ロッキートビバッタ 絶滅

ロッキートビバッタ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/30 17:37 UTC 版)

絶滅

昆虫学委員会が発足したちょうどその頃、多雨に見舞われたことからロッキートビバッタは自然減少したものの、当時の昆虫学者たちは次の干ばつを契機に大発生が再来すると予測しており、絶滅するとは考えられていなかった[9]。しかし、大発生の特定年間に限り、プレーリーで繁殖が行われており、かつ世代交代するごとに繁殖数は減り、大発生の地域もロッキー山脈から次第に離れていった[40]。その絶滅要因は諸説あるものの[9]、21世紀に入ってからも断定できていない[5]。20世紀後半には氷河が氷解し、そこからロッキートビバッタの個体が見つかっている。これらの代表的な氷河は、アブサロカ・ベアトゥース自然環境保護地域 (ロッキー山脈の一部を形成) にあるグラスホッパー氷河英語版のほか、ワイオミング州フレモント郡にあるウィンドリバー氷河英語版や同州のナイフポイント氷河英語版などである[3]。氷河から収集したロッキートビバッタの死骸を用いて、ジェフリー・A・ロックウッド英語版は1990年以降、研究に取り組んでいるものの、解明のカギとなるオスの生殖器が標本から分析困難な状態である[3]。2005年時点でロックウッドは「まさに北米大陸における生態学のナゾだ」と述べている[5]。最後に生きた個体の標本が確認されたのは1902年のことであり[6]国際自然保護連合 (IUCN) では2014年に絶滅種として登録している[1]。以下、絶滅の諸説を紹介する。

バイソン乱獲地域 (動物学者ウィリアム・テンプル・ホーナデイ英語版による調査)。ロッキートビバッタ絶滅との関係も示唆されている。
  初期
  1870年時点
  1889年時点

まず、バイソン (アメリカ野牛) やビーバーの乱獲による減少が、ロッキートビバッタの減少と相関しているとの説がある[6][9]。バイソンもグラスホッパーと同様に草食動物であり、両種は数千年の間、草原で共生してきた。この間、バイソンが草原の生態系に影響を及ぼし、その結果ロッキートビバッタの繁殖・生育に優位に働いたとする説である[9]

マメ科の植物であるムラサキウマゴヤシ (アルファルファ) を原因とする説もある。アルファルファはロッキートビバッタの好物だが、幼虫の生育に有害だとの研究結果がある[9]

Melanopolus spretusという種のワタリバッタが群生したものをロッキートビバッタと呼んでいたことから、この種が絶滅したのではなく、もともとは孤独相のバッタが、環境変化に適合してロッキートビバッタの大群に変化したとする説も存在していた[41][9]。すなわち、絶滅したのではなく姿を変えただけで現存しているとの主張である[9]。しかしながら、様々な種のバッタを高密度の環境に置く実験を行ったものの、ロッキートビバッタのような習性は見られなかった。博物館の標本や類似の種から採取したミトコンドリアDNAを解析した結果、バッタ科フキバッタの一種であるブルーナートビバッタ英語版 (学名: Melanoplus bruneri) に近似の可能性はあるものの、ロッキートビバッタは独自の種であり現在では絶滅したと推定される[41]

また、蝗害を避けるために栽培品種を冬小麦英語版に切り替えている。冬小麦の収穫は初夏であることから、ロッキートビバッタの飛来前に収穫を終えることができるためである。このような農業現場での努力も奏功し、蝗害への脅威が低減するとともに、ロッキートビバッタの大幅な個体数減少にもつながった。1880年代後半には蝗害から復興し、洪水被害を受けたオハイオ州 (北米大陸北東部) に向けて、プレーリー地帯からトウモロコシを供給できるまでに農業生産性は回復している[12]

その他の説としてプレーリー、特にミシシッピー川流域での農地開拓と灌漑によって、ロッキートビバッタの生態系に影響を与えたと考えられており、前述のロックウッドがこの説を支持している[42]:11–12[9]。開墾や耕作、洪水によって、1平方インチ (約6.45平方センチメートル) あたり150個以上の卵嚢を駆除したと推定する当時の報告書なども存在する[42]


注釈

  1. ^ この分類はITISの"Catalogue of Life" (2008) による[2]
  2. ^ 2004年に発表された別説によると、3兆5千億匹との推定結果もある[7]
  3. ^ 1933年のFaure論文、1947年のBrett論文、1953年のGurney論文[3]
  4. ^ 1917年のHebard他論文[3]
  5. ^ アメリカ合衆国労働省労働統計局が公表するアメリカ合衆国消費者物価指数英語版は1913年が統計最古のデータであり[37]、ロッキートビバッタの大規模蝗害が発生した1870年当時のデータは公表されていない。1912年以前は推計値となるが、1967年を基準年として100とした場合、1874年の消費者物価指数は34、2018年は754.6となっており、144年間で22倍強に上昇している。よって、1874年当時の2億ドルは2018年現在の44億ドル超と推定される[38]
  6. ^ ハーティトラスト上で年次報告書のデジタルスキャンが全文公開されている。

出典

  1. ^ a b Hochkirch, A. (2014). “Melanoplus spretus”. 国際自然保護連合レッドリスト英語版 2014: e.T51269349A111451167. doi:10.2305/IUCN.UK.2014-1.RLTS.T51269349A55309428.en. 
  2. ^ Annual Checklist Archive | MS Windows CD ISO Image 2008 Download”. Catalogue of Life. 2020年7月29日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m Sutton et al. 1996, p. 1.
  4. ^ Gurney & Brooks 1959, p. 4.
  5. ^ a b c d e f g h i Hopkins 2005, p. 80.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m Garcia, Matthew (サウスウェスタン大学所属). “Melanoplus spretus, Rocky Mountain Locust”. Animal Dibersity Web. ミシガン大学動物博物館. 2019年11月11日閲覧。
  7. ^ a b Lockwood 2004, p. 21.
  8. ^ “Locust hordes”. Canada's History英語版: 43-44. (October–November 2015). https://secure.canadashistory.ca/online-store/index.php?cat=C&feature=CDH955&. 
  9. ^ a b c d e f g h i Hopkins 2005, p. 81.
  10. ^ a b Walsh 1866, pp. 1–3.
  11. ^ a b c d e MinuteEarth (A Britannica Publishing Partner). “Video - Rocky Mountain locust (Melanoplus spretus)”. ブリタニカ百科事典. 2019年12月1日閲覧。
  12. ^ a b c d e f g h Lyons, Chuck (2012年2月5日). “1874: The Year of the Locust”. HistoryNet. 2015年6月17日閲覧。
  13. ^ a b Definition of grasshopper” [grasshopperの定義] (英語). Merriam-Webster Dictionary. 2019年11月9日閲覧。
  14. ^ Meaning of locust in English” [locustの英語の意味] (英語). Cambridge Dictionary. ケンブリッジ大学出版会. 2019年11月9日閲覧。
  15. ^ Definition of locust” [locustの定義] (英語). Merriam-Webster Dictionary. 2019年11月9日閲覧。
  16. ^ J Genet Genomics 2010, p. Abstract (要約欄).
  17. ^ Gwynne 1995, pp. 203–218.
  18. ^ Flook 1997, pp. 89–103.
  19. ^ Browse taxonomic tree | Catalogue of Life: 2019 Annual Checklist”. The Catalogue of Life. 2019年11月8日閲覧。
  20. ^ a b c d 昆虫図鑑:バッタ目(直翅目)”. 岐阜聖徳学園大学教育学部川上研究室. 2019年11月10日閲覧。
  21. ^ suborder Caelifera > infraorder Acrididea > superfamily group Acridomorpha > superfamily †Locustopsoidea Handlirsch, 1906”. Orthoptera Species File (Version 5.0/5.0). 2019年11月8日閲覧。
  22. ^ ヒシバッタ上科 Tetrigoidea  - 日本産生物種数調査 -”. 日本分類学会連合. 2019年11月8日閲覧。
  23. ^ ノミバッタ上科 Tridactyloidea  - 日本産生物種数調査 -”. 日本分類学会連合. 2019年11月8日閲覧。
  24. ^ a b Scudder 1898, p. 184.
  25. ^ Thomas 1878, p. 483"Caloptenus spretus Tho. (中略) ...I claim to be the author. (中略) Mr. Uhler did not describe it, and does not claim to be the author. The name was first given in my paper published in the Illinois State Agricultural Report." (仮訳: Caloptenus spretus Tho. の命名者は私である。ウーラー氏はこの昆虫を生物学的に記載しておらず、かつ命名者であるとも主張していない。この名称は『イリノイ州農業白書』で私が最初に公表したものである。)
  26. ^ Gurney & Brooks 1959, p. 55--トーマスの1865年論文は記載が不十分であること、タイプ標本が定かでないこと、別種のMelanoplus bilituratusもロッキートビバッタと混同されていたことを理由に、トーマスが命名者とは認められないとしている。
  27. ^ Scudder 1898, p. 3-過去にBrunner von Wattenwylがロッキートビバッタの属するMelanoplusを誤って分類しており、これを正したのがスカダーであると論じている。
  28. ^ Scudder 1878a, p. 287.
  29. ^ Scudder 1878b, p. 46.
  30. ^ Scudder 1898, p. 1–412.
  31. ^ Scudder 1898, p. 4.
  32. ^ a b Scudder 1898, pp. 7–8.
  33. ^ a b Scudder 1898, p. 2.
  34. ^ Scudder 1898, pp. 184–?.
  35. ^ USEC 1880, pp. 137–139.
  36. ^ 蝗害”. コトバンク. 2019年11月20日閲覧。
  37. ^ CPI for All Urban Consumers (CPI-U)”. アメリカ合衆国労働省労働統計局. 2019年11月20日閲覧。 “「U.S. city average, All items - CUUR0000SA0」を選択すると、最古は1913年データが表示される。”
  38. ^ Consumer Price Index (Estimate) 1800-” [1800年以降の消費者物価指数推定値]. Federal Reserve Bank of Minneapolis. 2019年11月20日閲覧。 “Handbook of Labor Statistics (アメリカ合衆国労働省労働統計局出典) からのデータ転載。”
  39. ^ a b c True 1937, pp. 54–56.
  40. ^ Thomas 1878, pp. 485–501.
  41. ^ a b Chapco, W.; Litzenberger, G. (March 2004). “A DNA investigation into the mysterious disappearance of the Rocky Mountain grasshopper, mega-pest of the 1800s”. Molecular Phylogenetics and Evolution 30 (3): 810–814. doi:10.1016/S1055-7903(03)00209-4. PMID 15012958. https://osf.io/4k2yt/download. 
  42. ^ a b Lockwood, Jeffrey A. (2004). Locust: the Devastating Rise and Mysterious Disappearance of the Insect that Shaped the American Frontier (1st ed.). New York: Basic Books. ISBN 978-0-7382-0894-7 
  43. ^ Looking Back at the Days of the Locust” (2002年4月23日). 2015年4月1日閲覧。
  44. ^ Bomar, Charles R. (ウィスコンシン大学所属) (2003-08-28) (PDF). The Rocky Mountain Locust - Extinction and the American Experience. バッファロー大学. http://sciencecases.lib.buffalo.edu/cs/files/locusts.pdf. 
  45. ^ Curley, Edwin A. (2006). “Introduction”. Nebraska 1875: Its Advantages, Resources, and Drawbacks. Introduction by Richard Edwards. U of Nebraska Press. p. xvii. ISBN 978-0-8032-6468-7. https://books.google.com/books?id=UDn2TKWMQK8C&pg=PR17 






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