大悪改鋳とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 大悪改鋳の意味・解説 

大悪改鋳

(通貨悪鋳 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/04 09:47 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動

大悪改鋳(だいあくかいちゅう、The Great Debasement )、または大悪鋳(だいあくちゅう)は、イングランド経済政策の1つ。ヘンリー8世の治世中に財政補填のために実施された貨幣改鋳[1]で、1540年代の対フランス戦争が直接の契機で行われた[2]

ヘンリー8世

1545年フランススコットランドと戦争をしていたヘンリー8世は、戦費調達のため、16パーセントの高金利の借金や国内の鉛の輸出を行なった。さらに1536年以降に没収した修道院や教会の財産を処分し、王領地を売却したがそれでも足りず、貨幣の改鋳を行なうこととなった[3]ヘンリー8世 (イングランド王)#フランス出兵と「乱暴な求愛」参照)。これは品質を落とすことで発行する通貨の量を増やし、不足する財源に充てる悪改鋳と呼ばれる政策で、ヘンリー8世は「造幣局を能力の限界まで稼働させた」と言われた[2]

1526年に行なった改鋳では銀貨の純度を2分の1にしたヘンリー8世は、1544年から1546年にかけての改鋳でさらに3分の1に引き下げた[4]

当時のイングランドはフランドルに向けた毛織物の輸出が急増し、その8割以上をロンドン港が押さえるようになって「ロンドン=アントウェルペン枢軸」が形成された。地方港湾都市が衰退する一方でロンドンは繁栄したが、改鋳による為替の変動やオランダ独立戦争によってアントウェルペンの市場は崩壊し、枢軸も解体した[5]

ヘンリー8世没後の財政

ヘンリー8世の死後、国家は重い負債を抱えることになった[6]。物価はテューダー朝の治世期を通して上昇し続け、特にヘンリー8世の改鋳によって引き起こされた物価の高騰が多くの困窮者を生み出し、農民一揆も頻発した[7]

摂政となったサマセット公エドワード・シーモアもフランスとの戦争費用調達のために、王領地の売却や通貨の悪改鋳を行なった[8]。サマセット公による改鋳で貨幣の銀純度は4分の1にまで引き下げられた[4]

エドワード・シーモア失脚後に権力を握ったノーサンバーランド公爵ジョン・ダドリーも財政補填のため1551年に同様に貨幣の品質を落とす改鋳を行なった。しかし、通貨の信用失墜によるインフレーションが進行したことから、翌1552年には貨幣の品質を高めると同時に財政改革に着手することになった[9]

しかし、女王エリザベス1世トーマス・グレシャムの助力を得て貨幣問題に着手していたころには、当時スペイン領だったアメリカの鉱山から金銀がヨーロッパに流入し、これがさらに物価の高騰をもたらした[10]。さらにそれまでの貨幣「悪鋳」によって為替レートが低下し国内の毛織物産業が輸出を伸ばしていたが、「良貨」の鋳造により為替レートが急騰し、輸出に歯止めがかけられることになった[11][12]

こうして活況だったイングランド経済は、1550年を境に16世紀後半は不況に陥ることになった[13]

脚注

  1. ^ ピーター・バーンスタイン著 『ゴールド 金と人間の文明史』 日経ビジネス人文庫、79頁、294頁。
  2. ^ a b 『ゴールド 金と人間の文明史』 ピーター・バーンスタイン著 日経ビジネス人文庫、236頁。
  3. ^ ピーター・バーンスタイン著 『ゴールド 金と人間の文明史』 日経ビジネス人文庫、225頁。今井宏編 『世界歴史大系 イギリス史 2 -近世-』 山川出版社、55頁。川北稔編 『イギリス史』 山川出版社、151頁。
  4. ^ a b エイザ・ブリッグズ著 『イングランド社会史』 筑摩書房、195頁。
  5. ^ 今井宏編 『世界歴史大系 イギリス史 2 -近世-』 山川出版社、133頁。
  6. ^ G.M.トレヴェリアン著 『イギリス史 2』 みすず書房、42-43頁。
  7. ^ G.M.トレヴェリアン著 『イギリス史 2』 みすず書房、46頁、80頁。
  8. ^ 今井宏編 『世界歴史大系 イギリス史 2 -近世-』 山川出版社、57頁。
  9. ^ 今井宏編 『世界歴史大系 イギリス史 2 -近世-』 山川出版社、60頁。川北稔編 『イギリス史』 山川出版社、160-161頁。
  10. ^ G.M.トレヴェリアン著 『イギリス史 2』 みすず書房、80頁。
  11. ^ 川北稔編 『イギリス史』 山川出版社、155頁。
  12. ^ 自国の通貨安は輸出に有利に働く一方、通貨高だと輸出産業にとっては不利になる。
  13. ^ 川北稔編 『イギリス史』 山川出版社、155頁、166-167頁。

参考文献




英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  大悪改鋳のページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「大悪改鋳」の関連用語

大悪改鋳のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



大悪改鋳のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの大悪改鋳 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS