シャドー・バンキング・システム レポ市場

シャドー・バンキング・システム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/01 21:15 UTC 版)

レポ市場

レポ取引」(Repurchase agreement)とは、売り/買い戻しの条件付で行う債券売買である。レポ取引で債券を売る場合は、その債券を担保として資金を調達しているのと同じである。逆に、買い手は現金を担保としてその債券を借りているのである(リバース・レポ)。

「レポ市場」は銀行間取引市場と並ぶ短期金融の要である。取引される債券は国債であることが多い。レポ取引は、証券会社が在庫の国債を一時的に他の金融商品へ交換したり、オイルショック以降には国債を空売りしたりする目的でも利用されている。債券を借りている側がその債券を保有していないと、戻しの履行に困ってしまう(フェイル)。[17]

アメリカのレポ市場にはすでに100年にわたる歴史がある。1920年代以降、連邦準備制度はレポ市場を公開市場操作の対象としてきた。連邦準備銀行とレポ市場との関係は、大恐慌と第二次世界大戦によっていったん途切れたが、1951年の「アコード(Accord)」以降から再び復活した。欧州では1973年にドイツ連邦銀行が為替手形を利用したレポ取引を初めて行った。1980年代に入ると、欧州で活動する米国投資銀行によってレポ取引が欧州市場に持ち込まれた。[18][注釈 1]

レポ市場に関する情報や研究は21世紀でなお断片的である。2008年に国際決済銀行が、世界金融危機手前数年間について一定の調査結果を残している。アメリカのプライマリー・ディーラーと銀行持株会社から情報収集した結果、レポ取引の中心は大手投資銀行と大手銀行であることが分かった。アメリカでは前者が総取引の約2/3、後者が1/3を占めている。そして2000年代に入ってから欧州レポ市場の拡張ペースはアメリカのそれを上回っている。

2000年代に(世界の)レポ市場は急激に膨張したが、第一の理由はディーラーとなる銀行がレポ取引を利用することでレバレッジを操作できたからである。同一の担保が平均3回もディーラーの簿外取引として再利用され、シャドー・バンキング・システムの規模を過小評価させてきた。[18]

レポ取引は仲介機関を通さないのが伝統であった。1970年代にソロモン・ブラザーズが、エージェント銀行あるいは清算銀行(クリアリング・バンク)が仲介するトライパーティーという仕組みをレポ市場にもちこんだ。1984-85年にかけて(ジャンク債市場に)発生したブローカー・ディーラーの破綻を契機に、トライパーティー・レポが広まるようになった。マネー・マーケット・ファンドがヘビー・ユーザーとなった。アメリカのトライパーティー・レポは、財務省証券、政府系住宅公社関連証券など、連邦準備銀行の担保適格証券が全体の82.7%を占めている。ユーロ圏のレポ市場では、担保証券の2/3がユーロ参加国が発行する国債である。[18]

近年アメリカのトライパーティー市場では、JPモルガン・チェースバンク・オブ・ニューヨーク・メロンが清算銀行を担当している。トライパーティー市場については、2010年ニューヨーク連邦準備銀行が調査結果を報告している。この市場は、国内のプライマリー・ディーラーが大口の短期資金を調達するためにもっとも活発に利用する市場で、市場規模はピーク時で2.8兆ドルに達している。リーマン・ショックの後、この市場での資金調達を続けていたのはプライマリー・ディーラーを含めて40社余りであった。その中で上位5社が全取引の57%を占め、上位10社では88%を占めていた。[18][注釈 2]


注釈

  1. ^ 1973年西ドイツの経済状況は、オイルショックで競争力を低下したところを外国の機関投資家につけこまれ、ドルの大量売りでマルクを、ひいては国内企業を買収されるような状態であった。フランスには1970年代から外銀がいくつも進出して、1982-83年ごろ国債を証券化していった(フランス版金融ビッグバン)。現在のユーロシステムでもレポ取引が大規模に利用されている[18]
  2. ^ トライパーティー・レポの担保は、クレジット市場のブーム期に住宅ローン証券等をベースとした複雑な仕組債など、リスクの高い担保が受け入れられた。そして清算銀行まで日中に多額の与信を行っていた。2008年9月、ニューヨーク連邦準備銀行の後援で民間団体がタスクフォースを設立した。[19]改革の内容は2012年に連銀が公表した[20]

出典

  1. ^ 須藤直、平良耕作、中村康 「シャドーバンキングの現状」 日銀レビュー 2015年7月
  2. ^ a b 川波洋一、上川孝夫 編 『現代金融論(新版)』 有斐閣 2016年 247-251頁
  3. ^ Acharya, Viral V and Richardson, Matthew, Restoring Financial Stability: How to Repair a Failed System, John Wiley & Sons, 2009, pp.7-12 (リチャードソン マシュー、アチャリア ヴィラル・V. 『金融規制のグランドデザイン 次の「危機」の前に学ぶべきこと』 中央経済社 2011年)
  4. ^ Garett Jones, Banking Crises: Perspectives from the New Palgrave Dictionary of Economics, Springer, 2016, p.299.
  5. ^ Asst Prof Mine Aysen Doyran, Financial Crisis Management and the Pursuit of Power: American Pre-eminence and the Credit Crunch, Ashgate Publishing, Ltd., 2013, Chapter 6 US Financial Crisis of 2007-2010: The Collapse of the Shadow Banking System
  6. ^ Devin A. Jenkins, Marlin I. Collins, Shadow Banking and Its Role in the Financial Crisis, Nova Science, 2012
  7. ^ Daniel Sanches, "Shadow Banking and the Crisis of 2007-08", Business Review (Q2 2014), Philadelphia Federal Reserve Bank
  8. ^ Maryse Farhi and Marcos Antonio Macedo Cintra, "The Financial Crisis and the Global Shadow Banking System"
  9. ^ Photis Lysandrou and AnastasiaNesvetailova, "The Shadow Banking System and the Financial Crisis: A securities production function view", FESSUD Working Paper Series No.5.
  10. ^ 小野亮 「偽りの通貨」の膨張と消失 みずほ総合研究所 2012年11月27日 リンクしたページ下部の表
  11. ^ FCIC, SHADOW BANKING AND THE FINANCIAL CRISIS, Preliminary Staff Report, MAY 4, 2010
  12. ^ The New York Times, Financial Crisis Was Avoidable, Inquiry Finds, By SEWELL CHANJAN. 25, 2011
  13. ^ 預金保険機関が介入して公的資金投入等を行い「金融システムの安定を図るための金融機関等の資産及び負債の秩序ある処理」(resolution)を行うための法整備。平成二十五年六月十九日法律第四十五号 金融商品取引法等の一部を改正する法律
  14. ^ Professor Jane Kelsey, Faculty of Law, University of Auckland, New Zealand, "Memorandum on Leaked TISA Financial Services Text", Wikileaks, 2014-06-19, "This combination of liberalisation of financial markets and light-handed, risk-tolerant financial regulation enabled the excesses of the powerful US and European finance industry and the growth of the shadow banking system. Various WTO Members called for a review of the rules after the financial crisis."
  15. ^ 共同通信(外電) 日本国債販売の担保担当に ニューヨーク・メロン銀行 2007年10月25日 ("The Bank of New York Mellon Selected for First Domestic JGB Tri-Party Collateral Agreement in Japan", PR28027, NEW YORK, Oct. 24 /PRN=KYODO JBN/ --)
  16. ^ a b c d Robert Guttmann, Finance-Led Capitalism, Shadow Banking, Re-Regulation, and the Future of Global Markets, Palgrave Macmillan, 2016, pp.130-136.
  17. ^ 森純一 「レポ市場とアジアの債券市場改革」 国際経済金融論考 2001年12月15日
  18. ^ a b c d e 高田太久吉 (2014-11). “シャドーバンキングとレポ市場”. 商学論纂(中央大学) 第56巻 第3・4号. http://ir.c.chuo-u.ac.jp/repository/search/binary/p/7085/s/4917/. 
  19. ^ “金融危機の反省 トライパーティ・レポのインフラ改革” (PDF). Financial Information Technology focus 2016.6 (Nomura Research Institute). https://www.nri.com/jp/opinion/kinyu_itf/2010/pdf/itf_201006_6.pdf. 
  20. ^ “米NY連銀、トライパーティーレポ市場の改革内容を公表”. ロイター. (2012年7月19日). https://jp.reuters.com/article/tk8197497-financial-regulation-repos-idJPTYE86I00D20120719 
  21. ^ 中国地方政府債務問題とシャドーバンキング問題”. 大和総研 (2014年). 2023年8月31日閲覧。
  22. ^ 中国、成長の陰にゴーストタウン”. 日本経済新聞 (2013年10月12日). 2023年8月31日閲覧。
  23. ^ コラム 海外経済の潮流 141”. 財務省 (2022年). 2023年8月31日閲覧。
  24. ^ 中国不動産、社債デフォルト相次ぐ 恒大問題連鎖”. 日本経済新聞 (2021年10月16日). 2023年8月31日閲覧。
  25. ^ 深まる中国シャドーバンキング(影の銀行)の問題”. NEI (2023年8月18日). 2023年8月31日閲覧。





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