草図小柄
江戸後期山城国京都―武蔵国江戸 | 筑波の山並みを遠望し、幅に変化のある力強い毛彫りと片切彫りを駆使して墨線による素描風に表現した、後藤一乗の妙趣ある作品。筑波の風景は、実は裏板に刻された図。表は一乗らしい微細に揃った石目地仕仕上げの赤銅地に高彫で、風に乗って流れるように宙を舞うつくばね草を描き表わしている。風は銀の平象嵌、つくばね草は金と素銅の色絵。筑波とつくばね草では語呂合わせのようだが、この地域では、つくばね草が土地の草として古くから親しまれており、単なる言葉の遊びではないことは明白。瀟洒な表現であり、また、清清しさが感じられる作品となっている。後藤一乗は後藤七郎右衛門重乗の次男で寛政三年の生まれ。天性の技量が認められたのであろう、九歳にして八郎兵衛謙乗の養子となり、十五歳で八郎兵衛家を相続六代当主となる。以降斬新な表現を展開するのみならず古典の再現を突き詰め、近代の金工芸術の礎を成した名工である。 |
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