不老不死 批判

不老不死

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/21 00:53 UTC 版)

批判

不老不死を「永遠に続く生の苦しみ」「死による終わりがない苦しみ」と解釈し、それに警鐘を鳴らすことで不老不死を求める愚かさや、永遠の生にまつわる詐欺行為を戒める寓話や伝説は数多い。例えばフライング・ダッチマンなどは永遠の責め苦を与えるために不老不死を与えられている。またギリシア神話プロメーテウスは神族であるがゆえに不老不死であり、それによってゼウスが科した内臓を山上で晒しものにされカラスについばまれ続け苦痛を受け続けるという刑罰が成立している。

不老不死が不可能と解っていつつ、少しでも長く生きたいと思いながら、毎日一日一日をいい加減に扱う人間の生き方 を、東西の賢人達は警告した。兼好法師は『徒然草』の中で以下のように記した[8]

名利につかはれて、しずかなるいとまなく、一生をくるしむるこそおろかなれ — 『徒然草』第38段
人間はアリのように集って、東西に急ぎ、南北に走って…夜になると眠り、朝がくると働きだす。何のためにそうした生活をいとなんでいるのか。ただ長寿を願い、利を求めてやむときがないのである。しかし老とはまことに速くやってくる。そんな有り様で人生に何の愉しみがあるだろうか。ところが迷っている人間は、それを少しも気にかけない。というのは、名利におぼれて、という人生の終点が近いことを考えようとしないからである…。 — 『徒然草』第74段

古代ローマの思索家セネカも『人生の短さについて』で兼好法師と同様に、人生は短いのではない、人間がそれを短くしてしまっているのだ、と述べた。それは不摂生で人生を短くしているといった意味ではなく、我々が、一日一日を大切に生きていない、一日一日を活かしきっていない、ということを述べているのだという。セネカは、毎日を「人生最後の一日」のように思いつつ、明日を頼りにして今日を失わないこと、心の多忙から解放されることを薦める。心が忙しないと、たとえ物理的には引退して別荘に住んでいても、心は感じるべきことを感じない。セネカはこれを「怠惰な多忙」と呼んだ[8]

また、心を肝心でない事柄に向けて忙しくしてしまうことを、ブレーズ・パスカルは『パンセ』などで「divertissment(ディベルティスマン)」と呼んだ[24]


注釈

  1. ^ 換言すれば、そのような存在は不老不死の個体ではなく、精神や意思が(それを伝えてきた民族の精神や文化すなわちミーム同様)不変であるとする。
  2. ^ なお、ほとんどの細胞は新陳代謝によって常に生まれ変わり、いくつかの内臓器官は数年で完全に新細胞に入れ替わっている。言い換えれば、細胞そのものが永久に不老である必要はなく、常に代謝が正常に行われれば不老であると考えられる。

出典

  1. ^ Marshall Fredericks (2003年). “GCVM History and Mission”. Greater Cleveland Veteran's Memorial, Inc.. 2009年2月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年1月14日閲覧。
  2. ^ 『デジタル大辞泉』。不老:「いつまでも若く、年をとらないこと。」不死:「いつまでも死なないこと。」不老不死:「いつまでも歳をとらず、また、死なないこと。」
  3. ^ 「Weblio 類語辞典」-不老不死。
  4. ^ 『デジタル大辞泉』。
  5. ^ a b 北康利『匠の国日本: 職人は国の宝、国の礎』PHP研究所、2008年、190-193頁。ISBN 9784569696836 
  6. ^ a b c d 多田元『もう一度学びたい古事記と日本書紀』西東社、2006年、106頁。ISBN 9784791613878 
  7. ^ 『プログレッシブ和英辞典』 小学館。
  8. ^ a b c d 森本哲郎『生き方の研究』PHP研究所、2004年、29-35頁。ISBN 9784569661940 
  9. ^ 人口爆発と少子高齢化が併存する世界で低炭素社会への道を探る”. 2023年5月28日閲覧。
  10. ^ 史記』の秦始皇本紀など。
  11. ^ 『平家物語 巻七 竹生嶋詣』。 
  12. ^ 『史記』の淮南衡山列伝。
  13. ^ 大形徹『不老不死-仙人の誕生と神仙術』講談社、1992年。ISBN 9784061491083 
  14. ^ Doctors Baffled, Intrigued by Girl Who Doesn't Age
  15. ^ 永遠に年をとらない少女
  16. ^ Brooke Megan Greenberg, obituary and condolences at the Sol Levinson & Bros., Inc. site, stored at the Wayback Machine]
  17. ^ 「老化」知らぬカメの一群 宿命と決別、科学者も驚嘆”. 日本経済新聞 (2022年7月16日). 2022年7月20日閲覧。
  18. ^ カメの多くは「ほとんど老化せず年をとっても死亡率が上がらない」ことが判明”. GIGAZINE. 2022年7月20日閲覧。
  19. ^ Reinke, Beth A. (2022年6月24日). “Diverse aging rates in ectothermic tetrapods provide insights for the evolution of aging and longevity” (英語). Science. pp. 1459–1466. doi:10.1126/science.abm0151. 2022年7月20日閲覧。
  20. ^ 老化しない唯一の哺乳類、ハダカデバネズミ「発見」の意味”. Newsweek日本版 (2018年1月30日). 2022年7月20日閲覧。
  21. ^ ハダカデバネズミはほとんど老化せず年を取っても死亡率が上がらない”. GIGAZINE. 2022年7月20日閲覧。
  22. ^ 「老化しない」ことが夢物語でなくなった理由”. 日経ビジネス. 2023年12月13日閲覧。
  23. ^ 推定71歳、世界最高齢の野鳥・コアホウドリの「ウィズダム」が2022年も戻ってきた”. HuffPost. 2023年12月21日閲覧。
  24. ^ Le divertissement. Pascal. - PhiloLog






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