私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 規制類型

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/23 09:17 UTC 版)

規制類型

私的独占

「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを言う(2条5項)。

「排除」とは、他の事業者の事業活動の継続を困難にし、あるいは新規参入を困難にする行為をいう。不公正な取引方法に該当する手段が多いが、それに限定されるものではない。

「支配」とは、他の事業者の意思決定を拘束し、自己の意思に従わせることをいう。もっとも、ここでいう「拘束」とは、必ずしも相手方の意思に反することを要さないし、また、株式保有や役員派遣により事実上意思決定を支配できるようになった状態も「支配」に含まれる。

大部分の「私的独占」に当たる行為は「不公正な取引方法」にも該当するため、独自の意義付けは低いという見方が最近提唱されている。排除型については、一般指定15項がほとんど包含するし、支配型については、2条9項4号がほぼ包含する。もっとも、支配型については「不公正な取引方法」における課徴金制度が適用範囲が限定されたため、「私的独占」で事件処理をする意味が増している。

エンフォースメント(執行・実現方法)としては、以下がある。

  • 排除措置命令(法7条)公取委は事業者に対し、当該行為の差止め、事業の一部の譲渡、その他違反行為を排除するために必要な措置を命令できる。
  • 課徴金納付命令(法7条の2第2項、6項)支配型は対価に影響を与えるものに限る
  • 刑事罰(法89条1項1号)

不当な取引制限

「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義を以てするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう(2条6項)。

6条において不当な取引制限を内容とする国際的協定等が禁止されている。

典型的には談合がこれに当たる。

不当な取引制限の成立要件は、意思の連絡と、相互拘束・共同実行である。実務上は、意思の連絡がどの時点で成立したかの認定が争点になることが多い。

エンフォースメントとしては、以下がある。

  • 排除措置命令
  • 課徴金納付命令(いわゆるハードコア・カルテルに該当するものに限る)
  • 刑事罰

不公正な取引方法

「不公正な取引方法」とは、2条9項に定める以下の行為をさす。

1 正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること。

イ ある事業者に対し、供給を拒絶し、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。
ロ 他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限させること。

2 不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品又は役務を継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

3 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

4 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。

イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。

5 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

6 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの

イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
ロ 不当な対価をもって取引すること。
ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること。
ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること

6条において不公正な取引方法を内容とする国際的協定等が禁止されている。

エンフォースメントとしては、以下がある。

  • 排除措置命令
  • 民事上の差止め請求
  • 課徴金(6号を除き、1号から4号は10年以内に排除措置命令等を受けている場合、5号は継続している場合に限られる) 

一般指定

一般指定とは、「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号)のことを指す。

  • 6号イに対応して取引拒絶、差別対価等が1項 - 5項
  • 6号ロに対応して不当廉売等が6項・7項(3項も対応する)
  • 6号ハに対応して抱合せ販売等が8項 - 10項(特別法として景表法が存在)
  • 6号二に対応して拘束条件付取引は11項 - 12項
  • 6号ホに対応して取引の相手方の役員選任への不当干渉に対する規定は13項(特殊指定は主に6号ホに対応する)
  • 6号へに対応して競争者に対する取引妨害が14項・15項

が規定されている。

特殊指定

特殊指定には、新聞業・物流・大規模小売店に関するものが存在する。

事業者団体規制

次に掲げる行為の禁止(8条)。

  1. 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること
  2. 不当な取引制限・不公正な取引方法に該当する国際的協定又は国際的契約をすること
  3. 一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること
  4. 構成事業者の機能又は活動を不当に制限すること
  5. 事業者に不公正な取引方法に該当するような行為をさせること

エンフォースメントとしては、以下がある。

  • 排除措置命令
  • 課徴金納付命令(1号の不当な取引制限に該当するとき、あるいは2号の不当な取引制限を内容とする国際的協定等を締結した場合に限る)
  • 刑事罰(私的独占・不当な取引制限に限る)

企業結合規制

合併

次の各号の一に該当するときは合併をしてはならない(15条)。

  1. 合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとき
  2. 合併が不公正な取引方法によるものである場合

共同新設分割・吸収分割

次の各号のいずれかに該当する場合は、共同新設分又は吸収合併をしてはならない(15条の2)。

  1. 共同新設分割等によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとき
  2. 共同新設分割等が不公正な取引方法によるものである場合

共同株式移転

会社は、次の各号のいずれかに該当する場合には、共同株式移転(会社が他の会社と共同してする株式移転をいう。以下同じ。)をしてはならない(15条の3)。

  1.  当該共同株式移転によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合
  2.  当該共同株式移転が不公正な取引方法によるものである場合

事業の譲受け等の規制

会社は、次に掲げる行為をすることにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合は、そのような行為をしてはならず、不公正な取引方法により次に掲げる行為をしてはならない(16条)。

  1. 他の会社の事業の全部又は重要部分の譲受け
  2. 他の会社の事業場の固定資産の全部又は重要部分の譲受け
  3. 他の会社の事業の全部又は重要部分の賃貸
  4. 他の会社の事業の全部又は重要部分についての経営の委任
  5. 他の会社と事業上の損益を共通にする契約の締結

会社による株式保有の規制

会社は、他の会社の株式を取得又は保有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合は、その株式を取得又は保有してはならず、不公正な取引方法により他の会社の株式を取得又は保有してはならない(10条)。

銀行・保険会社による議決権保有規制

原則として他の国内の会社の議決権のうち、銀行については5%、保険業については10%を超えて、議決権を取得又は保有してはならない(11条)。所謂5%ルール

役員兼任規制(13条)

会社以外のものによる株式保有規制(14条)

エンフォースメント

  • 排除措置命令(株式の譲渡、事業譲渡、役員辞任)
  • 合併・分割無効の訴え

届出制度

  • 事前届出 - 株式取得・保有(例外あり)、合併・共同新設分割・吸収分割・共同株式移転・事業譲受等。待機期間は原則30日。

事前相談制度

企業結合計画に関する事前相談に対する対応指針(平成14年12月11日公表)による事前相談が合併等の前に行われるのが通例である。申出の条件としては、具体的な計画に対する当事会社からのものでこれへの回答内容を公表することを条件として行われ、原則として90日以内に回答するものとされている。そして、問題がないと回答したものについては、届出後において法定の措置を採らないものとされている。

例外的な規制

事業支配力過度集中会社の規制

他の国内の会社の株式(持分を含む)を所有することにより事業支配力が過度に集中する会社を設立したり、そのような会社になってはならない(9条)。

「事業支配力が過度に集中する」とは、

  • 会社(子会社その他株式所有により事業活動を支配している他の国内会社)の総合的事業規模が相当数の事業分野にわたって著しく大きいこと
  • これらの会社の資金に係る取引に起因する他の事業者に対する影響力が著しく大きいこと、又はこれらの会社が相互に関連性のある相当数の事業分野においてそれぞれ有力な地位を占めることにより国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の促進することの妨げになること

をいう。端的に言えば、1つの純粋持株会社ないしは銀行持株会社が、複数の業種で市場において支配的地位を持つ大企業を傘下に収めている状態のことである。これにより大日本帝国時代の旧植民地だった大韓民国と異なり、大東亜戦争以前に存在した三井合名(現・三井不動産)や三菱合資(後継法人は存在せず)など、財閥の頂点にあった会社が株式を上場せず、同族企業として存在し続けることは、21世紀の現在でも出来ない。

この条項は、本法律の施行直後に追って成立した過度経済力集中排除法および財閥同族支配力排除法が実施法となっていた。

一定の持株会社や総資産2兆円以上の会社(子会社も含んで計算。ただし、銀行等は総資産8兆円以上)については毎事業年度終了後3月以内(設立時は30日以内)に公正取引委員会に報告書提出義務がある。

なお、例外については適用除外整理法に規定がある他、大手私鉄では大東亜戦争以前に成立した陸上交通事業調整法で指定された区域における事業者が集約され、新規参入が制限されている例もある。放送持株会社では、放送法により傘下に収められる放送局の数に制限が設けられている他、サービスエリアが重複する他系列の局を傘下に収めることはできないとされている。

エンフォースメントとしては、排除措置命令(株式の処分等)がある。

独占的状態に対する規制

「独占的状態」とは、同種または類似の商品又は役務の国内で供給されたものの価額が一定の水準を超えた場合において、その商品役務等に係る一定の事業分野において,次に掲げる市場構造及び市場における弊害があることをいう(8条の4)

  1. 1年間において、一の事業者のシェアが50%を越えるか2の事業者のシェアの合計が75%を超えること
  2. 他の事業者が新規参入することを著しく困難にする事情があること
  3. その事業者が供給する一定の商品役務について、相当期間、需給の変動や供給費の変動に照らして、価格上昇が著しいか、その低下が僅少でありかつその期間において次の各号のいずれかに該当していること
    • イ 標準的な利益率を著しく上回る利益を得ていること
    • ロ 標準的な販売費及び一般管理費に比し著しく高額な販売費及び一般管理費を支出していること

エンフォースメントとしては、公正取引委員会は、独占的状態があるとき、事業者に対し事業の一部譲渡その他競争を回復させるのに必要な措置を命じることができる。ただし、そのような措置によりその事業者の供給する商品等の供給費用が著しい上昇をもたらす程度に事業が縮小し、経理が不健全になり、又は国際競争力の維持が困難になると認められる場合、及びその商品等について競争を回復するのに足りると認められる他の措置が講ぜられる場合はこの限りでない。なお、公正取引委員会は審判開始手続に先立って公聴会を開催する義務が生じる。


  1. ^ 日本法令外国語訳データベースシステム; 日本法令外国語訳推進会議 (2015年9月10日). “日本法令外国語訳データベースシステム-私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律” [Act on Prohibition of Private Monopolization and Maintenance of Fair Trade]. 法務省. p. 1. 2017年6月17日閲覧。
  2. ^ いわゆる主婦連ジュース事件に関する最高裁昭和53年3月14日判決民集32巻2号211頁を参照。
  3. ^ 審判官:公正取引委員会”. www.jftc.go.jp. 2022年6月6日閲覧。






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