ラマン効果とは? わかりやすく解説

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ラマン‐こうか〔‐カウクワ〕【ラマン効果】

読み方:らまんこうか

物質単色光当てたとき、散乱光中に当てた光のほかに波長異なる光が含まれている現象物質中の分子振動回転状態により、光がエネルギー付加または除去されて起こる。分子構造研究利用1928年ラマン発見


ラマン効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/20 04:14 UTC 版)

回折格子で分光したエタノールのレイリー散乱(最も明るい輝線)とラマン散乱(ほかの輝線).

ラマン効果(ラマンこうか)またはラマン散乱は、物質に光を入射したとき、散乱された光の中に入射された光の波長と異なる波長の光が含まれる現象。1928年インドの物理学者チャンドラセカール・ラマンK・S・クリシュナン英語版が発見した。

概要

ラマン効果は、入射するフォトンと物質との間にエネルギーの授受が行われるために起こる光の非弾性散乱である。ラマン効果による散乱光と入射光とのエネルギー差は、物質内の分子や結晶の振動準位回転準位、もしくは電子準位のエネルギーに対応している。分子や結晶はその構造に応じて分子振動や光学フォノンなど、特有の振動エネルギーを持つため、単色光源であるレーザーを用いることで物質の同定などに用いられている(ラマン分光法節参照)。

物質に光が入射すると,ある確率で散乱光が発生し,入射光とは異なる方向に進むようになる。このとき,散乱光のほとんどは弾性散乱(レイリー散乱)となり, 散乱された光子は入射された光子と同じエネルギー(すなわち同じ振動数, 波長, 色)を持つ。レイリー散乱は光源の0.1%から0.01%の強さで発生するが,さらに微弱な割合(1千万分の1程度)は非弾性散乱となり,入射する光子とは異なるエネルギーを持つ。これがラマン散乱である。エネルギー保存則から, この現象によって物質はエネルギーを獲得したり失ったりする。

レイリー散乱は19世紀に発見され説明された。ラマン効果はインドの物理学者チャンドラセカール・ラマンの名前に由来する。ラマンは1928年に, 彼の学生K・S・クリシュナンとともにこの現象を発見した。この発見によってラマンは1930年にノーベル物理学賞を受賞した。ラマン効果は1923年にアドルフ・スメカル英語版が理論的に予測していた。

歴史

入射光と等しいエネルギーの光が散乱光となる弾性散乱は,19世紀から知られるレイリー散乱に加え,1908年に発見されたミー散乱がある。

光の非弾性散乱は1923年にアドルフ・スメカルによって予言され, 古い独語文献ではスメカル・ラマン効果と呼ばれている。1922年, インドの物理学者チャンドラセカール・ラマンは「分子による光の散乱」という論文を出版し, それは最終的に1928年2月28日のラマン効果の発見につながった。ラマン効果の最初の報告はラマンと彼の共同研究者のK・S・クリシュナンによるものと、グリゴリー・ランズベルク英語版レオニード・マンデルスタム英語版がモスクワで1928年2月21日に出したもの (ラマンとクリシュナより1週間早かった)である。ソビエト連邦ではラマンの貢献は常に議論されてきた。従ってロシアの科学的文献では通常、 この効果は"combination scattering"や"combinatory scattering"と呼ばれている。ラマンは1930年に光の散乱に関する業績でノーベル賞を受賞した。

1998年にラマン効果は, 液体, 気体, 固体の組成を解析するツールとしての有用性が認められ, 米国化学会によってNational Historic Chemical Landmarkに指定された。

原理

ラマン効果は光と物質の相互作用に伴う光散乱現象のひとつである。下記のとおり古典論では分極率の変調による光周波数変化に対応するが、共鳴効果や選択則、強度などを考えるには量子論による取り扱いが必要である。

古典論

古典的には、ラマン効果は光が物質に入射した時、固体や分子の振動・回転等により光が変調され、その結果生じたうなりが、もとの波長とは異なる波長の光として観測されることに対応する。

一般に、原子・分子に光が照射されると、光電場によって電気双極子モーメント

ストークス・反ストークスラマン散乱過程と、レイリー散乱、赤外線吸収の各光学過程

量子論による描像では、入射光・ラマン散乱光の2個の光子により、振動準位が中間状態を経由して変化する。

このうち、振動基底状態から振動励起状態への遷移がストークス成分、振動励起状態から振動基底状態への遷移が反ストークス成分となる。このことから、ラマン散乱のストークス・反ストークス成分の強度比は物質が各々の振動基底状態振動励起状態をとる確率の比を反映することになる。

自然放出による自発ラマン散乱の場合、クラマス-ハイゼンベルク-ディラック(KHD)の分散式断熱近似Placzekの分極率近似より、ラマン散乱が起きる確率(もしくは強度)は、古典論における分極率テンソルの変調成分(上述のα1)に対応した量であるラマン散乱テンソルaで表される。ラマン散乱テンソルaσρ成分は次のように表される。

四塩化炭素のラマンスペクトル。ピークの各々が特定の分子振動に対応する。

ラマン散乱光の振動数と入射光の振動数の差(ラマンシフト)は物質の構造に特有の値をとることから、ラマン効果は赤外分光法と同様に分子の構造や状態を知るための非破壊分析法として利用されている。ラマン散乱と赤外線吸収の選択則は異なるため、赤外分光法とは相補的関係にある。しかし赤外分光法によって得られるのは吸収スペクトルであり、ラマン分光法で得られるのは散乱スペクトルであるので本質的に考え方は異なる。

現代では、光源として単色光であるレーザー光を物質に照射して、発生したラマン散乱光を分光器、もしくは干渉計で検出することでラマンスペクトルを得ることができる。通常、ラマンスペクトルは縦軸にラマン散乱強度、横軸にラマンシフト(波数、単位は通常cm-1)をとったグラフとなる。

超連続スペクトルの生成

高強度連続波(CW)レーザーの場合、SRS を用いてスペクトルを広帯域化することができる。この過程は、二つの入射フォトンの周波数が等しく、フォノンのエネルギー分だけ放射スペクトルが入射フォトンのものから二つのバンドに分かれているような、四光波混合英語版過程の特殊な場合と見ることができる。最初のラマンスペクトルは自発放射により生じ、その後増幅されていく。長い光ファイバー内を高いポンプレベルに保つことで、生じたラマンスペクトルを新たな出発点として高次のラマンスペクトルが生じていき、連鎖的に振幅を減じながらスペクトルが拡がっていく。最初の自発放射過程に起因する固有ノイズの不利は、最初のスペクトルに種を混入させたり、フィードバックループを共鳴器のように用いて過程を安定化することにより克服することができる。この技術は急速に進歩しているファイバーレーザー分野に適しており、ブロードバンド通信や撮像法における横コヒーレント高強度光源への需要のため、近い未来にラマン増幅およびスペクトル生成の幅広い応用が期待される。

出典

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参考文献

関連項目

外部リンク


ラマン効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/13 15:06 UTC 版)

シリコンフォトニクス」の記事における「ラマン効果」の解説

シリコンは、光子材料励起もしくは緩和対応してわずかに異なエネルギー有する光子交換されるラマン効果を示す。シリコンラマン遷移は、単一の非常に狭い周波数ピークにより支配される。これはラマン増幅のような広帯域現象には問題があるが、ラマンレーザのような狭帯域デバイスにとっては有益である。ラマン増幅とラマンレーザの初期の研究は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校開始され純利得シリコンラマン増幅器とファイバ共振器備えたシリコンパルスラマンレーザの実証つながった(Optics express 2004)。結果的に、全シリコンラマンレーザは2005年作られた。

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「ラマン効果」を含む「シリコンフォトニクス」の記事については、「シリコンフォトニクス」の概要を参照ください。


ラマン効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 04:39 UTC 版)

振動準位」の記事における「ラマン効果」の解説

既約表現指標表見て分極率がその点群において属す既約表現と同じであればラマン効果が起きる。つまり指標表のx2、y2、z2xyyzzx一つもしくはx2-y2が属す既約表現と同じであれば、その既約表現表される振動はラマン効果が起きる。

※この「ラマン効果」の解説は、「振動準位」の解説の一部です。
「ラマン効果」を含む「振動準位」の記事については、「振動準位」の概要を参照ください。

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