)やCC BY-SA (SA条項)がある。ライセンス感染の影響は元となったソフトウェアライセンスの内容に依るが、GNU GPLのコピーレフト条項のようにソースコードの公開を義務とするものや[5]、CC BY-SAのSA条項ように同等条件のライセンスを強制するだけ(ソースコードの公開を求めるかどうかは別条文に依る)のものがある[40]

パブリックドメインの有効性

パブリックドメインであることを表す万国著作権条約3条に基づくマーク

パブリックドメインソフトウェアソースコードを置くことは、その成果物の製作者の著作権を放棄する手段の一つである。パブリックドメイン以下に公開されたソースコードは全ての権利が放棄されていると見なし、利用者はそのソースコードおよびソフトウェアの利用、修正、再頒布が可能である。パブリックドメインと同等の手段として、ソフトウェアのソースコードに課すツール、ライセンスとしてのCC0WTFPLなどが存在する。パブリックドメインソースコードが置かれている場合はソースコードおよびソースコードから生成されるソフトウェアの利用、修正、再頒布は可能であるが、パブリックドメインにソフトウェアのみが置かれている場合はその限りではない。この場合、ソフトウェアの著作権の放棄は想定されるが、そのソフトウェアのソースコードの著作権の放棄は想定できず、ソースコードを利用、修正、再頒布する権利は別途考えなければならない。

パブリックドメインによる著作権の放棄著作権法の下に完全に認められたという実績(判決)は存在しておらず、法的な判断が不明瞭である[41]。ソースコード作成者が著作権を放棄する意図でパブリックドメイン以下で公開していたソースコードに対して、ソースコード作成者が考えを変えて著作権の保持を主張してソースコードの二次利用者を訴えた場合に、サブマリン特許のように見解を翻して権利を行使することの是非という道徳的な観点は別として、著作権の放棄の有効性について著作権法の下にどのような判断がなされるのか明確になっていない。つまり、パブリックドメインはソースコード作成者の当初の意図に反して著作権の放棄はできておらず、著作権の保持を根拠にしたソースコードの二次利用者に対する訴えは有効であるとされる可能性がある。

そのような不確定性のため、オープンソース・イニシアティブパブリックドメインに相当するCC0を有効なオープンソースライセンスとして承認していない[27]。一方で、フリーソフトウェア財団CC0を有効なフリーソフトウェアライセンスとして承認している[30]。パブリックドメインおよびそれに類するライセンスの著作権の放棄の有効性の疑義は著作権の放棄を条文に加えている一部のライセンスのみの課題であり、著作権の放棄について言及していないラインセンスでは著作権は放棄されていないものとして見なして疑義の課題とはならない。


注釈

  1. ^ GPLそのものであるため。

出典

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