カンヌ受賞をめぐって
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2018年5月19日夜(日本時間20日未明)、第71回カンヌ国際映画祭は閉幕を迎え、『万引き家族』は最高賞であるパルム・ドールを獲得した。日本人監督作品としては、1997年の今村昌平監督『うなぎ』以来21年ぶりであり、日本の新聞各紙はこれを快挙として5月21日付朝刊の1面で報じた。 その一方で、フランスの『フィガロ』紙は5月22日、「『万引き家族』 パルムドール受賞に日本政府の困惑(Une affaire de famille: la palme de l'embarras pour le gouvernement japonais)」という見出しの記事を配信し、「海外での受賞に賛辞を贈ってきた日本の首相は沈黙したままだ」と述べた。米国の『ハリウッド・リポーター』も5月31日、「日本の首相、カンヌ映画祭パルム・ドール受賞監督を冷たくあしらう」という見出しで同じ趣旨の記事を配信した。 安倍晋三首相は2017年に日系英国人作家のカズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞した際「ともに今回の受賞をお祝いしたい」とコメントし、2018年2月の平昌冬季五輪で羽生結弦が金メダルを獲得した際は「日本人として誇り」と首相官邸で電話する動画を公開していた。国民栄誉賞の表彰者も6人と最多であり(同年6月1日には羽生への授与を決定し7人となる)、歴代首相の中でもその祝福ぶりは目立っていた。さらに安倍は映画好きとしてつとに知られており、安倍昭恵夫人は数年前のインタビューで「主人は、政治家にならなければ映画監督になりたかった人なんです」と証言していた。『フィガロ』は安倍首相の「沈黙」の理由を「是枝監督が映画やインタビューで日本の政治を告発してきた」からだと推測した。 現代思想学者の関修は「カンヌ受賞は映画界で一、二を争う栄誉。クールジャパンを打ち出す日本の首相が、他国の文化や芸術を評価する知識や教養を持たないことに、フィガロは怒っているのではないか」と述べた。 同年6月7日、参議院文部科学委員会の質疑で、立憲民主党の神本美恵子議員は「首相は国際的なスポーツや文化の賞を受けた人を祝福しているが、是枝監督には祝意を示していない。好きな人しかお祝いしないのはいかがなものか」と指摘した。これに対し、林芳正文部科学大臣は「大変いいアイデアをいただいた。来ていただけるかどうかわからないが、お呼びかけはしたい」と答弁した。 同日、是枝は「『祝意』に関して」とする文章を自身のサイトに掲載。受賞を顕彰したいとする団体や自治体からの申し出を全て断っていると明記し、「公権力とは距離を保つ」として、祝意を辞退する考えを明らかにした。林は直接会って祝意を伝えようと、文化庁を通じて是枝に接触を図ったが、是枝は多忙を理由に面会を辞退した。 『万引き家族』は7月4日までに観客動員265万人、興行収入32億円を突破。パルム・ドールの受賞がなければ、収益は7億円前後と予想されていたことから、カンヌの効果は絶大であった。 是枝は「通常の枠を超えて多くの方にも届いていることについては前向きに捉えている」とコメントをした。
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