外航船と国際港湾が順守すべき国際規則
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外航船と国際港湾が順守すべき国際規則(がいこうせんとこくさいこうわんがじゅんしゅすべきこくさいきそく、英: International Ship and Port Facility Security Code)、またはISPSコードは、海事保安に関する1974/1988年の海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)の2002年改正(改正SOLAS条約)に基づき船舶・港湾・政府機関に対する最低限の保安措置を規定する国際規則。2004年に発効し、各国政府、海運会社、船舶乗組員、港湾・施設要員に対し、国際貿易に供される船舶または港湾施設に影響を及ぼす保安事案に関して「保安上の脅威を探知し、保安事案に対する予防措置を講ずる」責務を課している。
歴史
国際海事機関(IMO)は、ISPSコードを「米国同時多発テロ(9/11)後に想定される船舶および港湾施設への脅威に対応し、保安を強化するために策定された包括的措置」と位置づける。策定と実施は、2001年9月11日の攻撃および仏タンカーリムブルグ爆破事件への対応として大幅に前倒しされた。米国代表団の主導機関であったアメリカ沿岸警備隊が導入を強く推進し[1]、2002年12月、ロンドンで開催されたSOLAS条約締約国(108か国)の会合で採択された。措置は2004年7月1日に発効した。
関係担当者
ISPSコードは、保安の実施に関し、会社保安職員(CSO)[2]、船舶保安管理者(SSO)[3]、および港湾施設保安職員(PFSO)の役割を定め、相互に連携することを求める。
会社保安担当者は船舶保安評価(SSA)の結果に基づいて船上で起こり得る脅威を分析・助言し、船舶保安管理者による船舶保安計画(SSP)の効率的維持を確保する[4]。港湾施設保安職員は港湾に雇用され、港湾施設保安計画の策定・実施・改訂・維持および港湾当局、会社保安職員、船舶保安管理者との連絡調整を担う[5]。船舶保安管理者はSOLAS条約第XI-2章:規則8の定めるところにより、船長の承認のもとで当該船舶の保安に対する全責任を負い[4]、船舶保安計画の維持、定期的な保安点検、ならびに高い保安水準に対応できるよう保安要員の訓練を確実に行う[4]。
適用範囲
ISPSコードは、会社保安職員および企業が船舶保安管理者を承認する唯一の責任主体であると定める。この承認手続は、当該船舶の船籍国当局または認証保安機関(船舶保安計画を承認し得る機関)の承認を受けなければならない[6]。また、船舶保安計画の策定前に船舶保安評価を実施することを求め[7]、船舶保安計画は船舶保安評価で特定されたすべての要件に対応しなければならない[7]。
船舶保安計画は、船舶の安全確保のために必要となる重要な役割・手順を定める。したがって、常時遵守されるべき必要な通信手順を含めるほか、日常的な保安プロトコルの実施状況を評価する手順、不具合部位の検知を目的とした保安監視機器システムの点検・評価手順を盛り込まなければならない[7]。さらに、電子・紙媒体を問わず機微な保安情報(SSI)を厳格に保護するための手順・実務を要求し、所定期限に基づく提出や、保安上の警戒が高まった状況に関する保安報告の評価を含めることを求める[7]。船舶保安計画は、船内で取り扱う危険物・有害物質の最新の在庫目録を維持し、その所在位置を目録に明記しなければならない[7]。
ISPSコードは、海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)の第XI-2章「海上保安強化のための特別措置」を通じて実施される。
SOLAS第XI-2章の主要規定
- 規則XI-2/3:旗国当局は保安レベルを設定し、自国籍船に対して当該レベルに関する情報提供を確実に行うことを保障する。寄港前の船舶は、寄港国政府が定める保安レベルの全要件に直ちに適合しなければならない[8]。これは旗国当局が当該船に設定した保安レベルにも及ぶ。
- 規則XI-2/6:すべての船舶に船舶保安警報装置(SSAS)の装備を義務づける[8][9]。同装置は衛星通信により陸上当局へ信号を伝送し、船名・位置・直面する保安脅威を送信する。警報は乗組員に知らせることなく、船橋において船長が起動できる[8]。
文書構成
ISPSコードは、船舶および港湾の保安に関する最低要件を規定する二部構成の文書である。A部は強制的要件、B部は実施ガイダンスを提供する。なお、一部の締約国はB部も強制適用として扱っている。
適用対象
ISPSコードは、国際航海に従事する船舶(旅客船、500総トン以上[10]の貨物船、移動式海洋掘削装置)およびこれらの船舶にサービスを提供する港湾施設に適用される。軍艦、補助艦艇、その他政府が所有または運航し、非商業目的に使用される船舶には適用されない。
海上保安レベル
海上保安(MARSEC)レベルは、船舶と米国沿岸警備隊の間で脅威度に応じた状況を迅速に伝達するために構築されたものであり[11]、ISPSコードにより次の3段階が導入されている。
- MARSECレベル1:通常時の運用レベル。保安要員は24時間体制で最低限適切な保安を維持する[11]。
- MARSECレベル2:保安上のリスクが顕在化した一定期間に適用される強化レベル。追加的措置を実施する[11]。
- MARSECレベル3:切迫する、または発生した保安事案に対し、限定された期間において適用される更なる追加措置。対象が所属不明でも措置を講ずる[11]。
レベル3は、当該脅威が現実的に予見可能または目前にあるとの信頼できる情報がある場合にのみ適用し、時間的制限を付して設定しなければならない。保安レベルは通常1→2→3と変化するが、1から3へ急激に移行する可能性もある[12]。
実施
- 欧州連合:2004年3月31日付の欧州議会・理事会[規則 (EU)|[規則]](EC)第725・2004号により、国際規則を域内法化した。
- 米国:2002年海上輸送保安法(MTSA)の規定を施行し、SOLAS条約およびISPSコードの基準に整合させるための規則を公布。連邦規則集第33編の101~107部に規定され、第104部には船舶保安規則(米国水域内の外国船に適用される規定を含む)が置かれている。
- 日本:2004年に国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律を制定している。
脚注
- ^ "World Cruise – Maximum Security – Cruise Ships Secure from Terrorist Threats". Archived from the original on 7 September 2008. Retrieved 14 March 2008.
- ^ ISPS Company Security Officer
- ^ ISPS Code Requirements for Seafarers, Ships and Ports
- ^ a b c “What Are The Duties Of Ship Security Officer (SSO)?” (英語). Marine Insight. (2012年6月2日) 2017年4月10日閲覧。
- ^ Port Facility Security Officer (PFSO)
- ^ “FAQ on ISPS Code and maritime security”. www.imo.org. 2017年4月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月10日閲覧。
- ^ a b c d e “Authenticated U.S Government Information”. GPO .
- ^ a b c d “FAQ on ISPS Code and maritime security”. www.imo.org. 2017年4月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月10日閲覧。
- ^ Herbert-Burns, Rupert; Bateman, Sam; Lehr, Peter (2008-09-24). Lloyd's MIU Handbook of Maritime Security. CRC Press. ISBN 978-1-04-008124-2
- ^ “The ISPS Code For Ships-An Essential Quick Guide”. www.marineinsight.com. 2020年5月13日閲覧。
- ^ a b c d “USCG: Maritime Security (MARSEC) Levels”. www.uscg.mil. 2017年4月10日閲覧。
- ^ “FAQ on ISPS Code and maritime security”. www.imo.org. 2017年4月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月10日閲覧。
- ^ “The Ship and Port Facility (Security) Regulations 2004”. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
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