胞子体型自家不和合性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/11 21:08 UTC 版)
「自家不和合性 (植物)」の記事における「胞子体型自家不和合性」の解説
胞子体型自家不和合性(sporophytic self-incompatibility, SSI)では、花粉の表現型は、それがつくられた葯(胞子体)の二倍性遺伝子型で決定される。このタイプの自家不和合性は、アブラナ科・キク科・ヒルガオ科・カバノキ科・ナデシコ科・アオギリ科・ハナシノブ科で確認されている。胞子体型自家不和合性のメカニズムのうち1種類のみについて、アブラナ科アブラナ属で分子レベルの詳細が判明してきた。 胞子体型自家不和合性が二倍性遺伝子型で決定されるので、雄蕊と雌蕊では各々2つの異なる対立遺伝子(つまり2種類ずつの雄性および雌性決定要素)の翻訳産物が発現する。対になる対立遺伝子の間には優性-劣性関係がしばしば存在し、和合性/自家不和合性の複雑なパターンができる。これら優性-劣性関係は、S遺伝子座の劣性遺伝子ホモ接合型個体が生まれる元になっている。 S対立遺伝子のすべてが共優性である集団と比較すると、S対立遺伝子に優性-劣性関係がある集団は、個体間の和合性交配の機会を増やす。S遺伝子座にある劣性および優性対立遺伝子の比率は、劣性遺伝子による生殖での保険(リスクヘッジ)と優性遺伝子による自殖回避の動的平衡を反映している。 アブラナ属の自家不和合性メカニズム 前述のように花粉の自家不和合性表現型は葯の二倍性遺伝子型で決定されるため、アブラナ属植物の花粉外被(葯のタペート組織に由来する)には2種類の雄性決定要素の翻訳産物がある。これらは低分子量でシステイン残基を多く含むタンパク質であり、システイン残基は対立遺伝子間で保存されているが、同時にシステイン残基以外のアミノ酸残基は対立遺伝子によって大きく異なっている。この雄性決定要素はSCR(S locus cystein-rich protein)またはSP11と呼ばれており、胞子体である葯タペート組織で発現する。 アブラナ属の雌性決定要素は、細胞内キナーゼドメインと可変細胞外ドメインを持つSRK(S receptor kinase)と呼ばれる細胞膜貫通型タンパク質である。SRKは柱頭で発現し、花粉外被のSCR/SP11タンパク質に対するレセプターとして機能すると考えられている。もう一つの柱頭タンパク質SLG(S locus glycoprotein)は、SRKタンパク質と非常に類似した塩基配列を持っており、共同レセプターとして機能して自家不和合性反応を拡大するようである。 アブラナ属のSハプロタイプには100種類に及ぶ多型があると考えられており、それらの優性-劣性関係には序列がある。葯側SCR(SP11)の優性-劣性関係は、柱頭側SRKの発現の優性-劣性関係とは一致しない。またSCRの優劣関係はヘテロ接合型になるS対立遺伝子の組み合せによって、劣性となる方のSCRプロモーター領域のメチル化によってエピジェネティックな制御を受けている。 SRKとSCR/SP11の相互作用は、SRK細胞内キナーゼドメインの自己リン酸化を行い、あるシグナルを柱頭の乳頭細胞に伝導する。自家不和合性反応に必要なもう一つのタンパク質は、細胞内部側から細胞膜へシグナルを伝えるMLPK(M-locus protein kinase, ある種のセリン/トレオニンキナーゼ)である。受精を抑制する最終的な細胞内・分子的事象の下流の詳細は、充分には判明していない。
※この「胞子体型自家不和合性」の解説は、「自家不和合性 (植物)」の解説の一部です。
「胞子体型自家不和合性」を含む「自家不和合性 (植物)」の記事については、「自家不和合性 (植物)」の概要を参照ください。
- 胞子体型自家不和合性のページへのリンク