矢部高校いじめ自殺事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/26 17:59 UTC 版)
矢部高校いじめ自殺事件(やべこうこういじめじさつじけん)は、日本で起きたいじめ自殺事件。
概要
事件の発生
2013年4月14日に、熊本県立矢部高等学校に通う3年生の生徒がいじめの可能性をうかがわせるメモを残して自殺していたということが明らかとなった。このメモには学校生活がつらいということが記述されていた。同日には記者会見が行われ、そこでの校長によると、生徒は4月11日の朝に自殺を図り、搬送先の病院で死亡が確認されていた。メモは自殺した生徒の携帯電話に残されていたもので、このメモには個人名の記載は無かった。学校によるといじめは把握していなかったとのこと[1]。
事件から
2021年5月17日に、自殺をした生徒の両親と兄は、自殺をしたのはいじめが原因であり、学校側も適切な対応を怠っていたとして、熊本地方裁判所に損害賠償を求める裁判を起こした[2]。訴状によると、この自殺した生徒は2013年3月から4月にかけてダンスの練習でうまく踊れなかったことを強く非難されて同じところを何十回も踊らされたり、顔がきもいなどと揶揄されていた[3]。踊れない姿の動画を撮影されて笑われるということもされていた[4]。遺族は同級生への聞き取りなどを行うことで、いじめをしていたであろう人を特定して提訴していた[5]。
自殺した生徒の両親にはいじめに関わったとされる生徒の氏名が黒塗りにされた第三者委員会による調査報告書が渡されていたが、両親はこれを不満に思い、黒塗りの部分の開示を求める裁判を起こす。報告書ではいじめが自殺の一因になったと指摘されて、いじめた生徒らの実名が記載されていた。遺族は熊本県に黒塗りにされていない報告書の開示を求めたのだが、熊本県からは同様の事案が起きた場合に聞き取りに応じる関係者の精神的負担が増えることなどから却下していた[6]。2023年4月5日に黒塗りにされていた所も開示して熊本地方裁判所に提出するように福岡高等裁判所から行われていた命令が確定した。この福岡高等裁判所での命令に対して熊本県教育委員会は不服として最高裁判所に特別抗告していたものが棄却されたため。このことに対して自殺した生徒の弁護士は、これでようやく裁判で具体的な主張を始めることができるとした[7]。この決定を受け遺族側の代理人弁護士は開示されていなければ誰がどの行為をしたのかさえ知ることはできなかったとし、遺族は10年が経ちようやく全容を知ることができるとした[4]。
2024年1月には黒塗りにされていない調査報告書から、提訴していた同級生の他にもいじめに関与していた同級生の存在が明らかとなり、遺族は新たに1人を提訴したということが明らかとなった。代理人弁護士によると2023年11月に新たに提訴していた[8]。
2025年7月1日までに、遺族によって複数の同級生と熊本県を相手取って熊本地方裁判所で起こされていた訴訟が、2025年2月に遺族側が訴えの取り下げを申し出て、その後に取り下げが認められていたということが明らかとなった。ここでは代理人弁護士は取り下げの理由や訴訟の状況を明らかにしていない[9]。6月30日付で訴訟は終結していた[10]。7月15日の報道では、遺族はこれ以上の裁判の長期化を避けるために和解することにしていたと話していたとのこと[11]。
脚注
- ^ “「つらい学校生活」高3女子生徒が自殺、いじめの可能性調査 熊本”. INTERNET ARCHIVE. 2025年8月26日閲覧。
- ^ “熊本の高3自殺「いじめが原因」 遺族、県と同級生に賠償求め提訴”. 西日本新聞 (2021年5月18日). 2025年8月26日閲覧。
- ^ “熊本・いじめ自殺 賠償提訴 母ら県など相手取り”. 毎日新聞 (2021年5月18日). 2025年8月26日閲覧。
- ^ a b “いじめ生徒名の遺族への「開示」、最高裁が命じたが…熊本県「秘匿が不可欠」姿勢変えず”. 読売新聞 (2023年6月7日). 2025年8月26日閲覧。
- ^ “熊本・高3自殺 いじめ関与 生徒名再び開示命令…黒塗り報告書”. 読売新聞 (2022年12月7日). 2025年8月26日閲覧。
- ^ “熊本・高3自殺訴訟 いじめ関与の生徒名 地裁が県に開示命令”. 読売新聞 (2022年11月28日). 2025年8月26日閲覧。
- ^ “高3いじめ自殺、県文書の黒塗り開示へ 同級生らの氏名記載 熊本”. 朝日新聞 (2023年4月5日). 2025年8月26日閲覧。
- ^ “県立高校の女子生徒が「いじめ」で自殺したとして『元同級生に損害賠償を求めている裁判』に新たな動き 『黒塗りのない報告書』に “他の元同級生の関与があった” として遺族が新たに1人提訴”. TBS (2024年1月31日). 2025年8月26日閲覧。
- ^ “県へのいじめ訴訟取り下げ 熊本県立高3年の女子生徒自殺、遺族側が申し立て”. 産経新聞 (2025年7月1日). 2025年8月26日閲覧。
- ^ “熊本県立高校の女子生徒自殺、県と元同級生8人に8300万円の損害賠償を求めた訴訟が終結”. 読売新聞 (2025年7月2日). 2025年8月26日閲覧。
- ^ “高校生いじめ自死訴訟が終結 遺族「裁判の長期化を避けたい」 熊本”. TBS (2025年7月15日). 2025年8月26日閲覧。
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