ギャグ化による衰退
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スポ根漫画の全盛期である1960年代には多くの読者の支持を得たが、その一方で精神主義や芝居がかった演出には当時から批判的な意見があった。1975年から1978年にかけて『週刊少年ジャンプ』で連載された野球漫画『1・2のアッホ!!』(コンタロウ)や、1977年から1980年にかけて『週刊少年ジャンプ』で連載された野球漫画『すすめ!!パイレーツ』(江口寿史)では、そうした批判的視点を背景に従来のスポーツ漫画にギャグ漫画の要素を取り入れ、スポ根的な価値観を風刺した。 1980年代に入ると、「直向きさ」「努力」「根性」といった価値観は格好の悪いもの、ダサいものとして見做されるようになっていた。1978年から1983年にかけて連載された格闘漫画『1・2の三四郎』(小林まこと)では、主人公・東三四郎が周囲から「直向き」や「熱血」と見られることを恥じて隠そうとする姿が描かれている。本作品の17巻では、主人公と仲間たちが『巨人の星』の登場人物の「互いの健闘を讃えあい涙を流す」姿に共感し涙を流したところ、ヒロインからそれを咎める台詞を投げかけられ、背を向ける姿も描かれている。これについて比較文学者のヨコタ村上孝之は『巨人の星』に「神聖さと滑稽さ」「理想と気恥ずかしさ」の相反する感情を抱くことは1950年から1960年生まれの読者に共有された体験であり、同作がひときわパロディの対象となった理由としている。 1984年に少女誌の『花とゆめ』で連載された野球漫画『甲子園の空に笑え!』(川原泉)では、かつてのスポ根漫画における「感動のあまり涙を流す」「仲間同士による抱擁」といった友情や絆を表す表現を「交感神経の異常」と冷めた視点でとらえ、努力や根性とは無縁の脱力的で寓話的な雰囲気のまま大会を勝ち上がる姿が描かれた。 また1980年代初頭のお笑いブームの際、コント赤信号やヒップアップなどのお笑いグループは学園ものやスポ根ものをコントに取り入れ、「不良生徒が教師に殴られて改心し、皆で夕日に向かって走っていく」や「瞳の中に燃え盛る炎」などのシーンを再現し笑いの対象としていたが、放送作家の高平哲郎は「こうしたコントで沸く若者も知らず知らず学園ものやスポ根ものに反発を感じていたのだ。いわば彼らにとって息抜きの場だった漫画なのに、父と子、根性、努力などを教育されてしまった反発がスポ根コントを笑える原動力となっているのだろう」と評した。 かつて一般大衆の価値観を反映したといわれたスポ根は、1970年代末から勃興したギャグ化の流れの中で嘲笑の対象となり衰退した。
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