オセールのレミギウス オセールのレミギウスの概要

オセールのレミギウス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/05 15:12 UTC 版)

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生涯

レミギウスは、おそらくブルゴーニュに生まれ[2]、フェリエールのルプスおよびオセールのヘイリクス(876年没、自身はヨハネス・スコトゥス・エリウゲナの弟子[3])の弟子となった[4]。また、レミギウスは注釈書を作成する上で、アイルランド人の教師達、つまりランのドゥンカルドゥス、エリウゲナ、セドゥリウス・スコトゥス、マルティヌス・スコトゥスらから多くを借用した。「学問上のグレシャムの法則に従い、レミギウスの自著への借用を寛大にも許した諸書は、そうしてできたレミギウスの著書によってこの分野から駆逐されるにいたるのがつねであった」とJ. P. Elderは指摘している[5]。ジョン・マレンボンは同じ現象をより肯定的な観点のもとにおいて[6]、レミギウスによる古典的文献に対する9世紀の注釈の選集(彼自身のものもあれば彼が集めてきたものもある)は後の研究者に初期中世の思想家の著作だけでなく古代ギリシア語・ラテン語や哲学のはっきりした要素も残したと主張している[7]。後代の報告によると、レミギウスの選集は後期中世において、特に12世紀においてヨーロッパ中で用いられたという[8]

彼はオセールのサン・ジェルマン修道院で教え、876年にヘイリクスが死んでからは修道院学校長になった。883年には大司教フルクスにランス聖堂学校で教えるよう招聘され、893年にはその学頭に任じられた。900年にフルクスが死ぬと、レミギウスはパリで教えるためにランスを発ち、以降死ぬまでパリに留まった。そのころまでにレミギウスは「優秀博士」(羅:egregius doctor)、「神の聖典と人間の聖典の両方を学んだ」(羅:in divinis et humanis scripturis eruditissimus)などと言われ盛名をはせた[9]。教師として、レミギウスは普遍の問題に関心を持ち、エリウゲナの極端な実在論と自身の師ヘイリクスの反実在論を調停しようとしたと考えられている。概して彼は古典古代の文献とキリスト教の聖典の両方を弟子に教えられるようなやり方で解釈しようとしており、自分たちの生きているキリスト教世界に古代哲学を適用する方法を探究した[10]。彼が考察した文献は非常に多くさまざまであったが、彼の主な注釈は末期ローマの哲学者ボエティウスマルティアヌス・カペッラに関するものであって、レミギウスは彼らの作品の中にキリスト教神学と共存できる柔軟なアレゴリーを見出した[11]

著作

その長い学問的経歴にあって、レミギウスは古典古代やキリスト教に由来する多彩なテキストに対する、膨大な量の字引と僅かな注釈書を著した。彼の字引は過去の註釈家から自由に借用して作成されており、中世にラテン語文献学を学んだ学生たちから非常に関心を持たれた。彼の聖書注釈には、『創世記』、『詩篇』(彼の『詩篇物語』(羅:Ennarationes in Psalmos)がそれである)に対するものがあった。彼はカエサレアのプリスキアヌスアエリウス・ドナトゥス、フォカス、エウテュケスの文法書に対する注釈書も記した。彼が好んだ古典古代の文献にはプビリウス・テレンティウス・アフェルユウェナリス、コエリウス・セドゥリウス[10]、『カトニス・ディスティカ』、『名詞学』(羅:Ars de nomine)[12]がある一方で、後代のベーダの注釈書も好んだ。しかし、ボエティウスの『哲学の慰め』や神学論文集、マルティアヌス・カペッラの『文献学とメルクリウスの結婚』に関する注釈を収集し、自分でも注釈を書いたことで彼は最もよく知られている。

レミギウスは大抵の場合弟子の便益の為に注釈書を作成しており、公平にして精確なやり方で文献の意味や重要性を説明して文法的構造や言語的特色に重点を置いている[13]。カロリング朝期のほとんどの教師と同様に、彼も哲学、就中プラトンや彼を信奉したネオプラトニストに強い関心を抱いた。彼は(音楽と弁証術に重点を置いて)熱心に自由七科を教えており[14]、彼が多くのカロリング朝人と同様に古典的な徳目を備えていたことをうかがわせる。しかし、彼は信心深いキリスト教徒でもあり、そのためキリスト教神学のある側面を理解・明確化するために哲学的文献を利用する傾向にあった[15]。そのため、彼の註釈書は文献で示されている古い哲学をよく反映しているアレゴリーや象徴表現を考察していることが多いが、そうした考察は教会の神学や典礼に適用できるようなやり方でなされた[16]。彼による古典思想とキリスト教思想の統合は決して前例のないものではないが、他の思想家の注釈書を編纂する中で彼は初期中世の性向を永久に観察可能なものとした[17]


  1. ^ "Un commento del commento", according to C. Marchese, "Gli scoliasti di Persico" Rivita di Filologia39-40 (1911-12), noted by J. P. Elder, "A Mediaeval Cornutus on Persius" Speculum 22.2 (April 1947, pp. 240-248), p 240, note; 243f.
  2. ^ Cora E. Lutz, ed. Remigii Autissiodorensis commentum in Martianum Capellam, (Leiden: E.J. Brill, 1962), p. 1.
  3. ^  Herbermann, Charles, ed. (1913). "Remigius of Auxerre". Catholic Encyclopedia. New York: Robert Appleton Company.
  4. ^ Margaret T. Gibson, “Boethius in the Carolingian Schools,” Transactions of the Royal Historical Society, Fifth Series, Vol. 32, (1982), p. 48.
  5. ^ J. P. Elder, "A Mediaeval Cornutus on Persius" Speculum 22.2 (April 1947, pp. 240-248), pp 243f.
  6. ^ John Marenbon, Early Medieval Philosophy (480-1150): An Introduction, (London: Routledge with Kegan Paul, 1983), p. 86.
  7. ^ M. Esposito, “A Ninth-Century Commentary on Donatus,” The Classical Quarterly, Vol. 11, No. 2 (April 1917), p. 97.
  8. ^ Lutz, 1.
  9. ^ Lutz 1
  10. ^ a b c Marenbon, Early Medieval, 78.
  11. ^ He also investigated the problem of the origin of the universe and in his commentary on Martianus Capella gave a Christian interpretation to the passages in which Martianus Capella speaks of the invisible world of Platonic ideas. From the Catholic Encyclopedia, 1913.
  12. ^ M. Esposito, "A Ninth-Century Commentary on Phocas" The Classical Quarterly 13.3/4 (July 1919), pp. 166-169.
  13. ^ Lutz, 18, 24.
  14. ^ Lutz, 6.
  15. ^ John Marenbon, From the Circle of Alcuin to the School of Auxerre: Logic, Theology, and Philosophy in the Early Middle Ages, (Cambridge: Cambridge University Press, 1981), p. 4.
  16. ^ Donnalee Dox, “The Eyes of the Body and the Veil of Faith,” Theatre Journal, Vol. 56, No. 1, (March 2004), p. 16.
  17. ^ Gibson, 55.
  18. ^ Margot E. Fassler, “Accent, Meter, and Rhythm in Medieval Treatises ‘De rithmis,’” The Journal of Musicology, Vol. 5, No. 2, (Spring 1987), p. 164.
  19. ^ Fassler, 174.
  20. ^ Craig Wright, Music and Ceremony at Notre Dame of Paris: 500-1550, (Cambridge: Cambridge University Press, 1989), pp. 60-65.
  21. ^ G. W. Trompf, “The Concept of the Carolingian Renaissance,” Journal of the History of Ideas, Vol. 34, No. 1 (Jan-March 1973), pp. 3-26.
  22. ^ Charles Van Doren, A History of Knowledge: The Pivotal Events, People, and Achievements of World History, (New York: Ballantine Books, 1991), p. 105.
  23. ^ Gibson, 56.
  24. ^ William H. Stahl, “To a Better Understanding of Martianus Capella,” Speculum, Vol. 40, No. 1 (Jan. 1965) p. 108.
  25. ^ Marenbon, Alcuin 10.
  26. ^ E. K. Rand, “How Much of the Annotationes in Marcianum is the Work of John the Scot?,” Transactions and Proceedings of the American Philological Association, Vol. 71, (1940), p. 516.
  27. ^ Rand, 516.
  28. ^ Lutz, 17.
  29. ^ Marenbon, Alcuin, 119.
  30. ^ Marenbon, Alcuin, 10.
  31. ^ Lutz, 22.
  32. ^ Charles M. Atkinson, “Martianus Capella 935 and its Carolingian Commentaries,” Journal of Musicology, Vol. 17, No. 4, (1999, 2001), p. 515.
  33. ^ Bernice M. Kaczynski, Greek in the Carolingian Age: The St. Gall Manuscripts, (Cambridge, Massachusetts: The Medieval Academy of America, 1988), pp. 43, 49, 56.
  34. ^ Gibson, 48.


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