薬事法と食品表示・食品広告 薬事法と食品表示・食品広告の概要

薬事法と食品表示・食品広告

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/18 06:56 UTC 版)

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薬事法の食品表示・食品広告に対する規制の概要

ヒトが口から摂取するものは、食品衛生法と薬事法により、すべて食品医薬品に分類されるが、食品は、たとえ事実であっても、医薬品的な効能効果を、標ぼうすることはできない。食品が医薬品的な効能効果を標ぼうすると、その食品は医薬品と見なされ、無承認の医薬品として、薬事法違反に問われる。

ここで言う「食品」とは、錠剤、カプセル状のいわゆる健康食品だけではなく、ジュース缶詰などの一般的な加工食品はすべて含まれる。

医薬品的な効能効果とは

規制の対象となる表現

厚生労働省の通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(いわゆる「46通知(よんろくつうち)」、昭和46年6月1日)の別添「医薬品の範囲に関する基準」は、医薬品的な効能効果(食品が標ぼうできない表現)として、次の3類型をあげている。

  1. 疾病の治療又は予防を目的とする効能効果
  2. 身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果
  3. 医薬品的な効能効果の暗示

医薬品的な効能効果の表現例

厚労省通知に例示されている医薬品的な効能効果の表現例は下記のとおり(これらは例示であり、すべてではない)。これらは、食品では標ぼうできない。

1. 疾病の治療又は予防を目的とする効能効果

  • (例)「糖尿病、高血圧、動脈硬化の人に」「ガンがよくなる」「便秘がなおる」など

2. 身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果

  • (例)「疲労回復」「体力増強」「老化防止」「若返り」「新陳代謝を盛んにする」「解毒機能を高める」「血液を浄化する」「病気に対する自然治癒力が増す」「健胃整腸」「病中・病後に」「美肌・美白」など

3. 医薬品的な効能効果の暗示

  • (例)「体質改善、健胃整腸で知られる〇〇〇〇を原料とし…」「医学博士〇〇〇〇の談『昔から赤飯に〇〇〇をかけて食べると癌にかからぬといわれている…』」「便秘ぎみの方に」「身体がだるく、疲れのとれない方に」「1か月以上飲み続けないと効果はありません」「医薬品のように速効性はありませんが、2〜3か月飲み続ければ、その効果は必ずお分かりいただけます」「薬用されている」「副作用はありませんので、安心してお召し上がりいただけます」など

効能効果と見なされやすい用語例

表示・広告が医薬品的な効能効果に該当するかどうかは、文脈やデザイン(イラスト・写真や文字の大小)なども含め、総合的に判断される。ただし、下記のような用語は、文脈やデザインのいかんを問わず、医薬品的な効能効果と見なされやすい。

1. 病気・症状の名称

  • (例)「がん」「高血圧」「生活習慣病」「花粉症」「便秘」「風邪」「メタボリックシンドローム」「二日酔い」「疲労」「夏ばて」「老化」など

2. 身体の特定部位・組織の名称

食品が身体の特定部位・組織に作用することは考えられないため、部位の表現は、それだけで医薬品的な効能効果と見なされやすい。

  • (例)「目」「肌」「皮膚」「おなか」「血液」「細胞」など

3. 身体の機能増強や体内の作用

  • (例)「体力増強」「解毒」「免疫」「自然治癒力」「新陳代謝」「アンチエイジング」など

4. 「医」「薬」を含む表現、医薬品特有の表現

  • (例)「医者」「医食同源」「生薬」「民間薬」「伝統薬」「薬草」「臨床」「副作用」など

5. 医薬品的な用法用量 飲用シーンを下記のような場合に限定すると、医薬品的な表現と見なされやすい。

  • (例)「食後に(お飲みください)」「お休み前に」「肉体疲労時」「1日1回2粒を」など

効能効果と見なされない表現例

下記のような表現は医薬品的な効能効果とは見なされず、食品でも標ぼうできる。

1. 「健康維持」「美容」を目的とする趣旨の表現

健康維持に関する一般的な表現は、医薬品的な効能効果とは見なされない。また、「美肌・美白」は効能効果と見なされるが、「美容」は効能効果とは見なされない。

  • (例)「健康を保ちたい方に」「健康維持のために大切な成分です」「健康維持のために愛用されています」「美容のために」など

2. 「栄養補給」を目的とする趣旨の表現

栄養素が必要な人または時期に、その栄養素が補給できるという表現は、医薬品的な効能効果とは見なされない。

  • (例)「偏食がちな方に」「野菜の足りない方に」「育ち盛りのお子さまや中高年(の栄養補給)に」「ダイエット時の栄養補給に」「多忙で食事が不規則な方(の栄養補給)に」など

ただし、「栄養補給」であっても、下記のような表現は医薬品的な効能効果と見なされる。

  • (例)「病中病後の体力低下時(の栄養補給)に」「胃腸障害時(の栄養補給)に」など

3. 生体の構成成分であるという表現

生体を構成する栄養成分について構成成分であることを示す表現は、医薬品的な効能効果とは見なされない。

  • (例)「グルコサミンは体の重要な構成成分です」「必須アミノ酸は人体では合成することができないので、外から補う必要があります」など

4. 生活シーンや気持ちをあらわす表現

生活シーンや気持ちをあらわす表現は、医薬品的な効能効果やその暗示だとは見なされていない。

  • (例)「お付き合いの多い方に」「暑い夏を乗り切るために」「パソコンをよくお使いの方に」「うるおいのある生活をめざす」「あなたのやる気を燃やす」「毎朝鏡を見てため息が出てしまうあなたに」など

ただし、これらの表現も、文脈やデザイン(イラスト・写真や文字の大小)で医薬品的な効能効果を暗示させると、総合的に効能効果と見なされる可能性がある。また、将来にわたって、効能効果とは見なされないことが保証されるものではない。

5. 「ダイエット」に関する表現

「ダイエット」という表現そのものは医薬品的な効能効果とは見なされない。

厚労省通知「痩身効果等を標ぼうするいわゆる健康食品の広告等について」(昭和60年6月28日)では、「カロリーの少ないものを摂取することにより、摂取する総カロリーが減少して結果的に痩せることは医薬品的な効能効果といえない」としている。

  • (例)「この商品は○○kcalなので、毎日継続的に摂取すると健康的にダイエットできます」など

ただし、下記のように、人体に対する作用によって痩せるという表現は、医薬品的な効能効果と見なされる。

  • (例)「脂肪等の分解、排泄」「体内組織、細胞等の機能の活性化」「宿便の排泄、整腸、瀉下」「体質改善」など

また、身体の特定部位のそう身の表現も医薬品的な効能効果と見なされる。

  • (例)「二の腕」「おなか」「太もも」「中年体型」など

6. 部位であっても効能効果と見なされない表現

身体の特定部位は医薬品的な効能効果と見なされやすいが、例外がある。下記のような表現は効能効果とは見なされない。

  • (例)「のど飴」「生きて腸まで届く」「おなかの空いたときに」など

「のど」は部位だが、「のど飴」という商品名は、江戸時代からの慣用的な表現であり、医薬品的な効能効果とは見なされない(医薬品・医薬部外品の「のど飴」という商品名は当然、問題ない)。

「腸」も部位だが、ヨーグルトや乳酸菌飲料で使われる「生きて腸まで届く」という表現は、単なる乳酸菌の性質であり、医薬品的な効能効果とは見なされていない。景品表示法に基づく「はっ酵乳、乳酸菌飲料の表示に関する公正競争規約」でも認められている表現である。

「おなか」も部位だが、「おなかの空いたとき」は明らかに効能効果とは見なされない。

7. 摂取の上限量等を示す表現

食べすぎによる健康被害を防止するための表現は、医薬品的な効能効果とは見なされない。

  • (例)「食べすぎると、おなかがゆるくなることがありますので、摂取量の目安を守ってお召し上がりください」など

8. 保健機能食品

特定保健用食品(特保=特定の保健用途の表示が、厚労省によって個別に許可された食品)と栄養機能食品(ビタミン、ミネラルの含有量が規格基準に適合しており、栄養機能表示ができる食品)は健康増進法の対象であり、薬事法の対象外となる。

9. 明らか食品

薬事法の規制を複雑にしているのが、「医薬品の範囲に関する基準」で明記されている「明らか食品」の規定である。

「明らか食品」とは「医薬品の範囲に関する基準」で「野菜、果物、調理品等その外観、形状等から明らかに食品と認識される物」と定義されている。「明らか食品」は「原則として、通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識しない」食品である。つまり、「野菜、果物、調理品等」は医薬品的な効能効果を標ぼうしても、医薬品とは見なされない(もちろん、虚偽・誇大であってはならない)。

行政機関(厚労省や都道府県の薬事法担当部署)は、この「野菜、果物、調理品等」とは、野菜、果物などの生鮮食品や、生鮮食品をその場で調理した料理を指すと説明している。

一方で、ヨーグルト、ジュースなどの加工食品も「明らか食品」ではない(よって事実であっても、医薬品的な効能効果は標ぼうできない)と解釈されていることに対し、食品会社からの反対意見も強い。

10. 熱中症対策

2012年4月19日に全国清涼飲料工業会が「「熱中症対策」表示ガイドライン」を制定し、5月17日に厚生労働省が各都道府県薬務主管課に事務連絡した。同ガイドラインでは「ナトリウム濃度として、少なくとも、飲料100ml当たり40-80mg含有する清涼飲料水」では、TVCM、店頭POP等の広告類に限り、「熱中症対策」の用語を使用することができるとした。商品名、製品の容器包装、製品段ボールでの表示や、「熱中症予防」「熱中対策」等の紛らわしい表示は禁止した(表示修正の猶予期間は2013年4月18日まで)。

「熱中症」は症状名で本来、薬事法で禁止された用語だが、厚労省が熱中症予防対策を目的として、特例として認めた。2011年に、食品で熱中症に関する表示が氾濫し、市場が混乱したことが背景にあった。

標ぼうとは

規制の対象となる広告とは

厚労省通知「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」(平成10年9月29日)では、広告の要件として、次の3項目をあげている。

  1. 顧客を誘引する意図が明確であること
  2. 商品名が明らかにされていること
  3. 一般人が認知できる状態であること

すなわち、1.販売目的で、2.商品と結びつけて、3.一般消費者に伝えるものが広告であり、薬事法の対象となる。食品広告は医薬品的な効能効果を標ぼうできない。

規制の対象となる表示・広告方法

東京都編「健康食品取扱マニュアル」(第4版、薬事日報社、2005年12月発行)では、規制の対象となる表示・広告方法として、次の11項目をあげている。

  1. 製品の容器、包装、添付文書などの表示物
  2. 製品のチラシ、パンフレット等
  3. テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネットなどによる製品の広告
  4. 小冊子、書籍
  5. 会員誌、情報誌
  6. 新聞、雑誌などの切り抜き、書籍や学術論文等の抜粋
  7. 代理店、販売店に教育用と称して配布される商品説明(関連)資料
  8. 使用経験者の感謝文、体験談集
  9. 店内および車内等におけるつり広告
  10. 店頭、訪問先、説明会、相談会、キャッチセールス等においてスライド、ビデオ等又は口頭で行われる演述等
  11. その他特定商品の販売に関連して利用される前記に準ずるもの

規制の対象になるかどうかの考え方

商品そのものだけでなく、原材料(野菜、果実など)や成分(ビタミンミネラルファイトケミカルなど)の一般的な効能効果の説明であっても、近接した個所に商品が掲載されていたり、店頭だったりすると、効能効果と商品は結びついていると見なされる。たとえば、新聞広告の上10段が成分の効能効果の説明、下5段が商品という広告は薬事法違反である。

商品が出てこない企業広告は規制の対象外であり、原材料(野菜、果実など)や成分(ビタミン、ミネラル、ファイトケミカルなど)の効能効果の表現は可能である。

店頭POPは、掲示そのものに商品が掲載されていなくても、店頭の商品と結びついており、効能効果の表現はできない。

代理店、販売店に配布される商品説明資料そのものは、一般消費者が認知できるものではないため、広告にはあたらないのではないかとの議論がある。ただし、商品説明資料を参考にして、販売店がチラシや店頭POPを作成し、効能効果を伝えることは薬事法違反である。

ホームページでの効能効果と商品の結びつきについて、行政の判断基準は定まっていない。大手食品会社は、効能効果ページと商品ページを直接リンクさせず、一度トップページなどに戻らなければ行き来できない構成にしているホームページが多い。一方、中小の健康食品会社を中心に、効能効果ページに商品が掲載されているホームページや、商品ページを直接リンクさせているホームページも少なくない。

インターネットの口コミサイトも、まだ行政の判断は定まっていない。個人に自由に投稿させる掲示板や、リンク先の個人のブログに効能効果が掲載されている場合である。2008年6月時点では、食品会社が運営していたり、広告費を出していたり、投稿者やブロガーに謝礼を支払っていても、「広告」と明記せず、医薬品的な効能効果が商品とともに掲載されている事例が多い。

メディア(媒体)による番組や記事(メディアの編集によるもの)では、効能効果と商品が結びついていても、表現の自由との関係で行政機関が薬事法の指導に乗り出すことはほとんどない。ただし、番組や記事のなかに商品の問合せ先が掲載されていると、広告と見なされる可能性はある。

「〜と言われている」「〜の研究成果がある」などの婉曲表現、有識者のコメント、消費者の体験談、イラスト・写真、記事風広告(上段が効能効果、下段が商品など)やシリーズ広告(初回が効能効果、2回目が商品など)も規制の対象になり、商品と結びつけて効能効果の表現はできない。

外国語の表示も規制の対象になり、効能効果の表現はできない。




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