薬事法と食品表示・食品広告 薬事法と「生薬」「民間薬」の表現

薬事法と食品表示・食品広告

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/18 06:56 UTC 版)

薬事法と「生薬」「民間薬」の表現

生薬は医薬品もあれば、食品もある。2001年3月の食薬区分の改正で、医薬成分と認められたものと認められなかったものがある。生薬は植物全体を指して「生薬」ということが多いが、正確には植物の一部だけが医薬成分であることが多い。たとえば、アロエは生薬だが、葉の液汁だけが医薬成分で、根や葉肉は非医薬成分である。

ちなみに、漢方薬は、疾病や症状に対する有効性が確認されている医薬品である。漢方薬は複数の生薬を原料としている。民間薬は単一の生薬を原料とすることが多く、有効性は確認されていない(医薬品としての許可を得ていない)。

生薬(医薬成分)を原料とする医薬品(漢方薬)が、効能効果を標ぼうすることは問題ない。生薬(非医薬成分)を原料とする食品が効能効果を標ぼうしたり、「民間薬」「伝統薬」「生薬」「薬草」などを標ぼうすることは薬事法違反である。

なお、養命酒は、歴史的経緯により、薬局では医薬品(薬用酒)、酒店では食品(薬味酒)として販売されている特例である。中身は同じものだが、パッケージが異なり、食品では効能効果は表示されていない。

薬事法による規制の理由

厚労省通知では、食品が医薬品的な効能効果を標ぼうすることによって、下記のような弊害をもたらすおそれがあるとしている。

  1. 一般消費者に正しい医療を受ける機会を失わせる
  2. 不良品及び偽薬品が製造販売される
  3. 医薬品の正しい使用が損なわれ、ひいては医薬品に対する不信感を生じさせる
  4. 一般消費者に不当な経済的負担を負わせる

表示・広告の変更事例

江崎グリコ「メンタルバランスチョコレート GABA」

【表示変更時期】:2006年3〜5月ごろ(商品発売:2005年5月)
【変更前】チョコレートを食べて、「ほっ」とリラックスした経験はありませんか。/この成分は人間の内に存在する神経伝達物質です。また、リラックスに役立つといわれているアミノ酸の一種です。/一般的なチョコレートの約25倍※のGABAを含有。※当社チョコレートと比較
【変更後】チョコレートを食べて、「ほっ」とした経験はありませんか。/チョコレートの原料カカオに含まれるアミノ酸の一種「GABA(ギャバ)」に注目。/チョコレート100g当たりに280mgのGABAを含有。
【解説】「リラックス」「脳」「神経伝達物質」を削除。当社比「約25倍」を削除

キリンビバレッジ「体質水」

【ニュースリリース表現変更時期】2004年2月27日(ニュースリリース発表:2004年1月22日、発売:2004年2月17日)
【変更前】「キリン 体質水」は、ムズムズする季節の春対策にふさわしい、毎日の快適な生活をサポートする飲料です。
【変更後】「キリン 体質水」は、毎日の快適な生活をサポートする飲料です。
【解説】「ムズムズする季節の春対策」を削除。日経ビジネス2004年4月12日号が報道

味の素「グリナ」

【広告表現変更時期】2006年2月(変更後)←2005年12月(変更前)(商品発売:2005年8月)
【変更前】味の素KKは、あなたのおやすみをアミノ酸“グリシン”で応援します。
【変更後】味の素KKは、あなたの毎日をアミノ酸“グリシン”で応援します。
【解説】「おやすみを応援」を削除。「毎日を応援」に変更

サンヘルス「コウジ黒酢」

【広告表現変更時期】2006年3月(変更後)←2005年12月(変更前)
【変更前】クエン酸は…健康や中年体型が気になる方に役立つといわれています。
【変更後】クエン酸は…健康や運動不足が気になる方に役立つといわれています。
【解説】「中年体型が気になる」を削除。「運動不足が気になる」に変更

ライオン「健美創研グッスミン」

【表示・HP表現変更時期】2006年6〜7月ごろ(商品発売:2006年6月)
【変更前】天然系快眠サポート飲料/(GABAは)リラックスに役立つと言われ、発芽玄米やカカオなどに多く含まれる成分/快眠サポート飲料 リラックス後の快眠
【変更後】快適生活サポート飲料/発芽玄米やカカオなどに多く含まれる成分/朝が苦手 明日は遅刻できない
【解説】「天然系」「快眠サポート」「リラックス」を削除。「快適生活サポート」「朝が苦手 明日は遅刻できない」に変更

日本コカ・コーラ「からだ巡茶」

【広告表現変更時期】2006年7〜8月ごろ(商品発売:2006年5月22日)
【変更前】広末涼子、浄化計画
【変更後】広末涼子、気分浄々。
【解説】「浄化計画」を削除。「気分浄々」に変更。2006年8月3日付け読売新聞が報道

伊藤園「天然ミネラルむぎ茶」

【表示変更時期】2006年9月(商品発売:2002年3月)
【変更前】さらさら効果
【変更後】さらさらおいしい
【解説】「効果」を削除。「おいしい」に変更

味の素「素肌いきいき」

【商品名変更時期】2006年10月
【変更前】素肌いきいき/アミノ酸は、コラーゲンエラスチンケラチン等の皮膚に多く存在するたんぱく質を構成する成分であり、プリプリ肌のための栄養素です。
【変更後】いきいき素顔/アミノ酸は、コラーゲンやエラスチン、ケラチン等のたんぱく質を構成する成分です。
【解説】「素肌」「皮膚」「プリプリ肌」を削除。「素顔」に変更

ファンケル「楽節サポート」

【商品名変更時期】2007年5〜6月
【変更前】楽節サポート
【変更後】グルコサミンほがらか
【解説】2007年4月13日に厚労省事務連絡が出され、ファンケル、小林製薬、DHCなどが、複数の商品名の薬事法違反を指摘された。

小林製薬「サラサラヘルプ」「男精ヘルプ」

【商品名変更時期】2007年6月
【変更前】サラサラヘルプ/男精ヘルプ
【変更後】ナットウキナーゼ&DHA&EPAセット/マカEXセット
【解説】2007年4月13日に厚労省事務連絡が出され、ファンケル、小林製薬、DHCなどが、複数の商品名の薬事法違反を指摘された。

DHC「圧ダウン」「コレステダウン」「糖ダウン」「肝エネルギー」

【商品名変更時期】2007年8月
【変更前】圧ダウンコレステダウン糖ダウン肝エネルギー
【変更後】圧バランス/健康ステロール/甘バランス/乾杯パワー
【解説】2007年4月13日に厚労省事務連絡が出され、ファンケル、小林製薬、DHCなどが、複数の商品名の薬事法違反を指摘された。

ダノンジャパン「BIOヨーグルト」

【表示・HP表現変更時期】2007年5月(商品発売:2002年3月)
【変更前】おなかスッキリ(腸を連想させるイラスト)・高生存ビフィズス菌BE80/スッキリおなかワールド
【変更後】高生存ビフィズス菌BE80/スッキリBIOワールド
【解説】「おなか」を削除

ハウス食品「うるおい美率」

【表示変更時期】2007年5月(変更後)←2006年12月(変更前)(商品発売:2006年10月)
【変更前】ハリつやバランス/3つの成分 しっかりうるおう
【変更後】美容実感ドリンク/おいしく飲んで しっかりうるおう
【解説】「ハリつや」「成分」を削除。「美容実感」に変更

ハウス食品「ウコンの力

【表示変更時期】2007年11月ごろ(商品発売:2004年5月)
【変更前】(商品正面)さらっとマイルドな飲み口/会食やパーティーに/翌朝のスッキリとした目覚めに!/(裏面)秋ウコンの成分を凝縮したエキスドリンクですので、夜のおつきあいが多い方の健康維持に最適です。1本でクルクミン30mg、ビタミンB6・Eが補給でき、飲んだ次の朝スッキリと目覚められます。生ウコン10g分のウコンエキスが取れます。
【変更後】(商品正面)スッキリおいしい/毎日元気に乾杯!/(裏面)秋ウコンの健康成分を凝縮したエキスドリンクです。スッキリおいしく飲むことができ、1本でウコンの健康成分クルクミン30mgと、ビタミンB6・ビタミンEが摂取できます。生ウコン10g分のウコンエキスを含有し、朝から夜まで忙しい方の元気と健康をサポートします。
【解説】「会食・パーティー・翌朝・スッキリ目覚め」「飲んだ次の朝スッキリと目覚め」を削除。「スッキリおいしく」「忙しい方の元気と健康をサポート」に変更

日本ミルクコミュニティ「メタボフリー ヨーグルト ガセリSP乳酸菌」

【表示変更時期】2009年8月(商品発売:2009年3月)
【変更前】メタボフリー ヨーグルト ガセリSP乳酸菌
【変更後】フリーヨーグルト ガセリSP乳酸菌
【解説】「メタボ」を削除

永谷園「生姜シリーズ」

【HP表現変更時期】2009年9月ごろ
【変更前】「冷え」が気になる方には「血めぐり研究会」の公式ブログも必見です。
【変更後】「血めぐり研究会」の公式ブログも必見です。
【解説】「「冷え」が気になる方には」を削除。

アサヒ飲料「健康茶 食事の脂にこの1杯。」

【HP変更時期】2010年9月(商品発売:2009年11月)
【変更前】ウーロン茶の程良い渋みが、脂のキレを実現
【変更後】ウーロン茶の程良い渋みの、さっぱりとした後味。
【解説】「脂のキレを実現」を削除
【表示変更時期】2010年11月(商品発売:2009年11月)
【変更前】脂っこい食事と一緒に 食事の脂にこの1本。 茶ポリフェノール60mg含有(コップ1杯200ml当り)
【変更後】脂っこい食事と一緒に 食事の脂にこの1本。 プーアール茶とウーロン茶のまろやかな味わい
【解説】茶ポリフェノールの含有量の表示を削除

行政措置と事業者のコンプライアンス

都道府県による行政指導

薬事法は都道府県の薬事法担当部署(東京都薬事監視課、大阪府薬務課、愛知県医薬安全課など)が担当している。

薬事法の行政措置は、健康被害が発生したり、度重なる警告にもかかわらず、悪質な表示・広告を継続するようなことがなければ、いきなり警察による捜査や逮捕ということは少なく、口頭または文書による行政指導で行われることが多い。文書による指導に対しては、対象商品の販売額・販売期間、薬事法違反が生じた原因、今後の改善措置などを文書で報告することが求められる。

行政指導の場合、商品回収や商品の出荷停止になったり、社名を公表されることは少なく、表示・広告を改訂するための猶予期間が与えられる。

薬事法の指導事例は公開されることはほとんどなく、また表示・広告が改訂されるまでにタイムラグが生じる。そのため、ある表示・広告が指導を受けても、別の食品会社が同じ表示・広告を繰り返すこともある。薬事法の指導は公開すべきだとの意見もある。

都道府県の薬事法担当部署や(社)日本広告審査機構(JARO)、(財)日本健康・栄養食品協会のような民間機関に事前相談することは可能である。ただし、事前相談すると使用不可とされる表現にもかかわらず、事前相談しなければ市場に出回り、指導を受けない表現例が少なくない。そのため、表示・広告において、薬事法は「正直者がバカを見る法律」だとの指摘もある[要出典]

薬事法違反はスピード違反と同じだと言われる。全国的なTVCMや新聞広告であれば、メディア(媒体)による考査もあり、比較的順守されているが、新聞折り込みチラシやホームページなどでは、故意で医薬品的な効能効果を標ぼうする事例が後を絶たない。薬事法の行政措置が緩いためである。世の中で違反事例が少なくないときに、自社はどのような判断基準で表示・広告を作成するのか、薬事法の順守の度合いは、食品会社のコンプライアンスの姿勢を表すと言える。

警察による捜査

食品表示に関する薬事法違反に警察の捜査が入ることもある。2008年の事例のうち、小売(店頭)で発覚した薬事法違反が、卸業者や製造元まで及んだ主な事例は下記のとおり。

島忠・イデシギョー事件

【時期】:2008年9月
【商品】:「富士山の恵みバナジウム72」「富士山の湧き水」(ミネラルウォーター)
【製造者】:イデシギョー(静岡県)(製紙メーカーが副業で製造)
【事実】:「糖尿病 血糖値を下げる」「美肌」などと外装ダンボールに表示
【措置】:9月11日、大手ホームセンターである島忠(埼玉県、東証1部上場)の新山下店(横浜市)・本社など10カ所が神奈川県警察の家宅捜索。イデシギョーも家宅捜索を受けた。2009年7月16日、書類送検されたが、横浜地検はボトルに効能効果が表示されていなかったこと、関係者が事実関係を認めて反省していることなどを理由に、8月31日付けで不起訴とした。
【報道】:日本テレビが10月1日に報道(店頭活動が隠し撮りされ、放映されたことが特異であった)



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