パニック パニックに対する過大評価と正常性バイアス

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パニック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/03 10:08 UTC 版)

パニックに対する過大評価と正常性バイアス

パニックによって引き起こされる脅威の大きさは社会常識として広く知られており、しばしば映画やテレビドラマなどのフィクション作品では、パニックに陥って錯乱する群衆の姿が、凶暴かつ残忍に誇張されて描かれる[24][9]。その一方、こうしたパニックの脅威は過大に警戒されすぎているという主張もある[25][26]

広く浸透した社会常識では、地震や火災などの災害に巻き込まれた群衆は、多くの場合においてたやすくパニックに陥るものであると信じられているが[6][27]、実際はほとんどの場合でパニックは起こらない[6][28][29][30]。このような場合、多くの人間は呆然としてしまって行動を起こせないことが分かっている[30]。更に人間の心理には正常性バイアスと呼ばれる、目の前の異常事態に対して平常心を保とうとする精神の働きがあり[31][19][32][30]、これが過剰に作用すると差し迫った危険の大きさを理解できずに過小評価してしまう[31][32][30]。こうした結果、ただちに避難を開始しなければ生命に関わるような差し迫った危機を前にした群衆が、様子を見ているばかりで避難しようとしなかったり[33]、記念撮影に興じたりするなど[30]、過剰に落ち着きすぎていて客観的な判断を欠いた行動を取ってしまうようなことがある。

恒常的な避難訓練を受けていない人間が、差し迫った危機に対して適切な行動を取ることができず、理性を欠いた集団行動を取ってしまうという経緯だけを見れば、パニックに陥った集団も、正常性バイアスに支配された集団も同じである。しかし正常性バイアスの脅威と比べて、パニックに対する過剰な恐怖心は人々の間に広く介在している[34]。時には災害そのものよりも集団のパニックを抑止することを優先した対処が裏目に出て、危機感が共有されず、群衆が火災などの災害から逃げ遅れて被害が拡大した事例も知られている[35][19][36]。例えば1977年5月28日にアメリカ合衆国で164人が死亡したビバリーヒルズ・サパークラブ火災英語版はそうした例で、従業員から「単なるボヤである」という呼びかけがなされた結果、人々はリラックスしたままゆっくりと避難を開始し、席についたまま談笑したり飲み物を飲んだりしていた人々も多かったが、そうした人々はそのまま煙に巻かれて犠牲となった[37]。また1903年12月30日にシカゴで602人が死亡したイロコイ劇場火災では、施設側から「火災ではない」という情報隠しがされたが、避難が遅れていた人々が火災に気がついてから一気にパニックが起こり、多くの人々が錯乱した群衆に踏み倒されて圧死した[36]。日本でも、川治プリンスホテル火災で、火災報知器の鳴動に対し従業員が確認を怠り「火災報知器のテスト」と放送したため、避難の機会を失って45名が死亡している。

「災害そのものよりもパニックの方が恐ろしい」とする主張もある一方で[4]、「それより更に恐ろしいのは、パニックへの過剰な警戒心が引き起こす情報隠しである」という反論もある[36]。2011年に日本で起きた福島第一原子力発電所事故では、国民がパニックを起こすことへの過剰な警戒心から、放射性物質の拡散状況を被災地の人々に提供すべきではないという判断がされ、政府による情報の公開が遅れた[38][28]。このような「災害の情報を正しく知らせれば必ず大きなパニックが起きてしまう」といった先入観は、パニック神話などと呼ばれて批判の対象ともなっている[39][28]。なお結果的にはこの原発事故による放射能汚染での直接死者は事故以前の懸念、すなわち万単位で発生するという主張に比べれば皆無に等しく[40]、公的に確認されているのはいずれも放射能に日常的に濃密にさらされる廃炉作業員である(ただし疲労等や生活苦による一般人の関連死は存在する)。


注釈

  1. ^ ただし翌朝の新聞各社の報道ではこの出来事について、「避難騒ぎ」「パニック」といった、事実に反した内容が報道された[19]

出典

  1. ^ a b c d サトウタツヤ「うわさとパニック」立命館人間科学研究 第7号 2004.3
  2. ^ 広瀬 2004, pp. 136–140.
  3. ^ 広瀬 2004, p. 139.
  4. ^ a b c 広瀬 2004, p. 128.
  5. ^ 広瀬 2004, pp. 14–16.
  6. ^ a b c 広瀬 2004, pp. 15–16.
  7. ^ a b 山村 2015, p. 127.
  8. ^ 芳賀繁『失敗のメカニズム—忘れ物から巨大事故まで』角川書店、2003年。ISBN 404371601X 
  9. ^ a b 山村 2015, p. 126.
  10. ^ 広瀬 2004, p. 140-145.
  11. ^ 広瀬 2004, p. 141.
  12. ^ a b c d e 広瀬 2004, p. 142.
  13. ^ a b 広瀬 2004, pp. 143–145.
  14. ^ 広瀬 2004, p. 145.
  15. ^ a b 広瀬 2004, p. 140.
  16. ^ a b 広瀬 2004, p. 147-149.
  17. ^ 広瀬 2004, p. 84.
  18. ^ 広瀬 2004, p. 16-18.
  19. ^ a b c d e 松田 2014, p. 32.
  20. ^ 山村 2015, pp. 120–121.
  21. ^ a b 山村 2015, p. 125.
  22. ^ 山村 2015, pp. 120–126.
  23. ^ 山村 2015, p. 122.
  24. ^ 広瀬 2004, pp. 128–129.
  25. ^ 広瀬 2004, pp. 14–18, 128, 147–149.
  26. ^ 山村 2015, pp. 124–130.
  27. ^ 山村 2015, pp. 118, 127.
  28. ^ a b c d e 松田 2014, p. 31.
  29. ^ 山村 2015, pp. 118, 126–127.
  30. ^ a b c d e Mika Yamamoto (2015年4月18日). “正常性バイアスを知っていますか?「自分は大丈夫」と思い込む、脳の危険なメカニズム”. tenki.jp. 日本気象協会. 2016年4月24日閲覧。
  31. ^ a b 広瀬 2004, pp. 11–14.
  32. ^ a b 山村 2015, pp. 18–19.
  33. ^ 広瀬 2004, pp. 12–14.
  34. ^ 広瀬 2004, pp. 147–148.
  35. ^ 広瀬 2004, pp. 13, 16–17, 129–130.
  36. ^ a b c 山村 2015, pp. 128–129.
  37. ^ 広瀬 2004, pp. 16–17, 129–130.
  38. ^ 山村 2015, p. 130.
  39. ^ 広瀬 2004.
  40. ^ 被曝後に肺がん、死亡の作業員に労災認定 福島第一原発:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2022年7月8日閲覧。
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  42. ^ Hayes, Joy Elizabeth, and Kathleen Battles. “Exchange and Interconnection in US Network Radio: A Reinterpretation of the 1938 War of the Worlds Broadcast.” Radio Journal: International Studies in Broadcast & Audio Media 9, no. 1 (2011): 51–62.
  43. ^ 佐藤卓己『メディア論の名著30』ちくま新書、2020
  44. ^ 松田 2014, p. 30.
  45. ^ 松田 2014, p. 8.
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  47. ^ a b "集団パニック". 知恵蔵mini. コトバンク. 24 June 2013. 2016年12月9日閲覧
  48. ^ a b c "集団パニック". 知恵蔵mini. コトバンク. 2014-7-2. 2016-12-09閲覧 {{cite encyclopedia}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  49. ^ "集団ヒステリー". 世界大百科事典 (第2版 ed.). コトバンク. 2015. 2016年12月9日閲覧
  50. ^ a b c J-CATニュース「女子生徒18人搬送は集団パニック? 「霊感が強かった」との報道も」2013年6月20日付
  51. ^ 生徒26人、集団パニックか 柳川高が臨時休校 - 西日本新聞、2014年7月1日
  52. ^ 福岡・柳川高校で女子が集団パニックか - 日刊スポーツ、2014年6月30日



パニック!

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/06/21 21:15 UTC 版)

パニック!」は、Still Small Voiceの1作目のシングル1996年6月1日ソニーレコードから発売された。




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