エンストローム論文 その後の利用

エンストローム論文

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/16 00:43 UTC 版)

その後の利用

前述のように他の多くの大規模コホート研究と異なる結果を主張する論文である。学界では上記のような致命的な瑕疵の指摘があるため、受動喫煙の影響に関する最新の64論文を評価した709頁にわたる詳細な総説「2006 Surgeon General's Report—The Health Consequences of Involuntary Exposure to Tobacco Smoke」からも削除されるなど、学界からの評価は低い。このように本論文は学術的価値よりも宣伝道具としての価値があり、非専門家向けの場・メディアで、取り上げられることがある。

  • 小谷野敦は自著『禁煙ファシズムと戦う』の中で本論文を紹介し、喫煙規制に反対する根拠のひとつとしている。

たばこ会社による詐欺事件として

1999年から米国政府は、2800億ドルという史上最大額の詐欺の件で、フィリップ・モリス等の9つの大手たばこ会社に対する訴訟を行っていた[9]。その公判の中で、著者のエンストロームのたばこ会社とのやりとりの内容が明らかにされた。

2006年8月、グラディス・ケスラー連邦地方裁判官は、約1700頁の判決文の中で、「たばこが無害であるとの主張に合うよう、たばこ会社は科学を操作した」と認定。その判決文によると、たばこ会社は味方になる「科学者」を見つけ、タバコ会社関連団体から資金を提供し、巨額の報酬を払い、その科学者とたばこ会社の関係を隠蔽していたという。[10]

ここでカリフォルニア大学のエンストロームは、その「科学者」の一人とされた。特に判決では、受動喫煙の健康への影響に関する科学研究を不正に変える、たばこ会社の4つの計画に言及した。そして、エンストロームの研究論文とたばこ会社との通信文が、大衆を欺く目的でたばこ会社が科学に操作を加えた証拠である、とした。

翌9月初めに米国がん協会(エンストロームはこの協会のデータを研究に利用した)は、カリフォルニア大学理事に対し、エンストロームを科学的根拠を不正に発表したことで非難する、との書信を送っている。 カリフォルニア大学のブラム理事長は、「フィリップ・モリスが売上げを伸ばすため、わが大学の名前とエンストロームの名前を利用した」と述べている。

エンストロームは、カリフォルニア大の研究者としてはとどまれたものの、教授の地位を失った。給料も大学から支給されなくなっている。(参考文献[11][12]


  1. ^ Enstrom, J. E.; Kabat, G. C. (5 2003). “Environmental tobacco smoke and tobacco related mortality in a prospective study of Californians, 1960-98.”. BMJ 326 (7398): 1057. doi:10.1136/bmj.326.7398.1057. PMID 12750205. http://www.bmj.com/cgi/content/full/326/7398/1057 2008年5月11日閲覧。. 
  2. ^ a b Woolf, S. H. (7 2003). “Tobacco money, the BMJ, and guilt by association.”. BMJ 327 (7418): E236. doi:10.1136/bmjusa.03070001. http://www.bmj.com/cgi/content/full/bmjusa.03070001v1 2008年5月11日閲覧。. 
  3. ^ Ronald M Davis. Passive smoking - Peer review and press release. BMJ 2003;327:503
  4. ^ 訳注:おそらく本論文で求めた相対リスクの値が、他の研究の95%信頼区間の中に入っているということだと思われる。個別研究の多くは環境たばこ煙とたばこ関連疾患の間に正の相関を見出しているが、1.0が95%信頼区間の範囲に含まれている(有意ではない)
  5. ^ Enstrom, J. E.; Kabat, G. C. (2003). "Misleading BMJ USA editorial." BMJ 327: E266–E267. PMID 14684661. doi:10.1136/bmj.327.7429.E266
  6. ^ WHO Report of the Committee of Experts on Tobacco Industry Documents July 2000 Tobacco Company Strategies to Undermine Tobacco Control Activities at the World Health Organization
  7. ^ WHOたばこ産業文書に関する専門家委員会報告書(化学物質問題市民研究会による和訳)
  8. ^ LA Bero, S Glantz, M-K Hong. The limits of competing interest disclosures. Tobacco Control 2005;14:118-126
  9. ^ Civil Action No.99-CV-02496(GK)
  10. ^ DEFENDANTS DEVISED AND EXECUTED A SCHEME TO DEFRAUD CONSUMERS AND POTENTIAL CONSUMERS OF CIGARETTES IN MOST, BUT NOT ALL, OF THE AREAS ALLEGED BY THE GOVERNMENT アメリカ合衆国 vs. フィリップモリスらの裁判の判決文 (V.G.b.(4)節、p1380-1383)
  11. ^ Richard C. Paddock. UC to review the tobacco industry's funding of research. Los Angeles Times, 2007-03-28.
  12. ^ PD Thacker. Inside Higher Ed, February 8, 2007.





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「エンストローム論文」の関連用語

エンストローム論文のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



エンストローム論文のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのエンストローム論文 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS