ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群 機序

ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/25 02:47 UTC 版)

機序

左側が通常の刺激伝導系、右側がウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群

原因として多くあげられるのは、Kent束(Bundle of Kent)と呼ばれる副伝導路の存在によるリエントリー回路の形成である。通常は洞房結節から発した電気信号は房室結節His束英語版英語版プルキンエ線維英語版を経て心室へ伝達される(刺激伝導系)が、この疾患では信号が刺激伝導系に加えてKent束を経由するルートにも伝わるため、発作が起きると拍動リズムが乱れる。発作時の脈拍は240回(bpm)以上に達することがある。また、あまりに心拍数が早すぎるために、脈を半分にとってしまう場合も多い。多くは放置しても自然に収まるが、長時間続く場合は投薬により抑える。失神などの症状もある。

また、Kent束は心房筋と同じ電気生理学的性質を有するため、心房細動時に心室への過度の伝導が生じ、とくに心房細動時にQRS間隔が0.2秒以内の例では心室細動に移行することもある。Kent束は、右房-右室(B type)あるいは左房-左室(A type)に存在するものがあり、稀に心室中隔に向かう症例もある。右房-右室(B type)では、右室が早期に興奮するために、興奮の伝わり方としては、右室が先で左室が後となるため心電図波形は左脚ブロック型となる。左房-左室(A type)ではその逆の右脚ブロック型となる[3]

心電図

正常な心電図の波形

心電図上の特徴としては、下記の3点が挙げられる。

  1. δ波の出現: P波の後に続くQRS波形にδ波(デルタは)が生じてくる。これは心室が早期に興奮することによる。δ波はQRS波の立ち上がり部分が斜めにゆっくり上昇し、三角形状の波が本来急角度で立ち上がるべきQRS波の前に追加されたような形状(Δ形)を示すことから名づけられた[2]
  2. PQ短縮: Kent束経由の興奮が、正常伝導路経由のそれより先に心室に伝導することによる。
  3. QRS延長: Kent束経由の興奮と正常伝導路経由のそれとが心室で合流し、幅広いQRS波を形成する。

また、心電図のV1の波形からA型、B型、C型と分類する方法も存在する。

臨床像

上室性頻拍、心房細動(Af)等を生じることが問題となるが、何も生じなければ自覚症状はない。

従来は高血圧脂質異常症(高脂血症)、肥満喫煙等の生活習慣をコントロールすることで改善されるとされてきたが、1980年代からの研究により、Afから心室細動(Vf)に移行するケースがあることが判明し、危険な不整脈であると位置づけられた。このため、発作が見られた場合は即座に専門医に診察してもらう必要がある。ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群に合併した発作性心房細動(PAF)は偽性心室頻拍と呼ばれ、通常のAfとは異なり、心房の興奮がKent束を介してそのまま心室に伝わるため、高度の頻脈、また心室細動から突然死に至る場合がある。特に心房細動の最短RR時間が250ms以下のものはハイリスクである[4]


  1. ^ 偽性心室頻拍は日本独自の名称で、欧米では「preecxited AF(早期興奮を伴う心房細動)」と呼ばれる。
  2. ^ a b WPW症候群(森博愛 心臓病と卯建のホームページ)
  3. ^ ハート先生の心電図教室(医学博士市田聡 心臓病看護教育研究会)
  4. ^ 永田恭敏 1枚の心電図から最新の治療へ No.25 日医雑誌 2016;145(7):1448-1449.






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