アーノルドの猫写像
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/24 02:30 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動数学におけるアーノルドの猫写像(アーノルドのねこしゃぞう、英: Arnold's cat map)は、トーラスからそれ自身へのあるカオス写像で、1960年代に猫の画像を使ってその効果を示したウラジーミル・アーノルドの名にちなむ[1]。
上述の写像と同様に、離散的な猫写像を定義することが出来る。そのような写像の特徴の一つとして、画像は一見ランダムに変換されるように見えるが、多くのステップを経て元の状態に戻る、というものが挙げられる。右図の画像に見られるように、元の猫の画像はせん断され、変換の第一の反復において回転される。その後何回かの反復で現れる画像はランダムあるいは無秩序なもののように見え、さらに何回かの反復で秩序のある猫の幽霊のような画像、すなわち繰り返された構造における小さい複数のコピーや、上下逆のものなどが現れ、最終的に元の画像に戻る。
このような離散猫写像は、円周 N の円環上での状態 qt (0 ≤ qt < N) から状態 qt+1 へのホップする玉の離散ダイナミクスとして、次の二階方程式により従うものに対応する相空間フローとして表現される:
モーメント変数 pt = qt - qt-1 を定義すると、上述の二階方程式によるダイナミクスは、正方形 0 ≤ q, p < N(離散力学系の相空間)からそれ自身への写像として次のように書き換えられる:
このアーノルドの猫写像は、カオス系に典型的な混合挙動を示す。しかし、この変換の行列式は 1 に等しいので、写像は面積保存かつ可逆であり、その逆変換は次のように得られる:
実変数 q と p に対し、N = 1 と定めることはよく行われる。そのような場合、周期境界を持つ単位正方形からそれ自身への写像が結果として得られる。
N が整数値である場合、位置変数およびモーメント変数も整数に制限され、猫写像は点のトーラス状の正方格子からそれ自身への写像となる。そのような整数猫写像は、デジタル画像を活用するポアンカレ再帰を伴う混合挙動を示すために幅広く用いられている。画像を元に戻すために必要となる反復の回数は 3N を超えないことが示されている[4]。
ある画像に対して、各反復の間の関係は次のように表現できる:
関連項目
- カオス写像の一覧
- 再帰プロット
参考文献
- ^ Vladimir I. Arnold; A. Avez (1967) (フランス語). Problèmes Ergodiques de la Mécanique Classique. Paris: Gauthier-Villars; English translation: V. I. Arnold; A. Avez (1968). Ergodic Problems in Classical Mechanics. New York: Benjamin
- ^ Franks, John M (October 1977). “Invariant sets of hyperbolic toral automorphisms”. American Journal of Mathematics (The Johns Hopkins University Press) 99 (5): 1089–1095. doi:10.2307/2374001. ISSN 0002-9327.
- ^ Sloane, N.J.A. (ed.). "Sequence A004146". The On-Line Encyclopedia of Integer Sequences. OEIS Foundation. 2021年3月24日閲覧。
- ^ Dyson, Freeman John; Falk, Harold (1992). “Period of a Discrete Cat Mapping”. The American Mathematical Monthly (Mathematical Association of America) 99 (7): 603–614. ISSN 0002-9890. JSTOR 2324989.
外部リンク
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