看護倫理 重点

看護倫理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/22 15:59 UTC 版)

重点

看護師は、自分たちの世話をしている人々の尊厳を守るべきもの達であるべきである[10]。脆弱な状況と立場におかれる患者に尊厳のあるケアを提供するということは、この分野の重要な概念である[11]

一般的な倫理学的理論のレベルでも、人の尊厳を尊重することは、人々に対する尊重と共に、他人から影響を受けない自主的な選択を尊重する(オートノミー)、ということに関係している。それ(オートノミー)がなければ人は自分の治療について意思決定をすることが出来ないからである。なかでもインフォームド・コンセントの実践は看護師によって尊重されるべきでり、それは自主尊重原則が根拠となっているからである[7]。ただ、ほとんどの場合、議論の多くは自分の治療について選択をすることができない無意識状態に陥っている人のケースや、判断に影響を与える精神的な病を患っているケースについてである。患者の自主尊重を維持するために提案されている方法は、患者が自主尊重を失った場合、自分自身がどのように扱われることを望むかを概説する「意思表明書」を事前に書面にしておくこととなっている。

  • なお、日本の医療の分野では、「患者の自主権・自己決定」の文脈においてしばしば「自律性」と誤訳した上で「患者が自分を律して自己規制すること」などと正反対の「患者の権利を否定」するような意味で誤用されている

もう一つのテーマは機密保持(つまり守秘義務)、これは多くの看護倫理規定における重要な原則である。これは、生命に係るために共有することなどを除き、その人に関する情報がその人の許可を得て初めて他人と共有されるということである[7]。情報提供に関連するのは、ケアを受けている患者との対話における真実の語り方に関する議論である。自主的な決断を下すのに必要な情報を持つ人々と、真実に不必要に悩まされる人々という二種類があり、バランス必要となる。一般的に自主性を尊重するために真実を語ることが推奨されていますが、しばしば真実は語られないように頼むか、あるいはその真意を察することができない場合もある[12]。ここで最後に、記述倫理学(comparative・empirical ethics)の役割が近年顕著になっていると指摘されている[11]

上記のテーマを考慮することによって、看護師は倫理的な方法で看護実践するように努めることが可能となるのである。看護実践における結果は、時にはリソース不足、政策、または環境的な障害にぶつかり[10]それが道徳的な悩みにつながる可能性があるからである[2]


注釈

  1. ^ non-maleficenceは、日本では「無危害原則」との表記も多くみられる。
  2. ^ beneficenceは、日本では「善行原則」などの表記も多くみられる。
  3. ^ 「オートノミー(Autonomy)」の訳語として一部日本の医療関係者においては、「自律性尊重原則」や「自律原則」などといった表記もなされる場合もある。しかしながら、医療倫理における定義でも触れられているように「自律」はこの文脈では誤りであり、「自主」または「自己決定権」の意味である。オートノミーは「"autos" (self=自ら) and "nomos (rule=治む・統治・支配)」を元にしており、単語の定義は「Autonomy is the capacity of a rational individual to make an informed, un-coerced decision; or, in politics, self-government」つまり、「合理的な個人として、よく情報を与えられた上でなおかつ他から影響されない自由な意思決定をすることが可能なキャパシティー(能力を与えられている状態=権利)。政治においては自治」となる。 オートノミーの由来は、古代ギリシア語: αὐτονομία, autonomia, from αὐτόνομος, autonomos, from αὐτο- auto- "self" and νόμος nomos, "law", hence when combined understood to mean "one who gives oneself one's own law"、つまり直訳すると「自分で自分に自身の法を与える者」となる。 同様に、台湾などの他の漢字圏でも「自主」をあてはめ「尊重自主原則」と訳し、醫學倫理學 - 病患自主(患者の自主)」、「生命倫理學之四原則、1.尊重自主原則」、「自主神经系统」、「病人自主權利法(患者の自主権利法)といった用いられ方をしている。 ここはでは、中立性、客観性、翻訳上の観点から、より正確な「自主」の訳語を採用している。

出典

  1. ^ Hunt, G. (1998). Craig E. ed. Routledge Encyclopedia of Philosophy. 7. London: Routledge. pp. 56-57. ISBN 978-0-415-18712-1 
  2. ^ a b c d Storch, J.L. (2009). “Ethics in Nursing Practice”. In Kuhse H & Singer P.. A Companion to Bioethics. Chichester UK: Blackwells. pp. 551-562. ISBN 9781405163316 
  3. ^ McHale, J; Gallagher, A (2003). Nursing and Human Rights. Butterworth Heinemann. ISBN 978-0-7506-5292-6 
  4. ^ The ICN Code of Ethics for Nurses”. International Council of Nurses (2012年). 2017年7月19日閲覧。
  5. ^ Breier-Mackie, Sarah (March–April 2006). “Medical Ethics and Nursing Ethics: Is There Really Any Difference?”. Gastroenterology Nursing 29 (2): 182-3. doi:10.1097/00001610-200603000-00099. http://www.nursingcenter.com/pdf.asp?AID=641332 2012年2月2日閲覧。. 
  6. ^ a b Tschudin, Verena (2003). Ethics in Nursing: the caring relationship (3rd ed.). Edinburgh: Butterworth-Heinemann. ISBN 978-0-7506-5265-0 
  7. ^ a b c Rumbold, G (1999). Ethics in Nursing Practice. Balliere Tindall. ISBN 978-0-7020-2312-5 
  8. ^ Armstrong, Alan (2007). Nursing Ethics: A Virtue-Based Approach. Palgrave Macmillan. ISBN 978-0-230-50688-6 
  9. ^ a b Chambliss, Daniel F.、浅野, 祐子『ケアの向こう側 : 看護職が直面する道徳的・倫理的矛盾』日本看護協会出版会、2002年(日本語)。
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  11. ^ a b Gastmans, C. (2013). “Dignity-enhancing nursing care: A foundational ethical framework”. Nursing Ethics 20 (2): 142-149. doi:10.1177/0969733012473772. PMID 23466947. 
  12. ^ Tuckett, A. (2004). “Truth-Telling in Clinical Practice and the Arguments for and Against: a review of the literature”. Nursing Ethics 11 (5): 500-513. doi:10.1191/0969733004ne728oa. PMID 15362359. http://nej.sagepub.com/cgi/content/abstract/11/5/500. 
  13. ^ 看護における研究倫理指針の歴史的展開 国立循環器病研究センター医学倫理研究室 /「看護研究」誌(医学書院) 2018年7月8日閲覧
  14. ^ 吾妻知美「ナイチンゲールの看護の本質はどのように伝えられたか」『教授学の探究』第23巻、北海道大学大学院教育学研究科教育方法学研究室、2006年1月、 111-121頁、 ISSN 0288-3511NAID 120000959066
  15. ^ 小林道太郎, 竹村淳子, 真継和子「看護倫理に関する歴史的概観 (PDF) 」 『大阪医科大学看護研究雑誌』第2巻、大阪医科大学看護学部、2012年3月、 60-67頁、 ISSN 2186-1188NAID 40019582511
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  20. ^ a b Boundaries in the nurse-client relationship NCSBN 2018年7月8日閲覧
  21. ^ Professional Boundaries and the Nurse-Client Relationship: Keeping it Safe and Therapeutic - Guidelines for Registered Nurses CRNNS 2018年7月8日閲覧
  22. ^ https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21592912/ 患者-看護師関係における境界概念モデルの構築及び境界調整に関する技術的要素の抽出] 牧野 耕次 滋賀県立大学, 人間看護学部, 助教 2018年7月8日閲覧
  23. ^ https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21592912/ 日本の医療現場における《患者-看護師》関係の特性] 日本大学大学院総合社会情報研究科 2018年7月8日閲覧
  24. ^ シンポジウム 第54回人権擁護大会 2011年10月6日 2018年7月8日閲覧
  25. ^ 障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針について 医療関係事業者向けガイドライン 2018年7月8日閲覧






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