安達が原 安達が原の概要

安達が原

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/03 01:40 UTC 版)

概要

読み切り短編の連作シリーズ「ライオンブックス」の中の1編である。「ライオンブックス」はもともと1956年から1957年にかけて集英社の少年誌『おもしろブック』で連載されていたシリーズだったが、それら旧シリーズから十数年後の1971年、同じく集英社の『週刊少年ジャンプ』にて、手塚は改めて「ライオンブックス」と冠したシリーズを開始することになった。そのトップバッターとなったのがこの『安達が原』である。

新シリーズの「ライオンブックス」では、1971年から1973年にかけて合計15編の作品が発表された。その15編のうちの多くが少年向けの作品として分類しうるのに対し、この『安達が原』は、掲載先こそ少年誌だが、扱っている題材、物語のプロットなど、内容的には大人向けに近い作品となっている。

冒頭、「旅のころもはすずかけの 露けきそでやしおるらん」で始まるの一節が見開きページで登場する。これは能の演目『安達原』の一節を引いている。冒頭だけでなく中盤と最終盤にも一カ所ずつ、『安達原』からの一節が差し挟まれている。手塚の本作『安達が原』では「安達が原につきにけり」で引用が結ばれ、その次のページから本編が始まる。

あらすじ

宇宙調査官である主人公ユーケイは、大統領の直命を受け、とある星に降り立つ。その星には一人の魔女が住んでおり、近くを通りかかる宇宙船をおびきよせては乗組員を殺し、物資や食糧を奪っているという。ユーケイに与えられた任務は、証拠を押さえてその魔女を始末すること。宇宙船の残骸が墓標のように立ち並ぶ荒野を抜け、ユーケイは岩山をくりぬいて作られた魔女のすみかに辿りつく。

岩山のすみかには白髪の老婆が住んでおり、訪れたユーケイを招き入れ、彼に手料理を振る舞う。長旅の疲れを癒せ、とユーケイに寝室をあてがう老婆。その夜、ユーケイは寝室を抜け出して家の中を調べ、地下室に大量の人骨が打ち捨てられているのを発見する。しかもそれらの人骨はミイラから自然に白骨になったのではなく、肉を剥ぎ取られた跡があった。

そのとき地下室の入口に老婆が現れ、なぜ地下室を見たのだ、とユーケイを咎める。自分はユーケイを殺すつもりはなかったのに、食事を振る舞い寝床まで用意したのに、なぜ開けてはならない地下室を開けたのか、と。ユーケイは自分の身分を明かし、大統領の命でおまえを殺すためにこの星に来たのだと告げる。そして、ここにある死骸の屍肉を喰らったのかと老婆に詰め寄る。老婆は逃走し反撃するも、追い詰められ銃口を突きつけられる。観念した老婆はユーケイに、死に土産にユーケイの身の上を聞かせてくれと懇願する。どうしてもと乞われ、ユーケイは自らの過去を話し始める。そしてその中で、ある意外な事実が明らかになるのだった。

登場人物

ユーケイ
主人公。腕利きの調査官として宇宙のならず者たちから殺し屋と恐れられている。かつては反政府運動の活動家で、その当時の名はジェス三森。一度逮捕され流刑星送りになったが、流刑星に着いた途端に反政府革命が成功したという報が入り、すぐに地球に帰ってくることになる。片道30年かかる流刑星への航行では冷凍睡眠機に入れられて眠っていたため、往復で60年を実質的にタイムトリップしたことになった。したがって肉体的な年齢は25歳だが、物理的には生まれてから約90年ほど経っている。
流刑星送りになる以前、彼にはアンニー黒塚という恋人がいた。が、逮捕されたことでアンニーとは生き別れになった。地球に帰ってきたあと、かつて同棲していたアパートを訪ねるなどして彼女の行方を捜したが、消息は掴めなかった。その後宇宙調査官の任務に従事し、ジェス三森から改名してユーケイと名乗るようになる。ユーケイという名前は黒塚の説話に登場する東光坊祐慶(とうこうぼうゆうけい)から。
白髪の老婆
宇宙の片隅の星に一人暮らす老婆。91歳。かつて地球で暮らしていた頃はアンニー黒塚という名で、ジェス三森の恋人だった。ジェスが逮捕されたあと反政府運動に身を投じ、やがて地球を逃れてこの星に流れついた。ともに宇宙に出た仲間は死んでゆき、その後たった一人何十年も、いつかジェスと再会できる日を待ち続けていた。
自分がアンニーであることをユーケイに明かした後、許しを乞うユーケイに対し、かつてのアンニーはもういない、ここにいるのは薄汚れた人喰い婆だから、と早く任務を遂行するよう促す。

その他、脇役としてダモクレス大統領役にロンメルがキャスティングされている(スター・システム)。




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