Wake-Robin
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| ジョン・バロウズの自然エッセイ集 | |
| 基本情報 | |
|---|---|
| 著者 | ジョン・バロウズ |
| 国 | |
| 言語 | 英語 |
| ジャンル | 自然随筆(ネイチャーライティング)、鳥類学入門 |
| 刊行 | 1871年 |
| 出版社 | Hurd and Houghton(印刷:リバーサイド・プレス) |
| 収録 | 8編の随筆 |
『ウェイク・ロビン』(Wake-Robin)は、アメリカ合衆国の博物学者・随筆家ジョン・バロウズによる自然エッセイ集である。1871年に刊行された。バロウズにとって商業出版された最初の自然エッセイ集であり[1]、著者自身が序文で「鳥についての本、より正確には鳥類学の研究への招待」と位置づけた作品である[2]。
概要
本書は、バロウズの2冊目の著書にあたる。最初の著書『ウォルト・ホイットマンについての覚え書き』(Notes on Walt Whitman as Poet and Person)は、ホイットマン自身が執筆に関与した可能性があるとされる特異な書物であり、バロウズが自らの領域に踏み出した最初の作品が本書だと評されてきた[1]。
書名の「ウェイク・ロビン」は、北米に自生するエンレイソウ属(Trillium)の植物の通称である。バロウズは序文で、この花が咲くのを見つけると春の到来を知る、という趣旨を述べ、鳥たちの帰還の季節を象徴する名として書名に選んだ[2][3]。
背景・刊行経緯
バロウズは1871年の刊行時点で40歳に近く、本書は「若々しい熱意に満ちた」作品と評されている[1]。署名本に残された著者自身の書き込みによれば、本書所収の随筆はワシントンの財務省で事務官を務めていた1864年から1866年にかけて書かれたという[4]。
初版は1871年にHurd and Houghton社から刊行され、印刷はケンブリッジのリバーサイド・プレスが担当した[1]。初版の装丁には3種の変異があり、先後関係は不明とされる[1]。のちに著者が改訂・増補した第2版が出され[2]、英国ではLow and Marston社が刊行した[3]。また、1870年代から1900年代にかけて多数の版が出ている[5]。
内容
本書は8編のエッセイからなる。[6]
- 目次[7]
- 鳥たちの帰還(The Return of the Birds)
- ヘムロックの森で(In the Hemlocks)
- アディロンダック(Adirondac)
- 鳥の巣(Birds'-Nests)
- 首都の春(Spring at the Capital)
- カバノキ散策(Birch Browsings)
- ブルーバード(The Bluebird)
- 招待(The Invitation)
各章の要約のあとに、その章の印象的な一節の原文と和文(試訳)を載せる。[8]
第1章:鳥たちの帰還
- 原題
- The Return of the Birds
- 概要
- 春(3月中旬〜6月中旬)の訪れとともに、南の越冬地から順次戻ってくる渡り鳥たちの観察から始まる。早い順に、ルリツグミ(Eastern Bluebird, Sialia sialis)、アメリカコマドリ(American Robin, Turdus migratorius)が現れ、5月にはツバメ類とムクドリモドキ類、6月にはツグミ類の名歌手たちが加わる。バロウズは、鳥の来去の不思議さ、静かな鳥さえ春には歌のような声を出すこと、植物と同様に鳥の分布も土地の地質や樹種に左右されることなどを、身近な観察をもとに語る。巣作りの下手なアメリカコマドリへの愛情ある苦言、ヘビに襲われる巣を目撃する場面、夏の終わりの高空を滑るタカと、秋の渡りの静けさも描く。
- 代表的なフレーズ
"And yonder bluebird with the earth tinge on his breast and the sky tinge on his back,—did he come down out of heaven on that bright March morning when he told us so softly and plaintively that if we pleased, spring had come?"
(試訳:胸に大地の色彩を、背に天空の色彩をまとったあそこのルリツグミは、あのように柔らかく物悲しげに『お気に召せば、春がやってまいりました』と告げたあの明るい3月の朝、天国から舞い降りてきたのだろうか?)
第2章:ツガの森にて
- 原題
- In the Hemlocks
- 概要
- デラウェア川の源流域にある古いツガ(Hemlocks)の森を、6月のある日に歩く記録である。バロウズはここで40種を超える夏鳥を数え、歌・姿・巣を手がかりに一種ずつ見分けていく。なかでも、遠くから聞こえるチャイロコツグミ(Hermit Thrush, Catharus guttatus)の夕べの歌を、自然のなかでもっとも美しい音として讃える。豊かな森の中で、アカムネアメリカムシクイ(Blackburnian warbler)などが可憐な姿を見せ、ミソサザイ(Winter wren)の力強い歌声がきこえる。一方で、ムシクイ類の巣に托卵されたコウウチョウ(Brown-headed Cowbird, Molothrus ater)の雛を水に落とす場面では、自然の残酷さと自らの行為を率直に書く。エリマキライチョウ(Ruffed Grouse, Bonasa umbellus)のドラミングや、苔むした森の静けさも描かれ、暮れ方の歌に包まれて章を閉じる。
- 代表的なフレーズ
"A bird’s song contains a clew to its life, and establishes a sympathy, an understanding, between itself and the listener."
(試訳:鳥の歌にはその生命の手がかりが含まれており、鳥自身と聴き手との間に、共感と理解を打ち立てるのです。)
"Listening to this strain on the lone mountain, with the full moon just rounded from the horizon, the pomp of your cities and the pride of your civilization seemed trivial and cheap."
(試訳:人けのない山で、昇ったばかりの満月のもと、この旋律に耳を傾けていると、都会の華やかさも文明の誇りも、取るに足らない安っぽいものに思えました。)
第3章:アディロンダック山地
- 原題
- Adirondac
- 概要
- 1863年夏に敢行した、ニューヨーク州北部の未開の地アディロンダック山地への旅の記録である。ボレアス川(Boreas River)でのヤマメ(Brook trout)釣りや、未知の山中洞窟の探検エピソードが語られる。ネイツ池(Nate's Pond)にて、手作りの反射カヌー灯(Jack)を用いて夜の湖に漕ぎ出し、水辺にたたずむシカを観察・捕獲する「ナイト・フロート(Float for deer)」の緊張感溢れる描写が特徴的である。廃村となった旧アディロンダック鉄工所の哀愁漂う風景や、文明から離れた原始自然との対話を描く。
- 代表的なフレーズ
"In the woods are sounds and voices, and a dumb kind of companionship; one is little more than a walking tree himself; but come upon one of these mountain-lakes, and the wildness stands relieved and meets you face to face."
(試訳:森の中には音や声、そして寡黙な仲間意識が存在し、人自身もまるで歩く木の一本に過ぎないかのようだ。しかし、こうした山中の湖に行き当たると、荒野の野性味が際立ち、人と正面から向き合うことになる。)
第4章:鳥の巣
- 原題
- Birds’-nests
- 概要
- 巣作りと営巣場所に関する観察を集めた章。バロウズは、巣をつくる鳥を物陰から観察する方法を語り、枯れ木を掘り抜くキツツキの巣穴、ハチドリの巣、ボルチモアムクドリモドキ(Baltimore Oriole, Icterus galbula)の見事な吊り巣などを比較する。鳥は人家の近くや道端にも営巣すること、小鳥の営巣場所は鳥自身の天敵を意識したものであること、托卵の被害、つがいの一方を失った鳥が新しい相手を迎える習性なども取り上げられる。章の終盤では、ワシの巣のまれさに触れたあと、鳥の巣の習性を五つの類型に整理する。
- 代表的なフレーズ
"But the nest of nests, the ideal nest, after we have left the deep woods, is unquestionably that of the Baltimore oriole. It is the only perfectly pensile nest we have."
(試訳:しかし、深い森を離れた後に出会う『巣の中の巣』、すなわち理想の巣とは、疑いなくボルチモアムクドリモドキのものである。それは我々が目にすることのできる唯一の完璧な吊り巣なのだ。)
"The woods hold not such another gem as the nest of the humming-bird. The finding of one is an event to date from."
(試訳:森にハチドリの巣ほどの宝石はありません。それを見つけた日は、その後も思い出になるほどです。)
第5章:首都の春
- 原題
-
Spring at the Capital
- 副題:With an Eye to the Birds(鳥に目を向けて)
- 概要
- 1863年秋にワシントンへ移り住んで以来の観察を、季節順に語る。ワシントンは冬も温暖で、野の花が年間を通じて見られる。市の境を出ればすぐに原野があり、ヒメコンドル(Turkey Vulture, Cathartes aura)、カラス、ツバメ、多くの渡り鳥が、街中の公園や官庁の庭にも姿を見せる。リンカーンの2度目の就任式の日の散歩が含まれる。
- 後半は、街の北のロック・クリーク周辺の渓谷を歩き、早春のカタクリ、スミレ、イワナシなどの野花とアメリカムシクイの声を記録し、国会議事堂の白いドームが丘の上に浮かぶ眺めで締めくくる。
- 代表的なフレーズ
"There is, perhaps, not another city in the Union that has on its very threshold so much natural beauty and grandeur, such as men seek for in remote forests and mountains."
(試訳:人々が遥か遠くの森や山に求めるようなこれほどの自然美と雄大さを、その玄関口に抱えている都市は、合衆国広しといえども他に存在しないかもしれない。)
第6章:カバノキの森を歩く
- 原題
- Birch Browsings
- 概要
- ニューヨーク州南部、キャッツキル山脈(カタスキル山地)の奥にある、人の少ない山岳地帯を紹介する章。カバノキ原生林が山頂を覆い、渓流にはブルック・トラウトが多い。1868年6月、バロウズは友人2人とトーマス湖(Thomas's Lake)へマス釣りに出かけるが、案内人の教えどおりに「左へ進む」うちに道に迷い、二晩を山中で過ごし、巨大な岩陰で夜を明かした。湖を見つけた喜び、美しい湖でのヤマメ釣り、放牧された野性のウシたちとの出会い、夜の森に響くツグミやミソサザイの歌声、再び道に迷う失敗、ウィルダネスでの飢えと笑いが、ユーモアを交えて描かれる。最後は、48時間ぶりに出発点の農家へ戻り、疲労とともに若返ったと語る。
- 代表的なフレーズ
"There it was at last, sparkling in the morning sun, and as beautiful as a dream. It was so good to come upon such open space and such bright hues, after wandering in the dim, dense woods!"
(試訳:ついにそこにあったのだ。朝日にきらめき、まるで夢のように美しかった。薄暗く生い茂った森を彷徨ったのち、これほどひらけた空間と明るい色彩に出会えたことは、なんと素晴らしいことだろう!)
第7章:ルリツグミ
- 原題
- The Bluebird
- 概要
- 北米の春の訪れを告げるルリツグミ1種を主題にする。自然が空と大地をなだめるために、背に空の色を、胸に大地の色を与えた「平和の使者」として描かれる。早春に最初に色彩をもたらす鳥であり、声は「バミューダ」と聞こえるという。バロウズは、ヨーロッパのロビンとの比較、西部のルリツグミ類、営巣習性を語り、夫婦の役割分担をユーモラスに論じる。後半は、巣箱をめぐって繰り広げられるイエミソサザイ(House-wren)やツバメとの激しい家奪い合いのドラマ、伴侶を失っても直ちに新たなパートナーを探す力強い生命力をユーモアを交えて写し出す。
- 代表的なフレーズ
"When Nature made the bluebird she wished to propitiate both the sky and the earth, so she gave him the color of the one on his back and the hue of the other on his breast, and ordained that his appearance in spring should denote that the strife and war between these two elements was at an end."
(試訳:自然がルリツグミを創作したとき、天空と大地の双方を和解させようと望んだ。そのため、背には天空の色を、胸には大地の色彩を与え、春にその姿が現れることは、これら二つの要素の間の争いと戦争が終わったことを意味すると定めたのである。)
第8章:招き
- 原題
- The Invitation
- 概要
- 本書の締めくくりにあたる、読者への「招待」の章である。読者を野鳥観察(Ornithology)と自然の驚異の世界へと誘う。少年時代に森で未知の鳥を目撃した時の感動を振り返り「啓示」だったと語り、野鳥観察は釣りや狩り、農作業や散歩といったあらゆる野外の営みと結びつき、出かけるたびに新しい発見がある、と述べる。図鑑や専門書は案内であって代用にはならないと説き、自らの目と耳でフィールドに出ることの喜びと価値を説く。オーデュボンやウィルソンなどの先人の業績に触れつつ、アメリカムシクイ類(Warblers)、タイランチョウ類(Flycatchers)、ツグミ類(Thrushes)、アトリ類(Finches)などの主要な鳥類の観察・分類法、歩く鳥(Walkers)と跳ねる鳥(Hoppers)の生態的違いなど、実践的な観察の極意を解説している。迷鳥のアジサシの話で章を閉じる。
- 代表的なフレーズ
"Ornithology cannot be satisfactorily learned from the books. The satisfaction is in learning it from nature. One must have an original experience with the birds. The books are only the guide, the invitation."
(試訳:鳥類学(野鳥観察)は本だけから十分に学ぶことはできません。満足感は自然から学ぶことの中にこそあります。自分と鳥たちとの直接的な体験を持たなければならないのです。本は案内であり、招待状にすぎないのですから。)
"Secrets lurk on all sides. There is news in every bush. Expectation is ever on tiptoe."
(試訳:秘密はあらゆるところにひそんでいます。茂みごとに便りがあります。期待はいつもつま先立ちです。)
特徴
バロウズは、剥製にラベルを付けた標本としてではなく、森や野にいる生きた鳥を、その場の雰囲気や連想とともに描こうとしたと述べている[9]。鳥を追い、発見する過程そのものに関心があったという著者の姿勢は、事実に忠実でありつつも、科学者というより経験豊かで表現力に富む観察者のものだと紹介されている[10]。
影響・評価
刊行当時の書評は好意的であった。ウィリアム・ディーン・ハウエルズは『アトランティック・マンスリー』誌で、森の薄暗さと涼しさ、静けさが読者を包み込むような本であり、真の詩情とユーモアがあると評した(エドワード・レネハンの伝記による)[4]。
後世の評者フラートン(Fullerton)は、バロウズを自然随筆におけるソローの後継者と位置づけ、倫理的意義の自覚ではソローに劣るが、共感の深さでは並び、科学的精神ではソローをはるかに上回ると評している[1]。
関連作品
脚注
- 1 2 3 4 5 6 “BURROUGHS, John. Wake-Robin. New York: Hurd and Houghton, 1871”. Raptis Rare Books. 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 3 “Wake-Robin by John Burroughs”. Project Gutenberg. 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 “Complete Works of John Burroughs (sample)”. Delphi Classics. 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 “Burroughs, John. Wake-Robin (inscribed and signed)”. Bauman Rare Books. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Wake robin / by John Burroughs (Catalog Record)”. HathiTrust Digital Library. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ 初版(1871年)では7編であり、第7章「ブルーバード」は第2版(1876年)で追加された。
- ↑ 章題の和文は試訳である。
- ↑ 参照先はすべてProject Gutenbergに収録のものから。John Burroughs (1877). “Publishers' Note to Second Edition”. Wake-Robin (Second edition, corrected, enlarged, and illustrated ed.). Hurd and Houghton 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Wake-Robin: A Collection of Essays about the Birds (Dover Publications, 2017)”. Biblio. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Wake-Robin: A Collection of Essays about the Birds (Dover Publications, 2017)”. Biblio. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “鳥と詩人 自然と文学を愛する人たちへ”. 新評論. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Wake-Robin (Read Books, 2016)”. Sunriver Books. 2026年10月8日閲覧。
外部リンク
- Wake-Robin - プロジェクト・グーテンベルク(英語)
- Wake-robin(1899年版) - インターネットアーカイブ(英語)
- Wake-Robinのページへのリンク