あっせん 集団労働紛争

あっせん

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/18 01:02 UTC 版)

集団労働紛争

労働関係調整法に定める三つある労働争議調整手段(あっせん、調停仲裁)の一つである。手続が簡易で機動的なため、三つの手段の中で最も多く用いられている[2]

労働争議が発生したときは、労働委員会の会長[3]は、関係当事者の双方若しくは一方の申請又は職権に基いて、あっせん員名簿に記されている者の中から、あっせん員を指名しなければならない。但し、労働委員会の同意を得れば、あっせん員名簿に記されていない者を臨時のあっせん員に委嘱することもできる(労働関係調整法第12条1項)。あっせん員の指名は、一事件につき2名以上でも差し支えなく(昭和22年5月15日労発263号)、多くの労働委員会では公・労・使の3名(三者構成)のあっせん員で構成している[4]

労働委員会は、あっせん員候補者を委嘱し[5]、その名簿を作製して置かなければならない(労働関係調整法第10条)。あっせん員候補者の氏名、閲歴等は、少なくとも年一回中央労働委員会にあっては官報に、都道府県労働委員会にあっては当該都道府県公報に公示するとともに、適宜新聞紙等によって公表するものとする(労働委員会規則第68条)。あっせん員候補者の名簿には、次の各号に掲げる事項を記載する(労働委員会規則第67条)。

  • 氏名及び職業
  • 経験及び閲歴
  • 委嘱の日付

あっせん員候補者は、学識経験を有する者で、労働争議の解決につき援助を与えることができる者でなければならないが、その労働委員会の管轄区域内に住んでいる者でなくても差し支えない(労働関係調整法第11条)。昭和27年の改正法施行によりあっせん員候補者と労働委員会の委員との兼職は妨げないことになった。特別調整委員とあっせん員候補者との兼職も勿論妨げない(昭和27年8月1日労発133号)。あっせん員候補者の選定基準(昭和21年10月14日厚生省発労44号)は、

  • あっせん員候補者は原則として中立的立場にある者につき委嘱すること。但し過去において労働運動の経験者であり、又は使用者であった者でも、現在基準に照して適格者であれば、必ずしも過去の立場に拘泥する必要はないこと。又労働委員会の委員中よりあっせん員候補者を委嘱することは勿論差支えないこと。
  • あっせん員候補者は労働問題につき理解を有し、かつ労働関係の当事者に信望のある者であると共に、労働問題に関連する法律、経済及社会問題について相当の知識乃至経験を有する者でなければならないこと。
  • あっせん員候補者は必要に応じ何時でもあっせん員として活動し得る時間的余裕を有する者なること。
  • あっせん員候補者の人選に際しては、当該地方の各産業に亘り夫々適任者を委嘱し置くよう考慮すること。
  • あっせん員候補者の員数は当該地方の産業の分布、労働関係の実情等によりなるべく多数委嘱して置くことが望ましいが要は真の適当者を得ることに重点を置き、員数に拘泥する必要はないこと。

あっせん員は、あっせんを開始するにあたり、関係当事者に対して、労働組合法第7条4号に規定する事項(報復的不当労働行為の禁止)及びあっせんを行うに必要な事項について、趣旨の徹底を図らなければならない(労働委員会規則第66条1項)。あっせん員は、関係当事者間をあっせんし、双方の主張の要点を確め、事件が解決されるように努めなければならない(労働関係調整法第13条)。あっせん員がその職務に関して知ることができた秘密は、漏らしてはならない(労働関係調整法施行令第6条)。あっせん員は、自分の手では事件が解決される見込がないときは、その事件から手を引き、事件の要点を労働委員会に報告しなければならない(労働関係調整法第14条)。つまり、両当事者間で合意に至らなかったり、あっせん案をいずれか一方でも拒否した場合は、あっせんは不成立となり終了する。また、あっせん員が解決の見込みがないと判断した場合は、あっせん案を作成することなく終了する場合もありうる。

  • 労働関係調整法上のあっせんは、労働争議の解決につき当事者の自主的な努力に対して援助を与え、之を和解せしめることを目的とした制度であるから、あっせん員はその職務の遂行に当っては、この根本精神に則り苟も弾圧干渉に亘ること等は絶対にないよう特に注意すると共に或は当事者の主張は別々に之を聴取し、或は一方の意見を他方に伝え、又は当事者の希望がある場合にはその交渉に立会う等、機に臨み変に応じて適宜の処置を執ることに細心の注意を払い、以て事件の円満な解決に到達するよう努力しなければならないこと(昭和21年10月14日厚生省発労44号)。つまり、あっせんの進め方や解決方法はすべてあっせん員の裁量に委ねられている[6]

あっせん員は、政令で定めるところにより、その職務を行うために要する費用の弁償を受けることができ(労働関係調整法第14条の2)、中央労働委員会のあっせん員が弁償を受ける費用の種類及び金額は、行政職俸給表(一)の10級の職務にある者が旅費法の規定に基づいて受ける旅費の種類及び金額と同一とする。このほか、費用の支給については、旅費法の定めるところによる(労働関係調整法施行令第6条の2)。都道府県労働委員会のあっせん員が弁償を受ける費用の種類、金額及び支給方法は、当該都道府県の条例の定めるところによる(労働関係調整法施行令第6条の3)。なお、あっせん員候補者が任意にあっせんを行った場合には、労働関係調整法のあっせんの規定並びに費用弁償の規定の適用はない(昭和22年8月15日長野県民生部長あて厚生省労政局労政課長通知)。

労働関係調整法第2章(あっせん)の規定は、労働争議の当事者が、双方の合意又は労働協約の定により、別のあっせん方法によって、事件の解決を図ることを妨げるものではない(労働関係調整法第16条)。

  • 第16条の方法により、公務員たる労政事務所或いは所員があっせんを行う場合には特に当事者双方の依頼ある場合にあっせんを行うべきで、苟くも、当事者双方に働きかけあっせんを自己に依頼するように持ちかけるが如きことがあってはならないこと(昭和23年2月24日労発96号)。

  1. ^ 。法改正の結果、労働関係調整法第12条には、漢字表記の「斡旋員」という文言と、ひらがな表記の「あつせん員」という文言が併存している。
  2. ^ 令和4年労働委員会年報-第2章第1節労働争議調整の概況中央労働委員会 - 令和4年に労働委員会が関与した労働争議調整事件の終結状況をみると、終結した全187件のうち186件があっせんであった。大部分の事件があっせんとなっている傾向は毎年変わっていない。
  3. ^ あっせんに関する労働委員会の権限は、その労働争議が一の都道府県の区域内のみに係るものであるときは当該都道府県労働委員会が、その労働争議が二以上の都道府県にわたるものであるとき、中央労働委員会が全国的に重要な問題に係るものであると認めたものであるとき、又は緊急調整の決定に係るものであるときは、中央労働委員会が行う。この規定により中央労働委員会の権限に属する特定の事件の処理につき、中央労働委員会が必要があると認めて関係都道府県労働委員会のうちその一を指定したときは、当該事件の処理は、その都道府県労働委員会が行う(労働関係調整法施行令第2条の2)。
  4. ^ 令和4年労働委員会年報によれば、令和4年に労働委員会が関与した新規係属あっせん事件におけるあっせん員の構成状況をみると、あっせん員の指名がされた全147件のうち105件が三者構成であった。大部分の事件が三者構成となっている傾向は毎年変わっていない。
  5. ^ あっせん員候補者は、公務員とは解せられない(昭和28年5月27日労収第803号)。あっせん員の身分については、地方公務員法第3条に定める特別職に該当する地方公務員と解する。あっせん員に指名されたときに地方公務員となるものと解する(昭和39年9月19日鹿児島地労委事務局長あて労働省労政局労働法規課長通知)。
  6. ^ 令和4年労働委員会年報によれば、令和4年に労働委員会が関与した労働争議調整事件の終結状況をみると、あっせんによって終結した全186件のうちあっせん員があっせん案を提示したのは41件であった。あっせん案が提示される割合が30%前後である傾向は毎年変わっていない。ただ、あっせん案が提示された41件中35件が解決したのに対し、提示されなかった145件中解決は45件であり、あっせん案が提示されると高い解決率となっている。
  7. ^ あっせん案を両当事者が受け入れたとしても、そのことをもって強制執行を行うことはできず、強制執行を実現するためには改めて裁判で確定判決を得る必要がある。


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