21世紀前半の脱分化仮説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/07 21:41 UTC 版)
生体内の細胞を取り出して培養環境に持ちこんだ培養そのもののことを初代培養(Primary Culture)というが、この初代培養の細胞は細胞株の細胞に比べて生体内の機能をより保存しているために研究や産業の目的で利用されている。21世紀にはいって分析装置や技術が発達してくると、この初代培養について最先端の装置で分析しようとする研究があらわれてきた。ある研究ではヒトのリンパ管内皮細胞を培地に移すことによって、代謝に関わる遺伝子と細胞骨格の遺伝子の発現量が増加し、細胞外マトリックスや細胞内シグナルに関わる遺伝子の発現量が低下することが示された。また他の研究では、イヌのがん細胞由来の培養細胞遺伝子発現プロファイルと生体内のがん細胞の遺伝子発現プロファイルに大きな差がないとしている。 ここで議論を整理するために、細胞の増殖の観点をとると、Champyの脱分化仮説は観察から得た洞察であり、培養環境に持ち込まれた増殖前の細胞も観察の対象であったと考えられる。一方で、Satoの選択仮説では選択された細胞が増殖することによって培養細胞が出来上がってくるため、増殖後の細胞を主に分析している。21世紀に行われた前述の2研究も哺乳類の細胞を対象とした実験であり、どちらの実験でも実験開始直後に細胞が増殖する。これは哺乳類細胞の特徴であり、昆虫の細胞であれば実験開始直後しばらく(2、3ヶ月)増殖しない。したがって、昆虫の細胞を用いて組織培養前後の細胞を比較すれば脱分化の分析を増殖の影響を取り除いて行うことができると考えられ、ある研究では昆虫の細胞を培養し細胞の遺伝子発現プロファイルを培養の前後で比較することにより、培養によって細胞の遺伝子発現プロファイルが均一化することをトランスクリプトームの情報エントロピーの増大として示された。 植物で観察される再プログラミングの過程について、前述のトランスクリプトームの情報エントロピーの観点から分析した研究では、植物の再プログラミングは脱分化と再分化の組み合わせから成り立っていることが示された。
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