エンストローム論文 利害からの中立性の問題

エンストローム論文

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/16 00:43 UTC 版)

利害からの中立性の問題

2000年8月2日にWHOたばこ産業文書に関する専門家委員会は、アメリカにおけるたばこ産業に対する訴訟において、たばこ会社の秘密文書が公開された結果、たばこ業界が秘密裏に資金を提供している、学会もどき、世論形成団体、ビジネス団体などを通じ、WHOのたばこ規制に対する妨害工作を行っていたこと、その活動が、たばこ産業界と陰で資金的につながりのある国際的な科学者達に強く依存していた旨を報告している [6][7]

このような背景があり、エンストローム論文は2003年に発表されたものであるが、エンストロームがたばこ会社から研究資金を受けており、この研究自体が曝露群の誤分類などの統計上の瑕疵によって、恣意的とも受け取れる程に受動喫煙によるリスクが過小となる方向性での評価を行っていることから、その利害からの中立性は発表当初から問題とされ、裁判所からは詐欺行為の証拠とされた。このため、米国ではたばこ会社から研究資金を受けることの是非についての議論がなされるようになった。

著者とたばこ産業とのつながり

  • エンストロームは本論文で、研究に対して「他から資金を援助してもらえなかったため」たばこ産業からやむなく研究資金を受け取っているとしている。実際、エンストロームは1975年からたばこ産業に資金援助を求め始め、1992年に最初の研究資金を受領している。しかしそれ以上に、同氏はたばこ産業において、論文検討・研究資金援助提案に意見する専門家顧問として、たばこ産業から報酬金を受け取るなど、積極的な関与を行っていることが後に明らかになった[8]
  • カバットは、昨年(2002年)までたばこ産業から資金を受け取ったことがない、と本論文には書かれている。しかし、フィリップ・モリス社が資金援助する団体の代表者との共同研究を行うなど、たばこ産業との継続的なつながりを持っている。

  1. ^ Enstrom, J. E.; Kabat, G. C. (5 2003). “Environmental tobacco smoke and tobacco related mortality in a prospective study of Californians, 1960-98.”. BMJ 326 (7398): 1057. doi:10.1136/bmj.326.7398.1057. PMID 12750205. http://www.bmj.com/cgi/content/full/326/7398/1057 2008年5月11日閲覧。. 
  2. ^ a b Woolf, S. H. (7 2003). “Tobacco money, the BMJ, and guilt by association.”. BMJ 327 (7418): E236. doi:10.1136/bmjusa.03070001. http://www.bmj.com/cgi/content/full/bmjusa.03070001v1 2008年5月11日閲覧。. 
  3. ^ Ronald M Davis. Passive smoking - Peer review and press release. BMJ 2003;327:503
  4. ^ 訳注:おそらく本論文で求めた相対リスクの値が、他の研究の95%信頼区間の中に入っているということだと思われる。個別研究の多くは環境たばこ煙とたばこ関連疾患の間に正の相関を見出しているが、1.0が95%信頼区間の範囲に含まれている(有意ではない)
  5. ^ Enstrom, J. E.; Kabat, G. C. (2003). "Misleading BMJ USA editorial." BMJ 327: E266–E267. PMID 14684661. doi:10.1136/bmj.327.7429.E266
  6. ^ WHO Report of the Committee of Experts on Tobacco Industry Documents July 2000 Tobacco Company Strategies to Undermine Tobacco Control Activities at the World Health Organization
  7. ^ WHOたばこ産業文書に関する専門家委員会報告書(化学物質問題市民研究会による和訳)
  8. ^ LA Bero, S Glantz, M-K Hong. The limits of competing interest disclosures. Tobacco Control 2005;14:118-126
  9. ^ Civil Action No.99-CV-02496(GK)
  10. ^ DEFENDANTS DEVISED AND EXECUTED A SCHEME TO DEFRAUD CONSUMERS AND POTENTIAL CONSUMERS OF CIGARETTES IN MOST, BUT NOT ALL, OF THE AREAS ALLEGED BY THE GOVERNMENT アメリカ合衆国 vs. フィリップモリスらの裁判の判決文 (V.G.b.(4)節、p1380-1383)
  11. ^ Richard C. Paddock. UC to review the tobacco industry's funding of research. Los Angeles Times, 2007-03-28.
  12. ^ PD Thacker. Inside Higher Ed, February 8, 2007.


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