dlshogi
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/20 15:02 UTC 版)
作者 | 山岡忠夫 |
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最新版 |
最新モデルは棋神アナリティクスで公開 / 第32回世界コンピュータ将棋選手権バージョン / 2022年5月8日[1]
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リポジトリ | https://github.com/TadaoYamaoka/DeepLearningShogi |
プログラミング 言語 |
C++、Python |
対応OS | |
種別 | 将棋エンジン |
ライセンス | GNU GPL v3 |
dlshogi(ディーエルしょうぎ)またはdlshogi with HEROZ(ディーエルしょうぎウィズヒーローズ)は、コンピュータ将棋のプログラム。世界コンピュータ将棋選手権や電竜戦TSECなどで多くの優勝経験を持つ強豪ソフトの一つ。ディープラーニングを用いた評価関数を特徴とする。
概要
dlshogiは従来のCPUで動くNNUE系将棋AIとは異なり、GPUを使用する[2][3]。
最新版は将棋ウォーズを運営するHEROZのサブスクリプションサービスである「棋神アナリティクス」で利用できる[4]。
特徴
ディープラーニング系の特徴として序盤の大局観が優れていると評価されている[8]。
藤井聡太は、2020年にCPUで動かすNNUE系の将棋ソフト「水匠」[注釈 1][9]を利用していることを明かしている[10][11]。その後、2020年度の王将リーグが終わった頃に、プロ棋士の中でもいち早くGPUで動かすディープラーニング系の将棋ソフト「dlshogi」を導入した[2][3]。2021年には、藤井は「dlshogi」が従来のCPUで動かす将棋ソフトと比較して序盤に優位性があると認識しているが、終盤は「水匠」の方が正確な場合が多いとも評している[2]。「dlshogi」を研究に導入してから、藤井にディープラーニング系の将棋ソフトに特徴的な手が見られるようになったと指摘する声もある[3]。
渡辺明もAI研究のために高性能パソコンとともに水匠とディープラーニング系ソフトのdlshogiを導入したと述べている[12]。
開発
2016年3月のAlphaGo対李世乭の対局後、2016年4月にAlphaGoのクローンを開発することから始まった、AlphaGoの手法を参考にディープラーニングを将棋に応用するプロジェクトである[13]。2017年の第27回世界コンピュータ将棋選手権に出場したPonanza Chainerが将棋へのディープラーニングの適用に成功したという情報を受け、2017年4月のブログ記事「コンピュータ将棋におけるディープラーニングの考察」を元に将棋AIの開発を開始した[13]。これは2017年12月のAlphaZero Shogiの発表より早い[13]。
開発者の山岡は「dlshogi」の開発において、既存のライブラリ、特に「やねうら王」の使用を避ける方針を取っている。2019年の世界コンピュータ将棋選手権では、決勝進出ソフトすべてがやねうら王のライブラリを使用しており、優勝したのもやねうら王本体であった。一方、dlshogiは二次予選で敗退している。山岡は「やねうら王は使いたくない」と述べており、「やねうら王を使ってしまったら、派生品のようになってしまう。それが嫌だった」と理由を説明している。一方で、合法手生成などの処理にはAperyのライブラリを使用している[5]。ただし、GitHubのREADMEには「王手生成などに、やねうら王のソースコードを流用しています」と記載されており、特定機能に限った部分的な利用が行われている[14]。
GCT電竜との違い
GCT(DeepLearningShogi for Google Colab TPU/Training)は、Google Colab TPU/GPUを活用し、無料または安価なゲーミングPCでdlshogiを強くする方法を追求するプロジェクトである[13]。AlphaZeroは5000台のTPUを利用して学習しており、dlshogiは個人で調達可能なハイエンドGPUを3枚使用していたが、新規参入のハードルが上がってしまっていたため、これを解決する方法としてGoogle Colabに注目した[13]。
GCTは、dlshogiをベースとしつつ、より多様な学習データを取り入れて開発された。dlshogiは、ディープラーニングによって将棋AIを強化することを目的として2017年より開発が始まり、従来型将棋AIの自己対局データやfloodgateの棋譜などを使用せず、自前の強化学習による学習に特化していた。また、個人のリソースでも強いモデルを構築できることを重視しており、AobaZeroのような大規模計算環境で生成された棋譜は用いていなかった[15]。
一方、GCTではGoogle Colab上でdlshogiを動作させつつ、floodgateの棋譜や従来型AIの自己対局データ、AobaZeroの棋譜など、既存の高精度な棋譜データを積極的に活用して学習を行っていた。また、第1回世界将棋AI電竜戦の直前には、AWSの最新GPU(NVIDIA A100)を用いる体制が整い、開発者間での協力を通じてdlshogiの強化学習データや実装上の改良点も共有された。その結果、GCTはSwish関数を用いた高精度なモデルによる学習を実現し、同大会で優勝を果たすに至った[15]。
この結果は、従来のディープラーニング将棋AIが大会で上位に食い込むことすら難しかった中で、既存の高精度な棋譜を活用する意義を実証するものとなった。dlshogi本体の開発にも影響を与え、以後は棋譜の量よりも精度を重視した学習方針が採られるようになった[15]。
大会実績
世界コンピュータ将棋選手権
- 第32回(2022年) - 優勝
- 第33回(2023年) - 優勝
- 第34回(2024年) - 準優勝
- 第35回(2025年) - 3位
電竜戦
本戦
- 第2回電竜戦本戦(2021年) - 凖優勝[16]
- 第3回電竜戦本戦(2022年) - 凖優勝[17]
- 第4回電竜戦本戦(2023年) - 準優勝[18]
- 第5回電竜戦本戦(2024年) - 準優勝[19]
TESC
関連書籍
- 『強い将棋ソフトの創りかた Pythonで実装するディープラーニング将棋AI』山岡忠夫・加納邦彦、Compass Booksシリーズ ISBN 978-4839977344
- 本書は dlshogi そのものをメインとした解説書ではないが、著者の山岡が開発するディープラーニング系将棋AIの開発思想や技術的背景に触れており、類似手法を学ぶ上での参考となる。
脚注
注釈
- ^ 2020年に開催された世界コンピュータ将棋オンライン大会では「水匠」が優勝した。
出典
- ^ “Releases”. GitHub. 2025年6月20日閲覧。
- ^ a b c “【藤井聡太×広瀬章人】将棋研究2.0 第71期王将リーグ特集”. ライブドアニュース. (2021年9月19日) 2022年1月31日閲覧。
- ^ a b c “棋士たちはAIとさらなる高みへ 藤井聡太は「人間とは違うレベルに到達しつつある」”. クローズアップ現代. 日本放送協会. (2021年10月7日) 2022年2月4日閲覧。
- ^ “最強将棋AIで研究できる「棋神アナリティクス」。Webブラウザから利用可能”. PC Watch. インプレス (2022年7月5日). 2025年6月18日閲覧。
- ^ a b “最強CPU将棋ソフト『水匠』VS最強GPU将棋ソフト『dlshogi』長時間マッチ観戦記 第二譜『dlshogi』山岡忠夫の信念”. ニコニコニュース オリジナル. カドカワ (2021年10月20日). 2025年6月18日閲覧。
- ^ “最先端将棋AI「dlshogi」開発者が語る 4連覇藤井聡太棋聖の強さの秘訣「AIは指せない相手のミスを誘う勝負の一手」”. サンスポ. 産経新聞 (2023年7月19日). 2025年6月18日閲覧。
- ^ “将棋AI開発者が語る「藤井聡太五冠」の秘めた世界 AIが自らの一手を言葉で説明する時代がくる”. 東洋経済オンライン. 東洋経済 (2022年5月3日). 2025年6月19日閲覧。
- ^ “(19ページ目)半年後に将棋の神様が現れるかもしれない話──最強将棋ソフト開発者が語る“ディープラーニング勢の台頭による将棋ソフトの進化””. 文春オンライン. 文藝春秋 (2021年1月21日). 2025年6月18日閲覧。
- ^ “最強CPU将棋ソフト『水匠』VS最強GPU将棋ソフト『dlshogi』長時間マッチ観戦記 第一譜『水匠』杉村達也の挑戦”. ニコニコニュースORIGINAL. (2021年10月19日) 2022年2月21日閲覧。
- ^ “藤井聡太さんが研究に使っている将棋ソフトについて”. やねうら王. (2022年1月23日) 2022年2月20日閲覧。
- ^ 赤旗名人戦千葉・市原大会. (2020年12月22日). “2020年12月22日時点のツイート”. Twitter. 2022年3月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。- 「人間は深く読まずとも判断ができる “AI超え”の手 なぜ指せた」『しんぶん赤旗日曜版』2021年12月27日・1月3日合併号。
- ^ 松本博文 (2021年8月16日). “渡辺明名人、1秒間に8000万手読むコンピュータを購入しディープラーニング系のソフトも導入”. Yahoo!ニュース. Yahoo! JAPAN. 2025年3月13日閲覧。
- ^ a b c d e 『強い将棋ソフトの創りかた Pythonで実装するディープラーニング将棋AI』山岡忠夫・加納邦彦 192頁。
- ^ “GitHub - TadaoYamaoka/DeepLearningShogi”. GitHub. 2025年6月18日閲覧。
- ^ a b c 『強い将棋ソフトの創りかた Pythonで実装するディープラーニング将棋AI』山岡忠夫・加納邦彦 197頁。
- ^ 第2回電竜戦本戦 大会結果
- ^ 第3回電竜戦本戦 大会結果
- ^ 第4回電竜戦本戦 大会結果
- ^ 文部科学大臣杯第5回世界将棋AI電竜戦本戦
- ^ 第3回電竜戦TSEC 大会結果
- ^ 第4回電竜戦TSEC 大会結果
- ^ 【第1部】第5回電竜戦TSEC 勝敗表
関連項目
外部リンク
- Dlshogiのページへのリンク