医療安全に対する過度の社会的要求
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 05:46 UTC 版)
「医療崩壊」の記事における「医療安全に対する過度の社会的要求」の解説
さらに、2002年前後から、医療事故が警察の捜査の対象とされ、善意の看護師や医師が犯罪の被疑者として扱われるケースが多くなり、さらに、マスメディアの報道もあいまって医療不信が増大し、医療安全に対する社会的要求が過度な高まりを見せた。こうした社会的状況のなかで、現場の医師(勤務医)の間で「立ち去り型サボタージュ」と呼ばれる動き(防衛医療)が見られるようになったと小松は述べた。 「立ち去り型サボタージュ」なる言葉を生み出したのは、虎ノ門病院泌尿器科部長であった小松秀樹である。小松は、2004年に『慈恵医大青戸病院事件 医療の構造と実践的倫理』(2004年)を著し、医療の不確実性を等閑視したメディア、警察、検察の一方的な姿勢が、患者と医師の対立を増幅させ、やがては日本の医療を崩壊させることになると小松は述べた。 普通の医師まで警察とマスコミを恐れるようになっている。あいまいな理由により犯罪者にされかねないと思いはじめている。これが医師の診療行動に影を落とし始めている。医師と患者の信頼関係も崩れてきた。医師は危険を伴う治療方法をとりたがらなくなりつつある。このままでは、将来、外科医を志す人材がいなくなる事態も到来しかねない。医療における罪の明確な定義なしに、医師に刑事罰を科すと医療を壊すことになりかねないと小松は述べた。 同書は世間の注目を浴びることはなかったが、「社会の枢要の立場」にある人びとの目にとまり、2005年に最高検察庁で講演することになった。そして、その際に提出した意見書をもとに、小松は『医療崩壊――立ち去り型サボタージュ」とは何か』(2006年)を著し、日本の医療体制が直面する状況、なかんずく刑法にもとづく警察と世論を背景としたマスコミがいかに医師を追い詰めるかに警鐘をならし、同書によって、「医療崩壊」なる語が一時期流行ることになった。 小松は、医師がリスクの大きい病院の勤務医を辞めてより負担の少ない病院へ移ることや開業医になることを「立ち去り型サボタージュ」と呼ぶ。小松が指摘したように、元々医療訴訟率が高くその賠償額も高額であった産婦人科は担当医の減少が著しく、将来の担い手である医学生たちも産科医になることを忌避する者が多く崩壊が進行している状況にある。さらには、小児科、内科、外科などの高度医療も同様の状況に至っている。 ただし、日本の医療レベルは、世界保健機構(WHO)による各種指数にみられるように、長年、世界一位の座を占めてきた。たとえば、同機関によるWorld Health Report(2000年)では、日本は、健康寿命が第1位、平等性が第3位で「健康達成度」の総合評価は世界一となっている。さらに、2009年のOECDのHealth Dataでも、依然として総合で一位を維持している。
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