金沢シーサイドライン新杉田駅逆走事故
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金沢シーサイドライン 新杉田駅逆走事故 |
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金沢シーサイドライン新杉田駅ホーム
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発生日 | 2019年6月1日 |
発生時刻 | 20時15分頃 |
国 | ![]() |
場所 | 神奈川県横浜市磯子区新杉田町 新杉田駅構内 |
路線 | 金沢シーサイドライン |
運行者 | 横浜シーサイドライン |
事故種類 | 逆走事故 |
原因 | 配線の断線 |
統計 | |
列車数 | 1(2000形第41編成5両) |
死者 | なし |
負傷者 | 17人[1] |
金沢シーサイドライン新杉田駅逆走事故(かなざわシーサイドラインしんすぎたえきぎゃくそうじこ)は、2019年(令和元年)6月1日、横浜シーサイドラインが運行する金沢シーサイドライン(AGT路線)の新杉田駅で列車が逆走し車止めに衝突、乗客が負傷した事故である。同路線初の鉄道人身障害事故となった。
概要
2019年(令和元年)6月1日20時15分ごろ、新杉田発並木中央行きの電車(2000形5両編成、無人自動運転)は旅客の乗降を終え、ドアが閉まると同時に本来の進行方向とは逆方向に向かって走り出し、25メートル先の車止めに衝突した。全車両のモーターが進行方向とは逆に動き、20 km/h以上で車止め(油圧式緩衝装置タイプ)に衝突したと見られている[2][3]。運輸安全委員会は翌2日の午前から事故調査を開始した[4]。
6月2日までの神奈川県警察の発表では本件事故により乗客計14人が負傷[4]と報告されたが、後日まとめられた運輸安全委員会の報告によると負傷者17名、うち重傷12名であった[5]。
なお、当該車両は6月2日午後から3日1時までに、別の車両によって車両基地まで牽引され収容された[6]。
2023年6月15日、神奈川県警は車両を設計した総合車両製作所の担当者3人を業務上過失致傷の容疑で書類送検した。車両の設計不備が事故につながったと判断した[7][8]。12月8日、横浜地方検察庁は「逆走の予見可能性を認めるに足りる証拠が得られなかった」 として3人を不起訴とした[9]。
原因および対策
運輸安全委員会の事故調査報告書によると、直接の原因は進行方向を下り方向へ設定・指示する回路が1両目の客室の後部左側にある機器室内で地絡ショートし断線したことである[5]。また、システム上の問題として、上下いずれの進行方向も指示されない場合はモーター制御装置に記憶保持された進行方向を引き継いでそのまま走行する仕様となっていたこと、地上側での進行方向の確認をモーター制御装置よりも上流部分である運転台選択線で行っていたため断線を把握できなかったことが挙げられ、これらのいずれかが適切な仕様であれば列車は発車しなかった。さらに、ATCの後退検知機能が「指示された進行方向と逆に走行」した場合に機能する仕様となっており、回路断線で進行方向の指示がどちらにもない状態で転動を検知した場合は機能しない仕様であったため非常ブレーキが作動しなかった。
事故後、金沢シーサイドラインでは、モーター制御装置について進行方向の指示がある場合にのみ加速するように変更し、走行方向の指示がない場合にはATCの後退検知機能が両方向とも機能するよう変更した。そして地上側に返す進行方向状態を運転台選択線ではなく断線を起こした進行方向選択線とし、またその進行方向選択線はループ回路としその情報はその末端で取得するよう変更した。
影響
事故発生後よりバスによる代行輸送が横浜市営バス・京急バスを中心に実施され、並行してJR線・京浜急行電鉄・京急バスによる振替輸送も行われた[2][10][11]。国土交通省は安全が確認できるまでの間、運行禁止措置を発令した[10]。
事故から3日後の6月4日朝までに事故車両以外の15編成の確認を行い、国土交通省と協議、同日午前11時より運転を再開[12][13]。安全確保のため、自動運転ではなく運転士乗務による手動運転を行い、運転士の数に限りがあるため、通常の65%程度の本数(運転間隔約7~10分)による特別ダイヤでの運転再開となった[12]。代行バスは運転再開後も平日ラッシュ時を中心に引き続き運行されている[12]。
6月4日より新杉田駅では2番線のみを使って運転をしていたが、復旧作業が終了したため6月16日より1番線の使用を再開した[14]。
2019年7月1日以降、平日朝夕のラッシュ時の運行本数を増便する一方、利用者の少ない早朝や深夜の運行を減便すること、土曜休日は原則10分間隔で運行すること、これらの臨時ダイヤ改定により平日朝の新杉田駅 - 市大医学部駅間の代行輸送バスは運行を取りやめる(振替輸送は継続)ことが6月26日に発表された。なお、無人による完全自動運転の再開の目途はたっていないとも伝えられた[15]。
8月31日から保安要員を運転席に同乗させる形で自動運転が再開し[1]、9月6日からは完全自動運転が3か月ぶりに再開した[16]。完全自動運転再開から約1か月間は万一に備えて両方の終端駅に保安要員を配置すると報じられている[16]。
この事故の影響で、毎年春に開催している『シーサイドラインフェスタ』が2020年の開催中止を発表した[17]。その直後に、新型コロナウイルスの感染拡大防止も重なったことから、2024年の開催までおよそ5年間実施されなかった。
脚注
- ^ a b 「自動運転を再開 運転席には保安要員を配置」『神奈川新聞』2019年8月31日。オリジナルの2019年9月1日時点におけるアーカイブ。2019年9月8日閲覧。
- ^ a b 「車両のモーター、一斉に逆作動…4日も全線で運休の見込み」『読売新聞』2019年6月4日。オリジナルの2019年6月8日時点におけるアーカイブ。2019年6月4日閲覧。
- ^ 「シーサイドライン時速20キロ以上で衝突か 全車両モーター動く」『毎日新聞』2019年6月3日。オリジナルの2019年6月4日時点におけるアーカイブ。2019年6月4日閲覧。
- ^ a b 「逆走事故、運輸安全委が調査…再開めど立たず」『読売新聞』2019年6月2日。オリジナルの2019年6月8日時点におけるアーカイブ。2019年6月4日閲覧。
- ^ a b 鉄道事故調査報告書 - 運輸安全委員会、2021年2月18日
- ^ 「床がめくれ、連結部にゆがみ 逆走のシーサイドライン」『朝日新聞デジタル』2019年6月3日。オリジナルの2019年6月4日時点におけるアーカイブ。2019年6月4日閲覧。
- ^ 「シーサイドライン逆走、業務上過失致傷容疑でメーカーの3人書類送検」『毎日新聞』2023年6月15日。オリジナルの2023年6月15日時点におけるアーカイブ。2023年6月15日閲覧。
- ^ 「シーサイドライン逆走 業務上過失致傷容疑で製造会社員らを書類送検」『朝日新聞』2023年6月15日。オリジナルの2023年6月15日時点におけるアーカイブ。2023年6月15日閲覧。
- ^ 「横浜のシーサイドライン逆走、3人不起訴 設計担当者ら嫌疑不十分」『産経新聞』2023年12月8日。オリジナルの2023年12月8日時点におけるアーカイブ。2023年12月8日閲覧。
- ^ a b 「シーサイドラインが逆走し衝突、20人負傷か 横浜」『朝日新聞デジタル』2019年6月1日。オリジナルの2019年6月1日時点におけるアーカイブ。2019年6月1日閲覧。
- ^ 「シーサイドライン車両逆走、横浜 重傷含め20人程度けがのもよう」『共同通信』2019年6月1日。オリジナルの2019年6月1日時点におけるアーカイブ。2019年6月1日閲覧。
- ^ a b c 「シーサイドライン、有人運転で再開 代行バスも」『朝日新聞デジタル』2019年6月4日。オリジナルの2019年6月4日時点におけるアーカイブ。2019年6月5日閲覧。
- ^ 『横浜シーサイドライン運転再開について』(PDF)(プレスリリース)横浜シーサイドライン、2019年6月4日 。2019年6月4日閲覧。
- ^ 『新杉田駅ホーム 1番線の使用再開について』(PDF)(プレスリリース)横浜シーサイドライン、2019年6月14日 。2019年6月19日閲覧。
- ^ 「7月から朝夕増便 逆走事故のシーサイドライン、自動運転メド立たず」『神奈川新聞』2019年6月26日。オリジナルの2019年6月26日時点におけるアーカイブ。2019年6月27日閲覧。
- ^ a b 「3カ月ぶり完全自動運転 本数も回復、通勤客「よかった」」『神奈川新聞』2019年9月6日。オリジナルの2019年9月9日時点におけるアーカイブ。2019年9月8日閲覧。
- ^ “「シーサイドラインフェスタ 2020」は開催を中止させて頂きます”. 株式会社横浜シーサイドライン営業課. 2024年3月30日閲覧。
関連項目
- Osaka Metro南港ポートタウン線(ニュートラム/AGT路線) - 1993年に住之江公園駅で車止めに衝突する事故が発生している(ニュートラム暴走衝突事故)。
- 関東鉄道常総線列車衝突事故
外部リンク
- シーサイドライン(横浜シーサイドライン)
- (金沢シーサイドライン)鉄道人身障害事故調査の経過報告について - 運輸安全委員会 2020年02月27日公表
- 金沢シーサイドライン新杉田駅逆走事故のページへのリンク