パイこね変換とは? わかりやすく解説

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パイこね変換

(baker's transformation から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/20 03:26 UTC 版)

パン生地をこねる女の子。押し潰しては折り畳むを繰り返すことによってなぜ生地が一様になっていくかについて、数理的な説明を与えている変換とも言える[1][2]

パイこね変換(パイこねへんかん、英語: baker's transformation)とは、2次元の離散力学系の一種で、カオスを生み出す典型的な仕組みを抜き出した基礎的な系として知られる[3][1]。名称は料理におけるパイ生地を引き延ばして折り畳む操作に因む[4][5]パイこね写像(パイこねしゃぞう、英語: baker's map)とも呼ばれる場合もある[1][6]

パイこね変換の原案は、エーベルハルト・ホップ英語版により1937年に考案された[7]。ホップによると、元々の英語名称の"baker's transformation"は、1949年のジョン・フォン・ノイマンとの会話の中でノイマンが命名したものである[7]。日本語への直訳では「パン屋変換」や「パン屋写像」となるが、「パン屋」や「パンこね」ではなく「パイこね」が日本語名称として慣習的に用いられている[6]

保存系の場合

変換

パイこね変換は、単位正方形からそれ自身への写像変換)として定義される[8]。さらに、力学系には大きく分けて保存系散逸系が存在する[9]。パイこね変換についても以下のように保存系と散逸系が与えられる。

パイこね変換が保存系の場合、単位正方形 E = [0, 1] × [0, 1] に対する変換 f: EE は次のように与えられる[4][8]

保存系のパイこね変換の模式図。最左の図から中央左の図への操作が「引き延ばし」に相当し、中央右の図から最右の図への操作が「折り畳み」に相当する。


上記の2の操作のときに、平行移動ではなく折り返す(180°回転させる)ようなパイこね変換も存在する。カオスを生み出す機構としては本質的にどちらでも変わらない[1]。折り返す場合の保存系のパイこね変換は次のように示される[13]

保存系パイこね変換を4回繰り返したときの様子。初期に有った顔が混じっていく。


初期点同士が離れる度合いは指数関数的で、カオスの特徴である初期値鋭敏性を発する。2つの初期点が離れていく度合いを示すリアプノフ指数は、第一リアプノフ指数を λ1、第二リアプノフ指数を λ2 とすれば、λ1 = log 2、 λ2 = −log 2 となる[1]。ここで log は自然対数である。リアプノフ・スペクトルは {λ1, λ2} = {log 2, −log 2} で、最大リアプノフ指数は λ1 = log 2 で正の値を取る一方、全リアプノフ指数の和は λ1 + λ2 = log 2 + (−log 2) = 0 であり、保存系のカオスが持つ性質が示される[14]

単位正方形上での実際の軌道と初期値鋭敏性の例。青の軌道の初期座標は (0.2 + 10−5, 0.2 + 10−5)。オレンジの軌道の初期座標は (0.2 − 10−5, 0.2 − 10−5)。

散逸系の場合

変換

散逸系の場合のパイこね変換は次のように与えられる[4][11][6]

散逸系のパイこね変換の模式図。a = 0.3 の場合。保存系の場合と同様に、最左の図から中央左の図への操作が「引き延ばし」に相当し、中央右の図から最右の図への操作が「折り畳み」に相当する。

漸近挙動

保存系の場合と同様に、変換を再帰的に繰り返し適用すると、初期の各点は離れ離れになっていく。すなわち初期値鋭敏性を持つ[15]。しかし保存系の場合と異なり、散逸系の場合は変換を適用するたびに、初期領域は帯状に分割されていき、その帯の面積も減少していく[15]。1つの帯の幅は変換の度に a 倍されるので、n 回変換後の各帯の幅は an となる。帯の数は変換のたびに2倍されるので、n 回変換後はその数は 2n となる。

散逸系パイこね変換を4回繰り返したときの様子。a = 0.3 の場合。初期に有った顔が混じっていき、さらに初期領域(黄色部分)は帯状に分割されながら面積が減少していく。


変換を繰り返すたびに帯は薄くなり、その数は増加していくことになるが、その極限は次のようになっている。fn 回の反復合成を f n で表し、 A = f ∞(E) がパイこね変換を無限に適用したときに得られる部分集合を表すとする。このとき、A の極限は実際に存在し、f ∞(A) = A を満たす不変集合である[16][11]。さらに、Aフラクタルであり、カントール集合の一種となっている。この場合、ハウスドルフ次元 dimH A とボックス次元 dimB A は一致しており、それらの値は




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