イエス・キリスト 名称

イエス・キリスト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/01 05:36 UTC 版)

名称

ヘブライ語では ישוע המשיחיֵשׁוּעַ הַמָשִׁיחַ /Yēšúa Ha-Mašīaḥ/ 、イェーシュア・ハ=マシーアハ)、「油を注がれた(聖別された)者(=メシア)であるイエス」という意味。

イエス

イエスの語源は、ヘブライ語で「ヤハウェיהוה)は救い(הוֹשִׁיעַ hoshía)」を意味する[4][14]ユダヤ人の男性名。原語であるヘブライ語では יֵשׁוּעַ Yēšúa(イェーシュア)または יְהוֹשֻׁעַ Yĕhōšúa(イェホーシューア、ヨシュア)。『旧約聖書』の「民数記」や「ヨシュア記」に登場するイスラエル人ユダヤ人)の指導者ヨシュアなどと同名である。他の預言者や王などと同様に、יהוהヤハウェ)の短縮形である יהו(Yah)を含む[4][14]。ただ、当時のユダヤ人としてはありふれた一般的な男性名であった。

日本語の「イエス」は、ヘブライ語のイェーシュア、またはアラム語: ܝܶܫܽܘܥ Yešū [jeʃuʕ](イェシュー)を元にしたと思われる古代ギリシア語あるいは古典ラテン語イエースース」の慣用的表記である。これらの表記の語尾は主格形であり、格変化すると異なる語尾に変化する。日本語の慣用表記「イエス」は、古典ギリシア語再建音から、日本語にない固有名詞の格変化語尾を省き、名詞幹のみとしたものである。

中世~現代ギリシア語からは「イイスース」と転写しうる。日本ハリストス正教会が用いる「イイスス」は、Ιησούς 中世ギリシア語・現代ギリシア語、あるいは教会スラヴ語に由来する転写である。正教古儀式派では、イススという、東スラヴ地域でかつて伝統的だった呼称を現在も用いている。

かつての日本カトリック教会では、教会ラテン語の発音からイエズスという語を用いていたが、現在ではエキュメニズムの流れに沿ってイエスに統一されている[注 5]

戦国時代から江戸時代初期にかけてのキリシタンは、ポルトガル語の発音からゼズまたはゼズスと呼んでいた。その他の読みとしてはエスとも[15]

アラビア語からは「イーサー」と転写しうる。

命名の告げ知らせ

この名は福音書によると、イエスが胎内にいる時に、ナザレのヨセフまたは聖母マリアに天使ガブリエルが現れて告げた名であると記されている。

主の使が夢に現れて言った、「ダビデの子ヨセフよ、心配しないでマリヤを妻として迎えるがよい。その胎内に宿っているものは聖霊によるのである。彼女は男の子を産むであろう。その名をイエスと名づけなさい。彼は、おのれの民をそのもろもろの罪から救う者となるからである」。 — 『マタイによる福音書第1章第20-21節口語訳聖書
六か月目に、御使ガブリエルが、神からつかわされて、ナザレというガリラヤの町の一処女のもとにきた。
「見よ、あなたはみごもって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい」。 — 『ルカによる福音書第1章第26節, 31節口語訳聖書

インマヌエル預言

紀元前8世紀頃に記されたとされる旧約聖書『イザヤ書』には、マリアの処女懐胎を想起させる記述がある。

それゆえ、主はみずから一つのしるしをあなたがたに与えられる。見よ、おとめがみごもって男の子を産む。その名はインマヌエルととなえられる。 — 『イザヤ書第7章第14節口語訳聖書

マタイによる福音書』では、これを引用して、預言の成就であると解釈している。

すべてこれらのことが起ったのは、主が預言者によって言われたことの成就するためである。すなわち、「見よ、おとめがみごもって男の子を産むであろう。その名はインマヌエルと呼ばれるであろう」。これは、「神われらと共にいます」という意味である。 — 『マタイによる福音書第1章第22-23節口語訳聖書

このため、「インマヌエル」という名がイエス・キリストの別名のような扱いをされることがある(聖歌「Veni, Veni, Emmanuel」など)。

キリスト

「キリスト」は、メシアヘブライ語: מָשִׁיחַMašīaḥアラム語: ܡܫܺܝܚܳܐ m'šīḥā')のギリシア語訳である Χριστός Khrīstós、およびラテン語: Christus の日本語慣用表記。「救世主」というニュアンスで理解されることが多いが、原義は「油を注がれた者」という意味である[16]。また元来、固有名詞ではなく称号である[17]

イエス・キリスト

「イエス・キリスト」はギリシア語で主格を並べた同格表現で、「キリストであるイエス」「イエスはキリストである」の意味である。

マタイ伝マルコ伝はそれぞれの冒頭で「ダビデの子イエス・キリスト」「神の子イエス・キリスト」と呼び表しており、この結合表現は新約の他の文書でも用いられている。パウロ書簡には「イエス・キリスト」と並んで「キリスト・イエス」の表現も見られるが、紀元1 - 2世紀の間に「イエス・キリスト」の方が定着していった。

「キリスト」は救い主への称号であったため、キリスト教の最初期においては、イエスを「イエス・キリスト」と呼ぶことは「イエスがキリストであることを信じる」という信仰告白そのものであったと考えられる。

しかし、キリスト教の歴史の早い段階において、「キリスト」が称号としてではなくイエスを指す固有名詞であるかのように扱われ始めたことも確かであり[注 6]、パウロ書簡においてすでに「キリスト」が固有名詞として扱われているという説もある[注 7][18]


注釈

  1. ^ 古代ギリシア語再建例: Iēsoûs Khrīstós イエースース・クリーストース、中世~現代ギリシア語: Ιησούς Χριστός [i.iˈsus xrisˈtos] 転写例: イイース・フリスース
  2. ^ 聖書ヘブライ語: Yēšúa [ˈjɛ.ʃuː.ə], 転写例: イェーシュア
  3. ^ 古典ラテン語: Iēsūs Chrīstus [iˈeːsuːs ˈkʰriːstus], 転写例: イエースース・クリーストゥス、教会ラテン語: [ˈjeːzus ˈkristus], 転写例: イェーズス・クストゥス
  4. ^ これはあくまでもキリスト教における伝承。実際には、紀元前6年紀元前4年頃 - 紀元後30年頃かと推測されている[1]。この場合、伝承によると32歳で亡くなっているが実際は34歳 - 36歳で亡くなったことになる。
  5. ^ これは、プロテスタントを初めとする他教派と共同で翻訳した『共同訳聖書』に「イエスス」を用いたところ内外からの批判が多く、後続版である『新共同訳聖書』では「イエス」(一部はメシア)に統一されたことによる。
  6. ^ ブルトマンは、ギリシア語 Χριστός が翻訳されることなく Christus としてラテン語に導入されたことを、固有名詞化の一根拠としている[18]
  7. ^ フィリピ3:20などに「主イエス・キリストが救い主として来られる」とある。ここでパウロが「キリスト」を称号として用いていたと想定すると、この句は単なる同語反復になる。
  8. ^ イエスの公生活中に「過越の祭り」が3回あったことから推定できる[54]
  9. ^ 「人の子」はしばしばイエス自身の事を指して用いられる[59]

出典

  1. ^ Jesus - ウェイバックマシン(2021年5月14日アーカイブ分)
  2. ^ X. レオン・デュフール(編集委員長)Z. イェール(翻訳監修者)、(1987年10月20日)『聖書思想事典』47頁 - 56頁、三省堂 ISBN 4385153507
  3. ^ フスト・ゴンサレス 著、鈴木浩 訳『キリスト教神学基本用語集』p73 - p75, 教文館 (2010/11)、ISBN 9784764240353
  4. ^ a b c Іисусъ, Іисусъ Христосъ - Полный церковнославянский словарь(『教会スラヴ語大辞典』)内のページ(画像ファイル)
  5. ^ Yahuah and Yahusha DENIED the Trinity”. boatrvgroup.com. 2020年12月7日閲覧。
  6. ^ John 1:18 No one has ever seen God, but the one and only Son, who is Himself God and is at the Father's side, has made Him known.”. biblehub.com. 2020年12月7日閲覧。
  7. ^ 1 John 5:7 For there are three that testify:”. biblehub.com. 2020年12月7日閲覧。
  8. ^ Mark 12:29 Interlinear: and Jesus answered him -- 'The first of all the commands is, Hear, O Israel, the Lord is our God, the Lord is one;”. biblehub.com. 2020年12月7日閲覧。
  9. ^ Matthew 22:37 Interlinear: And Jesus said to him, 'Thou shalt love the Lord thy God with all thy heart, and with all thy soul, and with all thine understanding --”. biblehub.com. 2020年12月7日閲覧。
  10. ^ Deuteronomy 6:4 Interlinear: Hear, O Israel, Jehovah our God is one Jehovah;”. biblehub.com. 2020年12月7日閲覧。
  11. ^ Deuteronomy 6:5 Interlinear: and thou hast loved Jehovah thy God with all thy heart, and with all thy soul, and with all thy might,”. biblehub.com. 2020年12月7日閲覧。
  12. ^ Yahuah and Yahusha DENIED the Trinity”. boatrvgroup.com. 2020年12月7日閲覧。
  13. ^ Psalm 110:1 Interlinear: A Psalm of David. The affirmation of Jehovah to my Lord: 'Sit at My right hand, Till I make thine enemies thy footstool.'”. biblehub.com. 2020年12月7日閲覧。
  14. ^ a b Origin of the Name of Jesus Christ - The Catholic Encyclopedia(『カトリック百科事典』)内のページ
  15. ^ 精選版 日本国語大辞典
  16. ^ “[kotobank.jp/word/油を注がれた者-1263742 油を注がれた者とは - コトバンク]”. 2021年8月11日閲覧。
  17. ^ Origin of the Name of Jesus Christ - The Catholic Encyclopedia (『カトリック百科事典』)内のページ
  18. ^ a b R.Bultmann 1961 Theologie des neuen Testaments
  19. ^ a b c d 正教会からの参照:Jesus Christ, Son of God, Incarnationアメリカ正教会
  20. ^ a b c d カトリック教会からの参照:Christologyカトリック百科事典
  21. ^ a b c d 聖公会からの参照(但しこの「39箇条」は現代の聖公会では絶対視はされていない):英国聖公会の39箇条(聖公会大綱)一1563年制定一
  22. ^ a b c d ルーテル教会からの参照:Christ Jesus.(Edited by: Erwin L. Lueker, Luther Poellot, Paul Jackson)
  23. ^ a b c 改革派教会からの参照:ウェストミンスター信仰基準
  24. ^ a b c d バプテストからの参照:Of God and of the Holy Trinity., Of Christ the Mediator. (いずれもThe 1677/89 London Baptist Confession of Faith)
  25. ^ a b c d メソジストからの参照:フスト・ゴンサレス 著、鈴木浩 訳『キリスト教神学基本用語集』p73 - p75, 教文館 (2010/11)、ISBN 9784764240353
  26. ^ ヨハネ書3:16~18
  27. ^ Theological Outlines • by • Francis J. Hall
  28. ^ Jaroslav Jan Pelikan; E. P. Sanders. “Jesus”. Encyclopædia Britannica. https://global.britannica.com/biography/Jesus 2020年5月4日閲覧。 
  29. ^ テサロニケの信徒への手紙一 1:9
  30. ^ コリントの信徒への手紙一 15:4
  31. ^ 新約聖書翻訳委員会 2004, p. 915.
  32. ^ マルコによる福音書 16:5
  33. ^ 新約聖書翻訳委員会 2004.
  34. ^ a b c d e f g 新約聖書翻訳委員会 2004, p. 916.
  35. ^ マタイ福音書 28:9
  36. ^ テサロニケの信徒への手紙一 3:13
  37. ^ コリントの信徒への手紙一 15:27
  38. ^ マタイ福音書 1:1
  39. ^ 使徒言行録 7:54
  40. ^ テサロニケの信徒への手紙一 1:10
  41. ^ コリントの信徒への手紙一 15:3
  42. ^ コリントの信徒への手紙一 15:20
  43. ^ マタイ福音書 1:18
  44. ^ マタイ福音書 1:21
  45. ^ 新約聖書翻訳委員会 2004, p. 91.
  46. ^ 新約聖書翻訳委員会 2004, p. 920.
  47. ^ 新約聖書翻訳委員会 2004, p. 495.
  48. ^ テサロニケの信徒への手紙一 4:15
  49. ^ 新約聖書翻訳委員会 2004, p. 921.
  50. ^ コリントの信徒への手紙一 第15章
  51. ^ 新約聖書翻訳委員会 2004, p. 939.
  52. ^ ヨハネ黙示録 12:10
  53. ^ 3. なぜ12月25日にイエスの誕生を祝うのですか。 - ウェイバックマシン
  54. ^ W・ウォルシャム・ハウ著『聖ヨハネ伝註解』p.101、1919年、聖公会出版社。
  55. ^ カトリック中央協議会(2002年)『カトリック教会のカテキズム』298頁 - 299頁、ISBN 4877501010
  56. ^ J. Radermakeres, P. Grelot(1987年10月20日)『聖書思想事典』730頁 - 735頁 三省堂
  57. ^ 日本ハリストス正教会教団(昭和55年)『正教要理』52頁 - 55頁
  58. ^ イエスが父と呼んだ神 第三回 ナザレのイエスへのアプローチ (岩島忠彦:上智大学神学部教授)
  59. ^ マタイ 8:20マタイ 9:6
  60. ^ マタイ 24:30
  61. ^ マルコ 13:26





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

イエス・キリストのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



イエス・キリストのページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのイエス・キリスト (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2022 GRAS Group, Inc.RSS