フランス・ルネサンスの文学 エンブレム文学

フランス・ルネサンスの文学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 17:05 UTC 版)

エンブレム文学

印刷業の発達は、新しい文学表現を生み出した。それがエンブレム文学である。これは、木版画による寓意図、対応する銘句、敷衍する詩の3点が一体となったものである。ミラノ出身のアンドレーア・アルチャートによる『エンブレマタ』を嚆矢として、西欧諸国でエンブレム・ブックが次々と刊行されることになるが、フランスも例外ではなかった。

『エンブレマータ』所収のエンブレムの一つ

『エンブレマタ』は、フランスでも人気を博し、特にリヨンでは30版以上を重ねた。リヨンの出版業者マセ・ボノムは、オリジナルのラテン語版以外にフランス語版、スペイン語版、イタリア語版などを相次いで刊行した。こうした動向に刺激されるかのように、ギヨーム・ド・ラ・ペリエールの『良き創意の劇場』、バルテルミー・アノーの『詩的想像力』など、フランス人によるエンブレム・ブックも次々と出版されるようになった。既に触れたセーヴの『デリー』も、エンブレム・ブックとしての側面を持っている。

長編物語

16世紀前半の傾向

16世紀前半には、なおも中世的な騎士道文学が支配的であった。例えば、『モントーバンのルノー』、『デンマークのオジエ』、『ペルスフォレ』などである。

翻訳された物語の流入

1540年代以降、外国、特にスペインポルトガルの長編物語が翻訳されて、広く読まれるようになった。例えば、『ガリアのアマディス』、『オリーヴのパルムラン』、『ギリシャのプリマレオン』などである。このうち、『ガリアのアマディス』は、フランソワ1世からアンリ4世までの宮廷における振る舞いの事実上の規範になり、馬上槍試合や儀式でも模倣された。イタリアの叙事詩『恋するオルランド』『怒れるオルランド』(更に16世紀末にはトルクァート・タッソの『解放されたエルサレム』)などが、類似のトーンと内容で(しばしば散文によって)フランス語訳されて大成功をおさめた。また、若干時期を遡るが、イタリアの作家ルイージ・プルチの『巨人モルガン』は、騎士道文学を戯画化したものであり、ラブレーの巨人譚の重要なモデルとなった。

フランソワ・ラブレー

フランソワ・ラブレー

ルネサンス期のフランス長編物語を語る上で、ラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル』を逸することはできない。

この作品は、人文主義と中世の笑劇(巨人譚、英雄の戦い、糞尿譚)とが、滑稽にして不条理な形で渾然一体となったものであり、そこでの言葉遣いやユーモアは、後代しばしば野卑なものと見なされた。この作品には、悪ふざけを伴いつつも、宗教的偽善、政治的不正、人間不信などに関する鋭い風刺が込められている。

翻訳物語の傾向と国産物語の台頭

この時期のフランスの文学的指向は、スペイン人作家ディエゴ・デ・サン・ペドロやフアン・デ・フロレスの作品で描かれていたような情愛や悲愴といったものであった。これらのスペイン作家の作品はもてはやされたが、その淵源は、ある軽蔑された女性を鋭く描き出したボッカッチョの『フィアンメータ嬢』に遡る。この感傷的な調子は、エリゼンヌ・ド・クレンヌの『愛から生じる悲痛なる煩悶』の一部にも素晴らしい表現を見いだすことになる。それは、感傷的・騎士道的要素、人文主義的学識、雄弁などがブレンドされたものである。

外国の冒険小説は、16世紀後半に、ベロアルド・ド・ヴェルヴィルやニコラ・ド・モントルーといったフランス人作家との競争にさらされることになる。現代では読まれなくなっているこれらの著者は、伝統的な騎士道文学の様式の多くを棄て、2つの新たなインスピレーションの源から借用した技術や付随事項に置き換えた。その2つとは、ヘリオドルスやロングスらによる古代ギリシャの小説、およびイタリアやスペインから流入した詩と散文が渾然となった牧歌的小説である。

16世紀末期のフランス小説の新しさと発明は、匿名の作品『ラ・マリアーヌ・デュ・フィロメーヌ』で最も良く見ることができる。これは、女性に裏切られた男性が、彼女を忘れようとパリに上京する物語であるが、枠物語、情愛的感傷、夢、牧歌的要素が混ぜ合わされている。

短編物語

ルネサンス期には、コント、ヌーヴェル(ノベル)、ドヴィ等と呼び方は様々であったが、短編物語が大変もてはやされていた。この時期には対話篇や枠物語に人気があったが、それは、文盲の大衆への読み聞かせがしやすいことや、形式上、本題から逸れるものも含めて、洗練された題材であれ通俗的な題材であれ何でも雑多に詰め込める点などが好まれたからである。

枠物語

マルグリット・ド・ナヴァル

ボッカッチョの枠物語『デカメロン』が、ルネサンス期のフランス人作家に及ぼした影響ははかりしれない。フランソワ1世の姉マルグリット・ド・ナヴァルは、先進的な文学サロンを主催し、ルネサンス文学に広範な影響を及ぼしたが、彼女もまた、『デカメロン』に触発された傑作『エプタメロン』を執筆している(ただし、これは彼女の死により途絶した)。

その他の短編作家

マルグリット以外の重要な短編作家としては、ノエル・デュ・ファイユやボナヴァンチュール・デ・ペリエなどを挙げることができる。

翻訳物語の影響

フランスの読者たちはまた、イタリアの作家マッテオ・バンデッロの暗い悲劇譚にも魅了され、むさぼるように読んでいた。これらは、17世紀初頭にかけて、ヴェリテ・アバン、ベニーニュ・ポワスノらによって模倣されることになる。




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