法 (法学) 道徳との関係

法 (法学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/06 06:00 UTC 版)

道徳との関係

かつては、規範としての法、宗教、道徳との間には明確な区別はなかった。しかし、近代統一国家の生成などにより法と道徳の峻別が進むことにともない、両者の関係が問題とされるようになる。もっとも、ここでいう「道徳」の概念も不明確な点があり、この点にともなう混乱も生じている。

法の外面性と道徳の内面性

まず、トマジウスにより、法の外面性と道徳内面性という定式が提示された。その論ずるところによると、法は人間の外面的な行為を規律することを使命とするのに対し、道徳は人間の良心に対し内面的な平和を達成することを使命とする。この点につきカントは、若干視点を変え、合法性 (Legalität) と道徳性 (Moralität) との峻別を論じた。法と道徳の区別を義務づけとの関係に求め、法は、動機とは無関係に行為が義務法則に合致すること(合法性)が要求されるのに対し、道徳は、動機そのものが義務法則に従うことが要求されるとする。

これらの見解は、強制を伴う干渉からの個人の自律的な活動領域を確保する古典的自由主義の要請と結びついて主張されたものであり、法は強制を伴うのに対し道徳は強制を伴わないという結論を導くことにより、国家権力の行きすぎをチェックする役割を果たした。しかし、道徳の内面性の強調については、各種の道徳に共通したものとは言い難い側面がある。具体的には、このような視点は伝統的なキリスト教的な道徳を前提としており、「恥の文化」を基調とする社会では妥当しないのではないかという疑問などが提示される。

また、このような区別は、法は個人の内面に干渉してはならないという実践的な提言を伴うものであるが、現実には、法においても個人の内面のことが問題とされないわけではない。例えば、刑法では故意犯過失犯とが区別されている。また日本国憲法第19条が思想・良心の自由を保障しているのも、大日本帝国憲法下において内心の自由そのものを制約しようとする立法がされた反省によるところが大きい。

最小倫理としての法

以上の議論は、個人道徳(個人倫理)を念頭に置いた議論であり、社会道徳(社会倫理)との関係については、必ずしも念頭に置かれていない。

法を社会道徳との関係で考察すると、社会道徳が社会の構成員の外面的な行動を制約する原理として働くことは否定できない。また、個人の自律的な選択の内容となる個人道徳も、社会道徳による影響を受けることがある。このような点から、法の基本的なところは社会道徳と一致することが望ましいとされ、イェリネックのいう「法は倫理の最小限」という定式が主張される。法はその内容につき、社会の存続のために必要最小限の倫理を取り入れることが要求されるという主張である。もっとも、法と個人道徳との対立関係を考慮しておらず、道徳観が多様化している社会で維持できるかという問題が指摘される。


  1. ^ 第2版,世界大百科事典内言及, 精選版 日本国語大辞典,デジタル大辞t泉,ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,とっさの日本語便利帳,旺文社世界史事典 三訂版,世界大百科事典. “法とは”. コトバンク. 2022年3月29日閲覧。
  2. ^ 知らない間に罪を犯してしまった…法律を知らなかったと言い訳することは可能か”. ダーウィン法律事務所 刑事事件専門サイト (2020年6月25日). 2023年1月21日閲覧。
  3. ^ 小川環樹他編『角川新字源 改訂版』(角川書店、1994年)568頁
  4. ^ 裘錫圭 「談談古文字資料対古漢語研究的重要性」 『中国語文』1979年第6期 437-442頁。
    William H. Baxter and Laurent Sagart, Old Chinese - A New Reconstruction, Oxford University Press, 2014, p. 152-153.
  5. ^ 鄧佩玲 「古文字“廌”及其相関諸字――従金文“用作”文例中的“薦”字談起」 『青銅器与金文』第1輯 北京大学出土文献研究所編、上海古籍出版社、2017年、204-221頁。





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