章太炎の仮説と証拠
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/10 09:42 UTC 版)
清末民初の学者章炳麟(号・太炎)は『国故論衡・古音娘日二紐帰泥説』に、「古音有舌頭泥紐。其後支別,則舌上有娘紐,半舌半齒有日紐,於古皆泥紐也」(古音に舌頭音の「泥」母有り。其の後支離し,舌上の「娘」母、半舌半歯の「日」母が生ずれども,古代には皆「泥」母なり)という説を唱えている。すなわち、切韻時代(隋)から既存の「娘」「日」母いずれも上古の「泥」母から分化したものである。 例として挙げられるのは、次の通り: 周『詩・小雅・常棣』:「宜爾室家,樂爾妻帑」、晋『晋書・天文志』:「帑,雌也。」すなわち「女」の古音は「帑」。しかし、中古音の「帑」は泥母で、「女」は日母。 周『詩・魏風・碩鼠』:「碩鼠碩鼠,無食我黍。三歲貫女,莫我肯顧。」に対して、陸爾奎『辞源』(1915年)は「女,通汝。」と注釈。「女」は娘母、「汝」は日母。 前漢『淮南子・天文訓』:「南呂者,任包大也。」「南」は泥母、「任」は日母。 後漢・班固『白虎通義』、後漢・劉熙『釈名』:「男,任也。」「男」は泥母、「任」は日母。 後漢・劉熙『釈名』:「入,内也,内使還也。」「入」は日母、「内」は泥母。 後漢・劉熙『釈名』:「爾,昵也;泥,邇也。」「爾邇」は日母、「昵」は娘母、「泥」は泥母。 漢字の造字法の形声によれば、「入」、「内」、「納」、「訥」、「吶」、「妠」、「枘」、「汭」の8字は同じ発音を表す記号(音符)を持つ(少なくとも同一の起源を持つ)が、広韻によれば唐宋時代の中古音では「内納訥妠」は泥母(同字異音含む、以下同じ)、「吶妠」は娘母、「入妠枘汭」は日母であった。この現象は「娘日帰泥」で解釈できる。
※この「章太炎の仮説と証拠」の解説は、「娘日帰泥」の解説の一部です。
「章太炎の仮説と証拠」を含む「娘日帰泥」の記事については、「娘日帰泥」の概要を参照ください。
- 章太炎の仮説と証拠のページへのリンク