カレントミラーとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > カレントミラーの意味・解説 

カレントミラー

(Current mirror から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/05 03:45 UTC 版)

カレントミラー(英 : Current mirror)とは、能動素子を用いて他の回路に流れる参照電流をコピーし、負荷にかかわらず出力電流を参照電流と同じ値に保つことができる電子回路である。その「コピー」される電流は時に信号電流であってもよい。

概念的には、理想的なカレントミラー回路は電流方向を逆にする理想的な「反転電流増幅回路」である。あるいは、電流制御電流源(CCCS)であるとも言える。カレントミラーはバイアス電流と能動負荷を回路に供給するためだけに用いられるのでなく、より現実的な電流源のモデルとしても用いられる(理想的な電流源は存在しないため)。

ここで扱う回路構成は、多くの半導体集積回路で用いられているものであり、それは出力トランジスタ側でのエミッター減衰抵抗のないワイドラー電流源に相当する。この構成は、集積回路でのみ用いられる。なぜなら、2つのトランジスタの特性が極めて近くなければならず、それはディスクリート素子では実現不可能だからである。

他の回路構成としては、ウィルソン・カレントミラー回路がある。このウィルソン回路はアーリー効果に起因する問題を低減することができる。

特徴

カレントミラー回路を特徴づけるものとしては、以下の3つの特性がある。

一つ目は、伝達比(電流増幅回路の場合)あるいは出力電流強度(定電流源の場合)である。

二つ目は、出力電流が負荷に対してどの程度変動するかを決定する交流出力抵抗である。

三つ目は、正常動作をするのに必要なミラー出力部における最低電圧降下である。この最低電圧は、ミラー回路の出力トランジスタがアクティブ動作を保つのに必要な電圧である。ミラー回路が正常動作する電圧範囲を許容範囲(コンプライアンス範囲)と呼び、回路が正常/不良動作をするその境界の電圧を許容電圧(コンプライアンス電圧)と呼ぶ。ミラー回路は、温度変化に対する安定性などのたくさんの二次的な性能を決める要因がある。

実用上の近似

小信号解析では、カレントミラー回路はノートン等価回路として近似される。

大信号解析では、カレントミラー回路は通常、単純に理想的な電流源として近似される。しかし、理想的な電流源はいくつかの点において非現実的である:

  • 無限大の交流インピーダンスを持つこと(実際のミラー回路は有限のインピーダンスを持つ)。
  • 電圧にかかわらず一定の電流を供給すること。つまり、許容電圧が存在しないこと。
  • 周波数制限が存在しないこと(実際のミラー回路はトランジスタの寄生容量によって制限が存在する)。
  • 環境(例えばノイズ、電源電圧の変動、素子の公差など)に対して影響を受けないこと。

カレントミラー回路の実現

基本的な考え方

バイポーラトランジスタは最も簡単な電流-電流変換器であるが、その伝達比は温度変化、βの公差に大きく依存する。これらの変動を除去するために、カレントミラー回路は同じ条件で配置された2つの電流-電圧変換器、電圧-電流変換器をカスケード接続している。

これらの変換器は必ずしも線形動作である必要はなく、必要なことはただその特性が対称的であることである(例えば、以下で見るようにバイポーラトランジスタでのカレントミラー回路では、出力は入力に対して対数的な変化であったり指数的な変化である)。

通常、二つの同一の変換素子が用いられるが、片方の素子の特性は負のフィードバックをかけることによって反転することができる。例えば、バイポーラトランジスタのベース-エミッタ間に電圧を入力し、コレクタ電流を出力する場合を考えると、トランジスタは入力に対して指数関数的に出力が変化する電圧-電流変換器となる。入力に負のフィードバック(簡単にはベースとコレクタを接続)を行う事でトランジスタ動作を「反転」することができ、対数的に出力が変化する電流-電圧変換器となる。つまり所望のコレクタ電流が流れるように「出力」であるベース-エミッタ間電圧が自動的に決定されるということである。

したがって、カレントミラー回路は2つの等価な変換器(一つは反転動作、もう一つは通常動作)のカスケード接続から構成されていると言える。

バイポーラトランジスタを用いた基本的なカレントミラー回路

図1:npnバイポーラトランジスタを用いて構成したカレントミラー回路。抵抗器を用いて参照電流IREFの大きさを決めている;VCCは電源電圧。

最も簡単なバイポーラカレントミラー回路(図1)はこの考え方によって構成されている。 これは二段のカスケード接続されたトランジスタからなり、トランジスタQ1, Q2はそれぞれ反転動作 / 通常動作の電圧-電流変換器としての役割を果たしている。

トランジスタQ1のエミッタは接地されていて、コレクタ-ベース間電圧は0である。このため、Q1の電圧降下はVBEで、この電圧はダイオード方程式に従って決められる。また、Q1のこの接続方法は、ダイオード接続と呼ばれている(Ebers-Mollモデルも参照のこと)。

回路中で単にダイオードではなく、トランジスタQ1を用いることは重要である。なぜなら、Q1Q2におけるVBEも決定するからである。もしQ1Q2の特性がほぼ等しい場合、またQ2VCBが0になるようにミラー回路出力電圧VOUTを選べば、Q1によって決定されたVBEの値により、Q2を流れるエミッタ電流はQ1を流れるエミッタ電流と等しい値になる。Q1Q2の特性が等しいので、β0についてもまた等しく、ミラー出力電流もQ1のコレクタ電流と等しくなる。

ミラー回路による出力トランジスタを流れる電流は、任意のコレクタ-ベース間電圧VCBに対して、以下の式で与えられる。

図2 : nチャネルMOSFETを用いたカレントミラー回路。抵抗器を用いて参照電流IREFの大きさを決めている。 VDDは電源電圧。

MOSFETを用いた基本的なカレントミラー回路

図2に示すように、基本的なカレントミラー回路はMOSFETを用いることでも構成することができる。トランジスタM1は飽和領域、あるいはアクティブ領域にあり、M2についても同様である。この構成では、以下で示すように出力電流IOUTIREFとの関係は陽に表すことができる。

MOSFETのドレイン電流IDは、ID = f (VGS, VDG)で与えられるようにゲート-ソース間電圧VGS及びドレイン-ゲート間電圧VDGの関数であり、これはMOSFETデバイスの特性から導出される。

カレントミラー回路におけるM1を流れる電流は、ID = IREFである。参照電流IREFは既知の値を持つ電流であり、以下で示すように抵抗によって供給されたり、あるいは電源電圧の変動に対して一定であることを保証するために、「閾値電圧参照型」や「自己バイアス型」の電流源が用いられる[1]

M1VDG = 0とすると、ID = f (VGS, 0) = IREFで表されるようにIREFVGSと一対一の対応がつく。したがってIREFは、VGSの値を一意に決定する。

図2の回路ではM2にもM1と同じ大きさのVGSが印加されている。もしもM2もまたVDG = 0であり、そしてM1M2の特性(例えばチャネル長、幅、閾値電圧など)がほぼ等しい場合には、出力側でもIOUT = f (VGS, VDG = 0) = IREFという電流を得ることができる。つまり、出力側でVDG = 0であり、両者のトランジスタが同じ特性であれば、出力電流は参照電流と同じになる。

ドレイン-ソース間電圧は、VDS = VDG + VGSで表される。この式を代入することで、Shichman-Hodgesモデルによってf (VGS, VDG)の近似的な関数が与えられる[2]

図3: 出力抵抗を大きくするためにオペアンプフィードバックを用いたゲイン増強型カレントミラー回路。
MOSFETを用いたゲイン増強型カレントミラー回路。M1M2はアクティブ動作モードであり、一方M3M4は線形動作モードであり抵抗であるかのように動作する。オペアンプは高い出力抵抗を得るためにフィードバックを加えている。

図3には出力抵抗を大きくするために負帰還を加えたカレントミラー回路が示してある。オペアンプがあることによって、これらの回路はゲイン増強型カレントミラー回路と呼ばれることもある。あるいは許容電圧が比較的低いため、ワイドスイング型カレントミラー回路と呼ばれることもある。とりわけMOSFETを用いたミラー回路では、この考えに基づいた様々な回路が用いられる[6][7][8]。なぜなら、MOSFETはそれ自体の出力抵抗がそもそも小さいからである。図4にはMOSFETを用いたゲイン増強型カレントミラー回路が示されている。ここで、M3M4は線形領域で動作しており、図3におけるエミッター抵抗REと同じ役割を果たしている。M1M2は飽和領域で動作しており、図3におけるQ1Q2と同じ役割を果たしている。図3の回路がどのような動作をするかは以下の通りである。

オペアンプには、抵抗REに接続されているQ1, Q2のエミッター端の電圧差V1V2が入力される。この電圧差はオペアンプによって増幅され、出力トランジスタQ2のベースに出力する。もしもVBEが増大すると、Q2を流れる電流は増大し、RE電圧降下が大きくなるためV2も増大し、V1V2は小さくなる。結果的に、Q2のベース電圧は小さくなり、Q2VBEも減少し、出力電流の増大が相殺されることになる。

オペアンプのゲインAvが十分大きいのであれば、ほんの僅かな電圧差V1V2によってQ2のベース電圧VBを十分供給することができる。つまり、

図5: ミラー回路の出力抵抗を導出するための小信号等価回路; トランジスタQ2はハイブリッドπ回路によって置き換わっている。出力端から電流IXを流した時に電圧VXが現れたとすると、出力抵抗はRout = VX / IXである。

出力抵抗の理想的な取り扱いは注釈を参考のこと[nb 2]。上記の議論の理想的な場合、つまりオペアンプのゲインが無限大である場合の表式は以下の通りである。有限のゲインAvを持つオペアンプ以外はすべて理想的な素子を用いた小信号回路は図5の通りである(β, ro, rπ はいずれもQ2のパラメータである)。図5の等価回路を導出するにあたり、図3のオペアンプの正端子への入力は交流的に接地されているため、オペアンプへの入力は負端子に単にエミッタ電圧Veが入力されており、したがって出力で電圧は−Av Veである。オームの法則を入力抵抗rπに適用することで、小信号ベース電流Ibは以下のように表される。

出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。2022年7月
  1. ^ Paul R. Gray; Paul J. Hurst; Stephen H. Lewis; Robert G. Meyer (2001). Analysis and Design of Analog Integrated Circuits (Fourth ed.). New York: Wiley. p. 308–309. ISBN 0-471-32168-0 
  2. ^ Gray. Eq. 1.165, p. 44. ISBN 0-471-32168-0 
  3. ^ R. Jacob Baker (2010). CMOS Circuit Design, Layout and Simulation (Third ed.). New York: Wiley-IEEE. pp. 297, §9.2.1 and Figure 20.28, p. 636. ISBN 978-0-470-88132-3 
  4. ^ NanoDotTek Report NDT14-08-2007, 12 August 2007 Archived 17 June 2012 at the Wayback Machine.
  5. ^ Gray. p. 44. ISBN 0-471-32168-0 
  6. ^ R. Jacob Baker. § 20.2.4 pp. 645–646. ISBN 978-0-470-88132-3 
  7. ^ Ivanov V. I., Filanovksy I. M. (2004). Operational amplifier speed and accuracy improvement: analog circuit design with structural methodology (The Kluwer international series in engineering and computer science, v. 763 ed.). Boston, Mass.: Kluwer Academic. p. §6.1, p. 105–108. ISBN 1-4020-7772-6. https://books.google.com/books?id=IuLsny9wKIIC&pg=PA110&dq=gain+boost+wide++%22current+mirror%22#PPA107,M1 
  8. ^ W. M. C. Sansen (2006). Analog design essentials. New York; Berlin: Springer. p. §0310, p. 93. ISBN 0-387-25746-2 

外部リンク




英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「カレントミラー」の関連用語

カレントミラーのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



カレントミラーのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのカレントミラー (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS