社会的な特権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 19:39 UTC 版)
「インターセクショナリティ」の記事における「社会的な特権」の解説
社会的な特権(英語版)とは、性別、人種、階級、知能、年齢などの社会的な属性によって個人が得る特別な利益や有利さを指す。米国の社会学者、W・E・B・デュボイスが1903年の著書にて、白人アメリカ人が黒人や人種問題を意識する必要なく生活していることを指摘したことを発端に、個人の持つ社会的な特権と社会的や文化的な権力との関係が研究されてきた。 白人フェミニストで、長年人種差別の問題に取り組んできたペギー・マッキントッシュは1988年の論文で、白人特権を「不当に得た見えない資産」と定義し、「医療や法的な支援が必要な時に、私の人種が不利に働くことはない」ことなど、自身が経験する46の特権の例を提示した。マッキントッシュをはじめとする研究者は、特権により有利な環境にいる人はそれがあること自体にに気づかない、もしくは否定する傾向があることを指摘する。 米国の社会学者、マイケル・S・キンメルは社会的な特権を風に例えて説明している。人は向かい風に対して歩いているときは、一歩一歩にかかる労力に意識が向くが、追い風を受けて歩く際は、無風の時に比べて楽に歩けるにも関わらず、風が吹いていることさえ気づかない場合がある。この追い風こそが社会的な特権である。追い風の中では少しの労力で自身を推進することができ、それは自身の努力で正当に得られたものだと認識する。また自分が受ける追い風は他の人にも同じように影響すると考え、向かい風の中を歩く他者が経験する苦労には気がつかないと表現した。 このように多くの人は、自分の属性が社会の中で優遇されている事実を直視せず、享受している利益は自分で得たものだと正当化しようとする。また、世の中には不当に優遇されている人がいることは認めつつ、そのような構造が社会全体に広く制度化されていることを否定する場合もあると指摘した。さらに、そのような制度化された構造的な社会的特権の存在を認めたとしても、やはり自分がそれにより利益を得たことは認めず、またその構造の解体に消極的な場合もある。シスジェンダーに代表されるように、特権として存在する属性は「普通」や「規範的」だとされることが多く、言語学的な標識がない(無標)場合も多く、それにより特権の存在自体が認識されにくい:63-64。
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