意識に相関した脳活動 意識的知覚の神経基盤

意識に相関した脳活動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/08 04:07 UTC 版)

意識的知覚の神経基盤

時空間的な視覚知覚を正確に操作出来れば、意識に相関した脳活動を探求する上で視覚が絶好の研究対象になる。そのために、心理学者は以下のような多くの手法を開発してきた。- マスキング、両眼視野闘争、フラッシュ・サプレッション、運動誘発盲、チェンジ・ブラインドネス (変化への盲目)、インアテンショナル・ブラインドネス (不注意による盲目) - これらの現象において、世界の物理的刺激と被験者の精神内部で起きるそれらと関連付けられた知覚との、一見単純で明白に思える関係性が崩壊している (Kim and Blake 2004)。特に、刺激の知覚が数秒、場合によっては数分もの間、抑制され、刺激が被験者の眼の片方に投影されているにも関わらず、見ることが出来ないことさえある。この時、物理的刺激ではなく被験者の知覚に反応する神経メカニズムを分離することで、脳内での視覚意識の足跡をたどることが出来る。人が錯覚を起こしている時、物理的刺激は変化していないのに、その知覚は揺れ動いている。そのよく知られた例として、その図形を構成する12本の線が、深さの異なる2種類の見え方をするネッカーの立方体がある。

ネッカーの立方体: 左の線画は右に示される2種類の深さの構成の内の1種類で知覚される。他の視覚手がかりが無ければ、視覚系はこの2つの解釈の間を行ったり来たりする。Koch (2004) から

正確にコントロールできる錯覚に両眼視野闘争がある。この錯覚では、左眼には小さい画像 (例えば水平の縞模様) を呈示し、右眼の対応する位置に別の画像 (例えば鉛直な縞模様) を呈示する。視覚刺激自体は変化しないにもかかわらず、被験者の意識上では水平の縞模様と鉛直の縞模様に数秒ごとに変化して見える。脳は両方の画像を同時に知覚することは出来ない。どちらの画像を見ているのか報告できるようにマカクザルを調教することができる。知覚が切り替わる時間の分布や片方の眼でのコントラストの変化が知覚に与える様子などを調べた結果、ヒトとマカクザルが同一の基礎的現象を経験していることはほとんど疑いようが無い。一連のエレガントな実験において、ロゴテティス (Logothetis) らは (Logothetis 1998) 覚醒時のマカクザルが両眼視野闘争課題を行っている際の様々な視覚野の活動を計測した。一次視覚野 (V1) では、ごく一部の細胞がサルの知覚に従って僅かに活動が変化し、大部分の細胞はその時間におけるサルの知覚にほとんど関係なくどちらか片方の眼の網膜上の刺激に反応した。反対に、腹側皮質視覚路に属する下側頭野 (IT 野) のような高次視覚野では、ほとんど全ての細胞が知覚的に優位な刺激に反応した。例えば、'顔' ニューロンは動物が顔を見ていると行動で示している時にのみ発火し、もう片方の眼に顔が呈示されている時には発火しなかった。このことは、意識に相関した脳活動は下側頭皮質の神経活動を含んでいることを示唆している。しかし、下側頭皮質の細胞と前頭前皮質の一部の神経細胞との特定の相互作用が意識に相関した脳活動を生み出すために必要であるという可能性もある。

関連する知覚現象として、フラッシュ・サプレッションと呼ばれる現象がある。この現象は、片方の眼に投射された画像の知覚を、もう片方の眼で別の画像をフラッシュさせることで抑制する (この時、片方の眼の画像は呈示したままである) というものである。この現象が両眼視野闘争に比べて方法論的に優れている点として、知覚の変化のタイミングを内的なイベントではなく外的なトリガーによって決定することが出来る点にある。フラッシュ・サプレッションの際に自身の知覚を報告するように調教したサルのIT 野と上側頭溝の大部分の細胞の活動はサルの知覚に従って変化した。つまり、その細胞が選択的に反応する刺激が知覚された時に、細胞が発火した。もし、画像はまだ呈示されているのに、フラッシュ・サプレッションにより知覚が抑制された場合、一次視覚野の細胞はこの刺激に対して強く発火しているにもかかわらず、高次視覚野の神経細胞の発火は止まる (Leopold and Logothetis 1996; Sheinberg and Logothetis 1997)。てんかん患者がフラッシュ・サプレッションを経験している時の内側側頭葉の単一細胞記録の結果も同様で、その細胞が選択的に反応する刺激が呈示されているが知覚的にマスクされている時、細胞の発火は止まっている (Kreiman et al. 2002)。

多くの fMRI 実験で、ヒトの視覚意識の根底にある脳血流活動を同定するために両眼視野闘争やそれに似た錯覚が利用された。それにより、(紡錘上回顔領域や海馬傍回場所領域などの) 腹側皮質視覚路の高次領域の BOLD 信号も一次視覚野や外側膝状体を含む初期視覚野の BOLD 信号も、単純な網膜上の刺激ではなく知覚に従って変化することが強く示された (Rees and Frith 2007)。この実験事実に加えて、多くのエレガントな fMRI 実験 (Haynes and Rees 2005; Lee et al., 2007) やDTI実験 (Shimono and Niki, 2013)によって、一次視覚野の活動は視覚意識に必要だが十分ではないという仮説 (Crick and Koch 1995) が支持されている。







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