両耳効果とは? わかりやすく解説

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りょうみみ‐こうか〔リヤウみみカウクワ〕【両耳効果】

読み方:りょうみみこうか

一方片耳だけで聞くよりも、両耳聞く方が、音の方向音源までの距離をよく認知できること。双耳効果


両耳聴効果

(両耳効果 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/22 15:56 UTC 版)

両耳聴効果(りょうじちょうこうか、英語: binaural hearing effect)は、両を聞くこと(両耳聴)で生じる聴覚現象である。両耳効果[1]とも。片耳だけ聞く場合(単耳聴)とは異なる聴覚上の効果をもたらし、方向知覚、距離知覚、音像定位、マスキング効果、両耳加算、カクテルパーティ効果、先行音効果、などがあげられる[2][3]

概要

基本的に動物は2つの耳を持っている。両耳と聴覚に関する研究が始まったのはハーヴェイ・フレッチャースタンリー・スミス・スティーブンス英語版らによる20世紀初頭からである[4]

両耳で音を聞くことによって得られる効果は、音の方向を知覚することに代表され、音源の方向や位置を特定することを音源定位と呼ぶ。

方向知覚は左右の耳に到達する音の強弱差(両耳間強度差)、到達する時間差(両耳間時間差)によってもたらされる。さらに、音に含まれる周波数成分にも関係しており、音が到達する時間差よりも位相の差(両耳間位相差)で考える場合もある[5]。単純には、正面の音源から到達する音は左右の耳に同じ音圧、同じ時間で到達するが、正面から左右どちらかの方向にずれた音源からの音は異なる音圧と異なる時間(位相)で左右の耳に到達するので音源の方向を知覚することができる。なお、実際の音源の方向や位置と、認識する心理的(主観的)な音源の方向や位置は必ずしも一致せず、後者は音像と呼ばれる[6]

音源の方向だけでなく、音色、認知およびノイズに対する選択機能が加味されることで以下の効果が得られる。

方向知覚

図1 両耳聴による方向知覚の概念図

図1のように一つの音源から左右の耳(鼓膜)に到達する音を考える。音源S0正面にあるときは左右の耳には同時に音が到達し、その強さは同じである。音源だけが右側に移動したSφの場合、音源から右耳までの距離は近く、左耳までの距離は遠くなる。その結果、右耳には左耳よりも音圧が大きく、時間が早く音が届くので大脳は音源が右側にあると認識する[6]。ただし、音の周波数によって強度差、時間差による方向認識は差があり、低い周波数では時間差が主であり、高い周波数では音圧差が主であるといわれている(レイリーの二重理論)。音が純音の場合では方向が定位しにくく、そうでない場合(多くの周波数成分が含まれる場合)では定位しやすい傾向にある[7]

また、音の強度が右側寄り、時間差が左側寄りという組み合わせの場合、混合された認識となってそれぞれ単独の場合より中央寄りに定位することが知られており、これを時間と強度の交換作用という[8][9]

図2 両耳聴による方向知覚(低周波音(a-1)(a-2)と高周波音(b-1)(b-2))

図2は音が低い周波数の場合(a-1)(a-2)と高い周波数の場合(b-1)(b-2)を示す。音の1波長をλ、左右の耳に到達する音の時間差をΔtとする[注釈 2]。図2の(a-1)(b-1)は正面から音が到達している場合で、左右の耳に音は同時に到達するのでΔt=0である。図2 の(a-2)(b-2)は右前方から音が到達している場合であり、右耳に対して左耳に到達するまでΔtの遅延があり、さらに音源からの距離は左耳が遠いので音圧が右耳よりも小さくなる。

このとき、Δtに着目すると、音の1/4波長相当の遅延時間までであれば音の方向を判定することができるとされる[10]。波長は周波数に依存する[注釈 3]ので、同じ遅延時間であっても波長に対する位相差は異なり、位相差が

図3 両耳加算の概念図

左右両方の耳で音を聞くと片耳のみで聞いた場合よりも大きく聞こえることを両耳加算という[23][24]

図3 において、(a)は両耳聴の場合であり、音源 S からの音は両耳を経由して脳に伝えられる。これに対し(b)(c)は単耳聴の場合であり、片側の耳からの情報のみが脳に伝わる。両耳からの聴取刺激が同時に得られることから単耳に比べて大きな音に感じられるのであり、その差は3 - 6 dBと言われている。逆に、両耳聴の場合は単耳聴と比べ、より小さな音でも聴取可能であることを示す[23][25]

両耳マスキング

図4 両耳聴のマスキング効果

両耳マスキングとは、両耳に信号音と妨害音(ノイズ)を加えた場合に生じる信号音の聞き取りやすさをいう。このとき、両耳に加える信号音と妨害音のレベル差や位相差によって聞き取りやすさが変化することを両耳マスキングレベル差と呼ぶ[26][27][28]

例えば、妨害音の中で信号音を聞き取る場合を考える。

図4 は、両耳に与える信号音と妨害音の組合せにおいて、信号音が聞き取れるかどうかを示した図である。両耳に同時に同位相で信号音と妨害音が到達している場合(a)、および、片耳のみに信号音と妨害音が到達している場合(b)は、妨害音に埋もれて信号音が聞き取りにくくなる。

ところが、両耳に妨害音が到達しているものの片耳だけに信号音が達する場合(c)や、左右で信号音の位相が異なる(φだけ位相がずれる)場合(d)には信号音が聞き取りやすくなる。これは、一方の信号音が小さくなることで音像が片側にずれることや、信号音の位相ずれによって音像が拡がることにより、信号音が聞き取りやすくなっていると考えられている[27][28]

カクテルパーティ効果

図5 カクテルパーティ効果の概念図

カクテルパーティや雑踏のように多数の話者が存在している中で、特定話者の声を選択して聞き取ること(選択的聴取、音源分離[29])ができることをカクテルパーティ効果という。認知行動において、多くの情報が入力されたときに特定の刺激に注目する選択的注意の一つである[30]。例えば、騒音の中で自分の関心のある話を聞き取ることが容易であることはよく経験する。

カクテルパーティ効果が発生する要因として、音源の方向や距離(音像)、音の大きさや音色、言語的知識[注釈 8]、認知機能、視覚の影響があることが知られている[31]。ただし、両耳聴ではなく単耳聴でも起こることが分かっている[32][33]

図5において、このような条件が成立しているとき(話者Scが聴取者Lに関する話をしているなど)、周囲の会話の中にいる聴取者Lは、最も近接している話者S1、S2、S3の話し声よりも最も遠い話者Scの話し声を聞き取ることが可能なのである。

先行音効果

図.6 先行音効果の概念図

一つの音が複数の方向から到達するとき、最も早く音が到達した音の方向が音源の方向であると認識する現象で、ハース効果、第一波面の法則[34][35]とも呼ばれる。この効果は音の到達時間差が1 - 50 ms程度の時に生じる[34][36]

この効果を利用して、避難方向を誘導するようなスピーカー配置と誘導音を発生する仕組みがある[34][注釈 9]。同様に映画館の音響装置などではサラウンドシステムの一つとして応用されている[37]

図.6 は先行音効果を利用した避難誘導の模擬図である。左側に避難出口がある場合、誘導音を出口に近いスピーカーSP1から発し、上記に示したようなわずかな時間差(t1-t0に相当する時間)をとった後に出口から遠いスピーカーSP2から同じ誘導音を発する。先行音効果により避難者は音の方向が出口の方向であることを認識することができ、避難誘導することが可能となる。

脚注

注釈

  1. ^ マスキング効果同時マスキング経時マスキングとは異なる
  2. ^ 左右耳間の時間差や位相差に相当する
  3. ^ 波長λ、周波数f、周期T、音速cとすれば、


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