主人と奴隷の弁証法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 09:36 UTC 版)
フクヤマはヘーゲルの『精神現象学』から、主人と奴隷の弁証法を読み解く。主人は奴隷を支配することによって自分の気概を満たす。また、奴隷は主人の適切な指示によって、効率的な労働を行う。しかし、人間扱いされない奴隷から敬意をもたれていても、自分の気概は完全には満たされない。そこで奴隷を人間まで成長させ、人間として成長した奴隷から敬意をもたれたいと思う。 支配階級の資本家や知識人が、被支配者階級である奴隷や労働者へ、積極的な啓蒙活動や教育を行うのがその例である。しかし、奴隷を成長させることは、反乱や革命を起こすだけの知恵や技術を与えるということであり、自分の支配体制を崩壊させることにもつながりかねない。主人は有能な労働者としての奴隷の成長を喜ぶが、同時に恐怖も覚えるというジレンマに陥る。支配関係であると同時に、師弟関係でもあることが、主人と奴隷の関係性の矛盾である。しかし、最後は主人の支配権の放棄と、奴隷の啓蒙によって、主人と奴隷の身分関係は消滅し、安定した関係が構築される。主人と奴隷の関係性の矛盾が、弁証法的に止揚されるのである。
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