静磁場 静磁場の概要

静磁場

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/13 02:05 UTC 版)

本記事では、静磁気学(Magnetostatics)の視点から、静磁場について述べる。

定常な電流が作り出す静磁場の一般論

本節では、真空中に定常な(つまり時刻tに依存しない)電流密度が作り出す磁束密度について、一般に成り立つ事柄について述べる。ただし、時間的な変動の影響はもちろんのこと、これ以外にも、電場や強制電荷、分極電荷の影響は排除されているものとする。 本記事では、専ら体積電流密度を中心に扱い、線電流近似については、例えば[30] [31] [32]等に委ねることとする。


真空中に定常な(つまり時刻tに依存しない)電流密度 が与えられた とする。このとき、 は、以下の磁気ベクトルポテンシャル を空間内に作り出す。

(1-1)

となる。

を考え併せると、 が直接的に作り出す磁束密度は、

(1-2)

となる。これは、すなわち、ビオ・サバールの法則である。

上記のに対し、 新たな場を、

(1-3)

と定義する。この場のことを、「電流密度iが作り出す磁場」と呼ぶ。ここでμ0は、真空の透磁率である。 尚、定義の上では、「電流密度iが作り出す磁場」は、 透磁率がμの場所でも、:であることに特に注意されたい。

式(1-2),式(1-3)より、

(1-4)

である。これに、回転微分を作用させると、

(1-5)

が得られる。実際、ベクトル解析の公式より、

従って、

が得られる。ここでδ3は、3変数のδ関数(ディラックのデルタ)を意味する。

時間的に定常な磁化が作り出す静磁場の一般論

本節では、定常な(つまり時刻tに依存しない)磁化が作り出す磁束密度について、一般に成り立つ事柄について述べる。ただし、時間的な変動の影響はもちろんのこと、これ以外にも、電場や強制電荷、分極電荷の影響は排除されているものとする。


時間的に定常な磁化が作り出す磁気ベクトルポテンシャル

空間内の領域に物質が置かれ、前記物質が、定常な(つまり時刻tに依存しない)磁化を帯びているとする。このとき、磁化ベクトルは、「単位体積当たりの磁気モーメントの密度」を表すものであるため、磁化の定義より、

物質内の各点それぞれに、それぞれ
(2-1-1)
で与えられる磁気モーメントが配置されている

と考えることができる[2]

まず、時間的に定常な磁化が作り出す磁気ベクトルポテンシャルについて考えよう。

(1)原点に置かれた磁気モーメントmは、空間上の位置rに作り出す磁気ベクトルポテンシャルは、

(2-1-2)
である。

(2)従って、"(1)"を平行移動すれば、位置に置かれた磁気モーメントmは、空間上の位置rに作り出す磁気ベクトルポテンシャルは、

(2-1-3)
である。

従って、上記の磁気モーメントそれぞれは、磁気ベクトルポテンシャル

(2-1-4)

を作り出す。

上記の磁気ベクトルポテンシャルそれぞれを、全てのに渡って足し合わせると、

(2-1-5)

を得る。即ち、物質の磁化 は、上記の磁気ベクトルポテンシャル を空間内に作り出す[2] [注釈 1] [注釈 2]

時間的に定常な磁化が作り出す磁束密度

次に、時間的に定常な磁化が作り出す磁束密度について考えよう。磁気ベクトルポテンシャルの回転微分をとれば、磁束密度が得られる。

(1)原点に置かれた磁気モーメントmは、空間上の位置rに作り出す磁気ベクトルポテンシャルは、前述の通り、

(2-2-1)
である。これの回転微分をとることで、原点に置かれた磁気モーメントmが、空間上の位置rに作り出す磁束密度は、
(2-2-2)
であることが判る。ここで、は、内積を表す。

(2)従って、"(1)"を平行移動すれば、位置に置かれた磁気モーメントmが、空間上の位置r に作り出す磁束密度が、

(2-2-3)
であることが判る。

従って、上記の磁気モーメントそれぞれは、磁束密度

(2-2-4)

を作り出す。

上記の磁気ベクトルポテンシャルそれぞれを、全てのに渡って足し合わせると、

(2-2-5)

を得る。即ち、物質の磁化 は、上記の磁気ベクトルポテンシャル を空間内に作り出す [2] [注釈 3] [注釈 4]

さて、ベクトル解析の公式から、

(2-2-6)

が判る。[注釈 5]

従って、上記の磁気モーメントそれぞれが作り出す磁束密度は、

(2-2-7)

と書けることが判る。従って、

(2-2-8)

を得る。[注釈 6]

今、新たな場を、

(2-2-9)

と定義すると [注釈 7]

(2-2-10)

が得られる。

さて、以上の議論から「物質の磁化Mが既知である場合に限ればその磁化Mが作り出す磁束密度BMを計算する術が得られた」 ことになる。然しながら、物質の磁化Mが既知でない場合には、上述の関係式のみからは、BMMも、判らない。上述の関係式は、 一つの拘束条件を与えているに過ぎないのである。(だが、極めて重要な関係式ではある)。

例えば、磁化Miniを帯びた鉄心が空間におかれていたとき、外部からの磁束密度 が与えられたとき、鉄心の磁化は、元々の磁化Miniと、外部からの磁束密度 の影響で、元々の磁化Miniとは異なる新たな磁化Mconを得ることになる。仮に、このMcon が判れば、全系の磁束密度が計算できるのだが、

(難所)元々磁化Miniを帯びている物質に、外部から磁束密度を印加したとき、最終的に、物質がどのようなMconを得るか?

が、実のところは難しい。そこで、一般には。B-H曲線等の実測結果と、上記の拘束条件を考え合わせ、数値計算によって磁束密度や磁化が計算されるのである。但し、線形物質に関して言えば、上の難所は比較的簡単である。このような特殊な物質に関する問題については、次章で述べることにする。

磁荷密度の導入

空間内の領域に物質が置かれ、前記物質が、定常な(つまり時刻tに依存しない)磁化を帯びているとする。

先に定義した、(磁化による)磁場

(2-3-1)

の原因が、磁荷であると考えた場合に、それは、どのようなものであるのかを検討しよう。

ベクトル解析の公式より、

従って、

(2-3-3)

今、スカラー値関数を、

(2-3-4)

と定める(磁化が定める磁位、あるいは、磁化が定めるスカラーポテンシャルと言う)と、

(2-3-5)

右辺第一項に、ガウスの発散定理を適用すると、

(2-3-6)

さらに、ベクトル解析の公式を適用すると、

(2-3-7)

従って、

(2-3-8)

ここで、は、領域の境界面を意味する。 また、は、の法線ベクトルを意味する。

今、体積磁荷密度と、表面磁荷密度を、

  • (体積磁荷密度) (2-3-10)
  • (表面磁荷密度) (2-3-11)

により定めると、

(2-3-12)

を得る。

一方、の定義により、

(2-3-13)

であるため、

(2-3-14)

である。

磁化電流の導入

時間的に定常な磁化が作り出す磁気ベクトルポテンシャルを、別の側面から考察してみることにしよう。ここでは、「磁束密度の原因は、電流に帰される」という思想に従い、 だとすれば、「磁化と等価な効果を発揮する電流」がどのようなものかを検討することにする。

前記に、 ベクトル解析の公式を適用すると、

となることが判る。ここで、 は、変数についての回転微分を意味する。は、領域の境界を意味する。 上式の右辺第二項の積分において、「の面素の絶対値」を意味し 所謂普通の面積分ではない(この「面積分」は、「ベクトル場からベクトルを作る」特殊なもの)ので注意が必要である。 この積分において、は、 の法線ベクトルを意味する。

実際、スカラー倍の回転微分の公式より、

従って、

(2-4-3)

従って、

  (2-4-4)

を得る。さらに、上式の右辺第二項の積分にベクトル解析の公式を適用すると、

  (2-4-5)

を得る。さらに、右辺にベクトル解析の公式を適用すると、

(2-4-6)

が得られる。以上から示すべき式が証明された。

今、を、

  • (体積磁化電流密度) (2-4-7)
  • (表面磁化電流密度) (2-4-8)

と置くと、結局、

(2-4-9)

となる。

両辺の回転微分を取ると、

(2-4-10)

が、判る。この見方は、特に、磁化が一様な場合(より一般にはrot[M]=0)といった特殊な場合に、特に威力を発揮する。


注釈

  1. ^ 尚、磁化がの外では0であるからといって、の外でが0となるとは限らない(大概の場合はの外でもは、0ではない)ことに注意されたい。
  2. ^ なお、磁化は、の外では0なので、上式は、
    としてもよい(紛らわしいのであまり推奨しない)。
  3. ^ 尚、磁化がの外では0であるからといって、の外でが0となるとは限らない(大概の場合はの外でもは、0ではない)ことに注意されたい。
  4. ^ なお、磁化は、の外では0なので、上式は、
    としてもよい(紛らわしいのであまり推奨しない)。
  5. ^ なお、磁化は、の外では0なので、上式は、
    でもある。
  6. ^ なお、磁化は、の外では0なので、上式は、
    としてもよい(紛らわしいのであまり推奨しない)。
  7. ^ なお、磁化は、の外では0なので、上式は、
    としてもよい(紛らわしいのであまり推奨しない)。
  8. ^ a b ここでいうδは、摂動あるいは変分を表し、ディラックのδと紛らわしいが全然別物である。

参考文献

  1. ^ W.K.H. パノフスキー (著), M. フィリップス (著),林 忠四郎 (翻訳), 西田 稔 (翻訳);「新版 電磁気学〈上〉」吉岡書店; POD版 (2002/09)
  2. ^ a b c d [★溝口 正 (著) 「電磁気学―SI UNITS 」裳華房 (2001/03)](特にP188付近)
  3. ^ [★]竹山 説三 (著) 「電磁気学現象理論」丸善出版; 3版 (1949)
  4. ^ a b [★]P.P.シルベスタ(著), R.L.フェラーリ(著), 本間 利久(著), 田中 康博(著); 「有限要素法による電磁界解析 (Information & computing (26)) 」 サイエンス社 (1988/09)
    [原書]Peter P. Silvester (Author), Ronald L. Ferrari (Author); 「Finite Elements for Electrical Engineers」Cambridge University Press; 3版 (1996/9/5) [1]
  5. ^ 斎藤兆古,坂本禎智,藤原耕二;「磁気回路法と有限要素法の理論的関係」 (PDF) 電気学会マグネティックス研究会資料 MAG-03 号:54-64 ページ:5-10 発行年:2003年03月31日
  6. ^ 静磁場解析のための二次要素を用いる有限要素法の研究
  7. ^ 有限要素法による磁場解析
  8. ^ a b 磁場が満たす偏微分方程式(秋田高専講義録)
  9. ^ 園田英徳;「大学院生のための基礎物理学」講談社(2011/09/29)ISBN 978-4-06-153277-9
  10. ^ 平川浩正;「電磁気学(新物理学シリーズ2)」培風館 (1986/04) ISBN 9784563024024
  11. ^ 守末 利弥「数値電磁気学のためのゲージ理論」森北出版 (1996/04) ISBN 978-4-627-71600-1
  12. ^ 依田 潔 (著) ;「Mathematicaによる電磁界シミュレーション入門 - POD版 (計算電気・電子工学シリーズ)」森北出版(2012/2/24) ISBN 978-4-627-71529-5
  13. ^ 電磁気学II(大阪大学 田中実教授の講義録) (PDF)
  14. ^ [2]立教大学講義ノート 本講義の参考文献欄 等、至る所に文字化けがあるが、たとえば、もじばけらった等によって解読できる。
  15. ^ 東京理科大学講義ノート (PDF) および、講義スライド (PDF)
  16. ^ 鹿児島 誠一 (著) ;「電磁気学 (パリティ物理学コース)」丸善(1997/01) ISBN 978-4-621-04277-9
  17. ^ 後藤 憲一(著), 山崎修一郎(著)  ;「詳解 電磁気学演習」共立出版 (1970/12) ISBN 978-4-320-03022-0
  18. ^ 前田 和茂 (著) ,小林 俊雄(著);「ビジュアルアプローチ電磁気学」森北出版 (2009/12/5) ISBN 978-4-627-16221-1
  19. ^ Julius Adams Stratton;「Electromagnetic Theory」Wiley-IEEE Press; 1版 (2007/1/22) ISBN 978-0-470-13153-4
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  22. ^ 電気磁気学特論(秋田高専講義録)
  23. ^ 高橋 康人 (早稲田大学):"高速多重極法を組み込んだ磁気モーメント法による 磁性体解析に関する基礎的検討" (PDF)
  24. ^ 東京電機大学 (編集)「入門 電磁気学」東京電機大学出版局 (2006/03) ISBN 9784501004200
  25. ^ 早川 義晴 (著) 「電気教科書 電験三種合格ガイド」翔泳社 (2011/2/25) ISBN 9784798126623
  26. ^ 磁気回路と電気回路 (PDF)
  27. ^ 坪井 一洋 (著) 「システムと微分方程式」三恵社 (2011/5/22) ISBN 9784883618248
  28. ^ 複数磁石による静磁場(簡易シミュレータ)
  29. ^ 近畿大学 講義ノート (PDF)
  30. ^ 等々力 二郎:「有限の太さの矩形断面ヘリカルコイルの磁場の計算」核融合研究,57(1987)318
  31. ^ 渡辺 二太:「空心円筒コイル群によって作られる磁場の計算」 核融合研究 Vol.35 (1976) No.3 P235-242
  32. ^ 渡辺 二太:「多様な形状のコイルに対する磁場計算法」 核融合研究 Vol.63 (1990) No.6 P482-507
  33. ^ 藤本 淳夫 (著) ベクトル解析 (現代数学レクチャーズ C- 1) 培風館 (1979/01)





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