乗数イデアル層
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/14 03:47 UTC 版)
乗数イデアル層(じょうすうイデアルそう、英: Multiplier ideal sheaf)とは、複素多様体上のある局所可積分条件を満たす正則関数のなすイデアル層である。解析的な対象と代数的な対象をつなぎ特異点を処理してくれる[1]乗数イデアル層は、シン=トゥン・ヤウによれば、現代の高次元代数幾何学において中心的な役割を演じている[2]。
乗数イデアル層は Nadel (1990) によってファノ多様体上のケーラー・アインシュタイン計量の研究の中で導入された[3]。設定は異なるが考え方自体は Kohn (1979) が ∂ ノイマン問題を研究した際に導入していた。可換環論の分野では Lipman (1993) がBriançon-Skodaの定理との関連で"adjoint ideals"という名前で導入して研究していた[4]。
複素解析
定義
X を複素多様体、φ を X 上の多重劣調和関数とする[5]。φ に付随する乗数イデアル層 𝒥(φ) ⊂ 𝒪X を、正則関数 f であって | f |2e−2φ がルベーグ測度で局所可積分になるようなものの層として定義する[注 1]。このように定義されたイデアル層 𝒥(φ) は解析的連接層となることが知られている。
諸例
(1)[6] 正の実数 α1, ..., αp を取って関数 φ を φ = log(|z1|α1 + ⋯ + |zp|αp) で定義する。これは多重劣調和関数になっていて、その乗数イデアル層 𝒥(φ) は、Demailly (2000, p. 37) によれば、∑
(βi + 1)/αi > 1 を満たす (β1, ..., βp) による単項式 zβ1
1⋯zβp
p たちで生成されるイデアルと等しい。
(2)[7][8] X を滑らかな複素代数多様体(複素多様体とみる)、D = ∑
aiDi を有効な Q 因子とする。X の開集合 U をその上で Di が主になるようなものとし gi を U 上の正則関数で Di を定義するようなものとする。以上の状況のもとで U 上の関数 φD を
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