ケカビ目 人間との関わり

ケカビ目

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 06:45 UTC 版)

人間との関わり

多くのものが腐性生活で、土壌・排泄物・有機物に生育する。そのようなものでは、人間との接点は感じられないものが多い。コウガイケカビなどには、普通は植物遺体につくが、弱った部分を攻撃する条件的寄生菌として振る舞うものがあり、作物に病気を引き起こしたり、保存中の生鮮果物を腐敗させたりするものが知られている。

ユミケカビ・クスダマカビなどには人体に菌感染症を引き起こす例が知られているが、高い病原性を持つものとは見なされておらず、日和見感染と考えられる。クモノスカビなどには、発酵食品などに関わって使われるものがある。

ヒゲカビミズタマカビの胞子嚢柄は、大型で強い屈光性を示すことから、モデル生物としても使われる。

分類

多くの属が一種か、せいぜい数種を含むにすぎない。この中でケカビ属がもっとも多くの種が記載されているが、実際の種は60種以下といわれ、それ以外ではユミケカビとクモノスカビ、それにウンベロプシスなどがやっと二桁の種数を有する程度である。

元来は接合菌類の中で、菌糸体がよく発達するものはすべてをこの目に含めた。つまりトリモチカビ目とハエカビ目以外はすべてケカビ目であった。その中から、次第にいくつかの群が独立させられていった。エダカビ科とシグモイディオミケス科はトリモチカビ目へ移され、キクセラ科はキクセラ目に独立し、他にもアツギケカビ科、ディマルガリス科、グロムス類(一旦はアツギケカビ科に所属)、クサレケカビ科が独立目となったため、以前に比べてこの目の含む範囲は狭くなっている。

科の分類は問題が多い。従来は無性生殖器官の構造について胞子嚢を祖先的なものとして、それから小胞子嚢や分節胞子嚢が派生し、また有性生殖ではケカビ型のH字型のものが原始的でこれから釘抜き型や接合胞子嚢を囲う付属枝を持つものが出たと言った見方を基本に、科を区分した。これはほぼ1990年ころまで行われ、ひとまずは安定した体系をなしていた。

ところが、分子系統による系統樹は、現在の所、これらの科の、時には属の区分をまたいだり入り交じったりといったものとなっている[5]。これはほとんどの科が多系統である、という意味にとれ、上記のような形態的な特徴が系統を反映していないことを示している。現在大きな見直しが進んでいるようで、安定するにはまだ時間がかかるかもしれない。まとめる側ではほとんど全部ケカビ科に統合してしまう説から、15以上の科を認める説まである。

古典的な体系

まずAlexopoulos et al.(1996)のものを示す。これは分子系統以前の体系であり、その中でもかなり細分方向寄りの体系になっている。

  • ケカビ科 Mucoraceae:アポフィシスのない大型胞子嚢のみ
MucorケカビActinomucor シャジクケカビAquamortierellaDicranophora(ディクラノフォラ)・RhizomucorParasitella(パラシテラ)・Spinellus タケハリカビSporodiniella(スポロディニエラ)・Syzygites フタマタケカビZygorhynchus ツガイケカビ
  • ユミケカビ科 Absidiaceae:アポフィシスのある大型胞子嚢のみ(ケカビ科に含める説もある)
Absidia ユミケカビCircinella カラクサケカビGongronella(ゴングロネラ)・Halteromyces(ハルテロミケス)・MycocladusRhizopus クモノスカビThermomucor
  • ディクラノフォラ科 Dicranophoraceae:
Dicranophora(ディクラノフォラ)
  • ジルベルテラ科 Gilbertellaceae:胞子嚢のみ・胞子に付属物・ケカビと同じ接合の型
Girbertella(ジルベルテラ)
  • ヒゲカビ科 Phycomycetaceae:大型胞子嚢のみ・配偶子嚢に棘状突起
Phycomyces ヒゲカビ
  • ミズタマカビ科 Pilobolaceae:胞子嚢全体がはずれる構造・糞生に特化
Pilobolus ミズタマカビPilaira(ピライラ)・Utharomyces(ウサロミケス)
Saksenaea (サクセネア)
  • エダケカビ科 Thamnidiaceae:大型胞子嚢と小胞子嚢・小胞子嚢は枝に生じる
Thamnidium エダケカビBackusellaバクセラ)・ChaetocladiumCokeromyces(コケロミケス)・Dichotomocladiumディコトモクラディウム)・Elllisomyces(エリソミケス)・FennellomycesHelicostylum ハリエダケカビ・マキエダケカビ・PirellaThamnostylumサムノスチルム)・Zychaea
  • ガマノホカビ科 Mycotyphaceae:頂嚢表面に小胞子嚢・小胞子嚢に二形
Mycotypha ガマノホカビ・Benjaminiella
  • ラジオミセス科 Radiomycetaceae:小胞子嚢を二次頂嚢表面に・配偶子嚢から樹枝状突起
Radiomyces(ラジオミセス)
  • クスダマカビ科 Cunninghamellaceae:単胞子小胞子嚢を頂嚢表面に・接合はケカビ型
Cunninghamella クスダマカビHesseltinella
Syncepharastrum ハリサシカビモドキ
  • コウガイケカビ科 Choanephoraceae:大きい胞子嚢、小胞子嚢、単胞子小胞子嚢のどれか、あるいは全部。胞子に付属物・接合は釘抜き型
Choanephora コウガイケカビBlakesleaPoitrasia
  • クサレケカビ科 Mortierellaceae:柱軸のない胞子嚢・色の薄いコロニー・土壌性
Mortierella クサレケカビDissophraLobosporangium (ロボスポランギウム)

新しい体系

分子系統に基づくHohmann,et al.(2013)の体系を示す。暫定的な部分、未定の部分を含む。配置に関してはHohmann,et al.(2013)のp.68-69の系統図の順に並べた。科ごとの特徴というものは、単形の科以外はほぼ不可能となっている。

  • Umbelopsidaceae ウンベロプシス科
Umbelopsis(ウンベロプシス)
  • Lenthamycetaceae
Lenthamyces
  • Syncephalastraceae ハリサシカビモドキ科
Syncephalastrum ハリサシカビモドキProtomycocladus(?)
  • Lichtheimiaceae
Lichtheimiaディコトモクラディウム Dichotomocladium
    • 不確定ながら上記2科に近い位置のもの
ThermomucorRhizomucorフェンネロミケス FennellomycesThamnostylumサムノスチルム)、ZychaeaPhascolomycesCircinella カラクサケカビ
  • Phycomycetaceae ヒゲカビ科
ヒゲカビ Phycomycesタケハリカビ Spinellus
Cunninghamella クスダマカビGongronellaゴングロネラ)、Hesseltinella(ヘッセルチネラ)、Halteromycesハルテロミケス)、Absidia ユミケカビChlamydoabsidia
  • Backusellaceae
Backusellaバクセラ
Rhizopus クモノスカビSporodiniellaスポロディニエラ)、Syzygites フタマタケカビ
Choanephora コウガイケカビPoitrasiaGilbertellaジルベルテラ
  • Mycotyphaceae ガマノホカビ科
Mycotypha ガマノホカビ
Mucor ケカビBenjaminiella(ベンジャミニエラ)、Cokeromycesコケロミケス)、KirkomycesHyphomucorActinomucor シャジクケカビDicranophraディクラノフォラ)、Zygorhynchus ツガイケカビPirellaThamnidium エダケカビHelicostylum マキエダケカビPilairaピライラ)、Ellisomyces (エリソミケス)、Parasitellaパラシテラ)、Chaetocladium イトエダカビ

  1. ^ Alexopoulos et al.(1996),p.133-134
  2. ^ Alexopoulos et al.(1996),p.134
  3. ^ この項はAlexopoulos et al.(1996),p.134-135
  4. ^ この項はAlexopoulos et al.(1996),p.135-141
  5. ^ White et al.(2006)


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